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ベータ02 西へ。

 西へ行け。と言われて俺、今の体じゃ「アタシ」かな? まあ何でもいい。とりあえず俺は西へ向かっているわけだが、旅支度をするときの興奮っていえばなかった。白衣のまま冒険には出れないし、長旅をするにはそれなりの恰好が必要ってわけだが、今の俺は麗しい天使だから着替えるのは厄介だ。いや厄介じゃない、俺は何度でも着替えたくなったわけだし、実際鏡には世話になった。自分の体に興奮する変態ってとこだが、今の俺の顔と体だったら変態でも許されるだろうさ。自己性愛で自己陶酔。ナルシストって言葉があってるかどうかは知らないけど、まあそんな話はどうでもいい。俺はとにかく西へ旅立つ。別れのとき、あの元兵士は言った。

「お前は罪を償いたいと言った。だがベータ、罪は償えないものだ。その代償はとてつもなく大きいが、小さなことの積み重ねでその大きさにたどり着くことはできる。お前ならできるはずだ」

 意味不明な寝言だ。

 俺は無視して旅立った。

 何にを置いても不思議なのはベータ・ソリア、これがこの女、つまり俺の本名だとさ、それはいいとして不思議なことは、ベータ・ソリアが何者かってことだ。西へ行く? 故郷を見て、罪を償いたいだと? ファンタジックな世界の中で、彼女は何をやらかした。白衣の天使は純粋な精神をもっていたわけじゃないらしいな。俺の記憶をめぐる旅のはじまりだ。もちろん俺の記憶じゃないけどな。


 旅立って、山を越えた。この異世界はどこもかしこも大自然だ。なんて思っていたら違ったよ。ふとしたところに民家があって、だんだんその数が増していって、最後には街になった。ヨーロッパの田舎町って感じの場所だ。素朴なところがいいって褒めるけど、その実は陰湿ないじめがあったり地域同士の確執があったりする何とも嫌な想像が可能な感じだが、それはどうでもいい。俺の勝手な想像だ。一応市場があって果物や野菜を売っている商人がいた。まさにファンタジー世界の商人さ。俺は美しいスタイルのバックパッカーだったから背中の護身用ナイフは別にして水筒とか地図とか、あるいは日除けの布とか、そんなものの他にもっと大事なものが欲しかった。食料だ。

 商人はケケケと笑って不思議なキノコの盛り合わせを見せた。

 マジックマッシュルームみたいな出来で、要するに毒キノコかもしれない。

「あんたベッピンさんだから、ケケケ、特別に4メタルでいいよ」

 と商人。メタルってのはこの世界の貨幣だ。何だか知らないが一種のレアメタルらしい。俺の元いた世界でいうところの金みたいなもんだな。金、ゴールド、金と書いて「かね」と読む。笑えるな。金と書いて「きん」って読むのがふつうだぜ? でもこの世界じゃメタルと書いて「かね」と読むんだ。

 俺はキノコをぶら下げて市場をあとにしたんだけど、その背後に殺気を感じてね、すぐさま振り返ると、裏路地に人影。怖くなったから引き返そうとしたけど時すでに遅し。俺は数人の男たちに引っ張られて裏路地行きさ。


「ベータ。どの面下げてこの街を歩いてる!」

 と男1。

「アウトライダーは裏切りを許さねえ」

 と男2だ。

 そのほかにも男は3、4、5といたがどいつもこいつも凶悪な面だった。俺はビビりながら返答に困ったよ。そりゃそうだろ? アウトライダーだか何だか知らないが、裏切ったとか何とか、何もかもこの女がやったことで、俺は何も知らないんだから、そのことで脅されても答えようがないってわけさ。

 と、たじろいだ矢先、俺の体は無意識のうちに反応した。この女は敏感なんだな。変態的な意味じゃなくて戦闘的な意味でさ。すさまじい速さで男12345を瞬殺だ。首の骨を折って、内臓に一撃をくらわし、喉を潰して、脳天キックだ。俺は自分の動きに驚いて腰を抜かしそうになった。笑わせるな。腰の骨が抜けて死んでるのは男4だ。

 屍が転がる裏路地を抜けて、表通りを走った。

 この世界に警察があったとすれば俺は殺人罪で逮捕だよ。もっと悪ければ即時処刑。やめてくれよな。この一件、俺には関係ないんだから、関係あるのはベータ・ソリア、金髪琥珀眼のグラマラス、白衣の天使は殺人術の爪を隠す――っていえばかっこいいけど、俺にとっちゃ厄介ごと以外の何者でもない。

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