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第四話 酒場の喧騒 ~立ち上がれ、海の男よ!~

 あれから三日。私は素敵なひと時を彼と過ごした。

 彼は私を一等航海士に仕立て上げようと、航海術と呼ぶべき代物を仕込んでくれたのだ。

 当然、生半可な知識や技量では、大鷲のエルドレッドのサポートはできない。だから私は頑張った。親に命令され、殴られて嫌々やっていた騎士の勉強とはまるで違うが、私は持てる力の全てで取り組んだ。

 それで私は、自ら進んで学ぶという大切さを知った。興味があることならば、私は全力で取り組めるのだということも知った。

 そんなこんなで、彼が与えてくれた航海に関する知識全て……本当に、全てだ。全てを私はマスターした。彼は「君は海賊向きの頭じゃない。学者か国王にでもなったほうが良いんじゃないか?」とまで言ってくれたが、私はこう切り返した。

「私、貴方に教えてもらっているから覚えられたのよ」

 と。

 そうしたら案の定、彼と私はまた情熱的で、凄絶な一夜を過ごした訳だ。

 素敵な三日間の最後には、彼は銀で出来た懐中時計を私にプレゼントしてくれた。もう、涙が出るくらい嬉しかった。今でも見るたび嬉しさがこみあげてくる。

 その、彼から貰った大切な懐中時計を私は胸の谷間から取り出し、時間を見た。

 時刻は夜の八時だ。

 ネルル島の漁師は夜に漁にはでないので、港の方は活気があまりない。

 大体交易船と言うのは昼頃にやって来るのだ。

 だが、ここ『ウミネコ亭』はそんな活気のない港と対照的だった。

 昼の港よりも騒がしいと思えるほど、ウミネコ亭の内部は騒がしさで満ちていた。

 今日、私たちは新たな仲間を募集するため、私たちの船を頂戴するための計画を為す人物を探しに来ていた。

「マスター、ラム酒をくれ。二つだ」

「あいよ。金を寄越しな」

 無愛想なマスターは彼が投げた銅貨を見事にキャッチし、代わりにラム酒をジョッキでくれた。

 二つだ。

「これから仲間を集めるのに、お酒を飲むの?」

「だからこそ、だ。俺は酒が無いと調子が出ないんだよ」

 そういうものなのだと私は思うことにした。

 なにせ、航海術を教えてくれている彼は常にラム酒を煽っていたからだ。

 だが、泥酔しない。彼はかなり酒に強いようだった。

「それで、これからどうするの?」

「今日は仲間を集めに来たんだ……だから、こうする」

「ちょっ」

 彼はジョッキに入っていたラム酒を一気に飲み干して、船乗りたちが陽気に騒いでいる真っ只中に突っ込んでいった。

 机に飛び乗り、大声で叫ぶ。

「俺は、キャプテン・エルドレッド!! これから俺は莫大な財宝を得るために航海をする!! 今日、居合わせた幸運な紳士淑女のお前らに朗報だぞ、なんと、この俺、大鷲のエルドレッドは共に航海する為の仲間を募集する! さぁ、命が惜しくない、金に目のない海の船乗りたちよ、我こそはと思う者は名乗りを上げよっ!!」

「……」

 一気に酒場の温度が冷えたように感じた。

 その次の瞬間。

「「「「「オォォオォオォオオオオオオ!!」」」」」

 割れんばかりの大歓声がエルドレッドの周りで沸き起こる。

「あいつ、腰に黄金の銃をつけてやがる! 間違いなく、あの大鷲のエルドレッドだぞ!!」

「私、ああいう男に惚れるわぁ~!」

「莫大な財宝!? あの男について行けば一生遊んで暮らせるぜっ!!」

「一年前に姿を消したと思ったら、まだ生きてたのかっ!」

「キャプテン! 俺は一生あんたについていくぜぇええ!」

 次々と興奮したかのように周りが沸き立っていた。

 おかしいと普通の人は思うだろう。

 なにせこのネルル島は海賊を嫌う傾向があり、ここに居る全員が全員、漁師や交易船に乗船している輩なのにもかかわらず、この熱気。

 だが、彼は別格だ。

 まさに最強の海の男。

 エルスト海の伝説の海賊、キャプテン・ジョシュアの右腕とまで呼ばれた男は、こんな辺鄙なネルル島になど来ないだろうと皆が思っていたに違いない。

 しかし、その彼が来た。

 日々の暮らしにうんざりしている者、莫大な富や名声を得るために海賊を目指したが、あえなく失敗したもの、そういう者が最近多くなっていたため、このウミネコ亭に立ち寄った者はエルドレッドの出現に歓喜したのだ。

「では、俺の仲間に成りたいものは一人一人、俺の右腕にして、一等航海士のリッカと話をしろ! リッカを納得させるために、俺への忠誠心、仲間を裏切らない心、なにより船乗りとしての心構えをリッカに見せつけてやれ! 俺は待っているぞ、最高の仲間たちと共に、全てを略奪し、全てを殺し、全てを手に入れるその時を!!」

「えっ、えっ、ちょっとまってよキャプテン!」

 なんという事だろうか。

 面倒なことを私に全部任せてきた。いや、それほど私は信頼されているのだろう。

 そう思い直し、私は誇らしげな気分になったが、それに浸っている余韻はない。

「さあ順番にならびやがれ、野郎ども!」

 いつの間にか私の隣に来ていた彼は、鼻息荒い男たちを一声で整列させた。

 彼は私に向かって笑顔で言う。

「俺にかかればこんなもんさ」

「上限は何人? キャプテン」

「昨日の夜見てきた『クリムゾン・ブラッド号』は、最高で50人生活できるくらいのスペースが船倉にありそうだったな」

「じゃあ、目標は40人くらいね?」

「そうだな。リッカは俺の言った通りに採用か不採用か決めてくれればいい。俺の人を見る目は確かだからな」

 彼の言葉に私は頷いた。

「分かったわ」

「よし、じゃあ始めるぞ!」

 彼はどこからか持ってきたラム酒を飲み、不敵な笑みを浮かべた。

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