第十四話 捜索開始
「おい、起きろ健太郎!」
「んぁっ!? なんだよ玲音、どうしたんだびっくりするだろ!?」
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、慌てふためいた様子の玲音を見つめた。
いつも冷静沈着な玲音がここまで取り乱すとはかなり珍しい。
「どうしたもこうしたもあるかっ、天月が海賊に攫われたんだよ!」
「おいおい、ちょっと落ち着けよ玲音」
訳が分からない上に、まったく状況が呑み込めない。
俺が呆けた顔をしていると、玲音はチッ、と舌打ちをした。
「なんでわからない!?」
「なんでもクソもあるかよ。起き抜けにいきなり叫びやがって、もっとゆっくり説明してくれ」
「~~っ、くそ、分かったよ説明してやる! 昨日、紅血騎士団の連中が俺とお前と二宮に内緒であの海賊エルドレッドを捕まえに行ったんだ。天月と一緒にな!」
こいつは驚きだ。あの騎士団の連中が俺たちに内緒で天月を連れ出して、なおかつエルドレッドを捕まえるために天月を利用したなんて。
「その捕まえに行ったはずの天月が戻ってこなくて、あまつさえエルドレッドに天月が攫われたってことか?」
「そうだっ! 早く支度をして、天月を取り返さないと」
俺の頭を電撃が駆け抜ける。
天月は顔もいいし、体つきもかなり良い方だ。エルドレッドなんて悪党に渡そうものなら、よからぬ事に使われるに決まっている。
俺は玲音をなだめつつも出来うる限りの速度で準備をして、宿屋の一階のホールに集まっていた騎士団の連中のところまで駆け付けた。
「申し訳ありませぬ……私があのようなことをしたばかりに……!」
騎士団長さんが駆け付けた俺たちを見ると、深々と頭を下げた。
――だが。
「頭を下げた所でなんの解決にもならないぞ、団長さん! はやく逃げた奴らの後を追うんだっ!」
そう、こんなところで俺に謝ったり、皆に謝ったりしてる暇なんて一秒もない。
早く天月を助け出してやらないと、最悪な事態になりかねない。
俺が船の方へ駆けだそうとすると、後ろから団長さんの悲痛な叫び声が聞こえた。
「し、進路が解らないのです……、奴らがどこに向かったのかが」
なんて使えない騎士団だ。仮にも世界を救おうとしている勇者一行であれば、すぐに悪者の居場所が分かって当然だろうに。
そんな時、支度を済ませてきた二宮があわてた様子で声を発した。
「わ、私わかります! 夕華の居場所」
「二宮殿……!? そ、そうか、二宮殿はお仲間の位置が瞬時にわかるのでしたな!」
「でかした二宮! さぁ、団長さん、急いで天月を探しに行こうぜ!」
疲労困憊、と言った様子だった騎士団が段々と士気を取り戻していく。
これならすぐにでも二宮を探しに行けそうだ。
乗ってきた船に乗り込むと、騎士団の下っ端達がすぐさま出港の準備に入る。補給などはしっかりしておかないと、いざ戦闘になった時に火薬が足りなくなると悪いので、念入りに準備をしているようだった。
俺と玲音と二宮は当然、船長室に案内された。
海図が拡げられている。もちろん、地球の地図のように世界全土が記されている訳ではない。この近辺の海域だけだ。
「エルドレッドが目指している場所はどこなのでしょうか?」
「この島に近づいてます。一直線に移動してるみたいです」
彩音はそう言いながら海図上のある一点――ヴェイリンという島を指さしていた。
「くそ――海賊風情が。我が騎士団のクリムゾン・ブラッド号を強奪し、さらには海賊行為に必要なものを揃えに行く気か」
団長さんが悔しそうな顔をしながら呟いた。
「ヴェイリンってどんなところなんだ? 海賊たちのたまり場かなんかなのか?」
「ああ、それ俺も気になってた。どういうところなんですか団長さん」
俺の言葉に玲音も同調して、団長さんへ問いかける。
「ヴェイリンとは我が国の交易における拠点都市です。色々なモノが集まり、かなり商業が盛んな場所です。だが、同時によくないものも集まりやすい。海賊もそのうちの一つと言ったところですな。取り締まっても取り締まっても湧いて出てくるものでですな――もう何人の海賊を縛り首にしたことか」
ははは、と団長さんが笑うものだから、俺もつられて笑ってしまう。
「それじゃあ、その縛り首にした海賊と同じ様に、エルドレッドも縛り首にするぞ!」
俺が勢いよく言うと、騎士団の連中は応、と声を上げた。