アルファ02 決意。
俺はすべての事情を説明した。ネッガーは信じなかった。敵にやられたときに頭を打ったんだろうってな。それが普通の見解だろうが、俺だって他人からそんな話をされたら、そう答えるさ。でも、今は事情が違う。俺は他人じゃないし、これは俺の問題だ。マジな話で、ガチの問題なんだから、俺はアルファとかいう戦士に転生して龍の紋章のある剣を差している。ファンタジーだよマジにね。
「アルファ・スペックス」
とネッガーは言った。俺が俺の名前を聞いた答えだ。アルファ・スペックスってのが俺の名前で、つまりこの白人おっさんの名前だ。間違うなよ、俺の名前じゃない。
「優秀な戦士。歴戦の英雄。あらゆる武器を使いこなし、潜入、暗殺、奪還、逃亡、さまざまな戦いに負けたことはない。それがお前だ。アルファ」
とネッガーはつづけた。
村の中を散策し、村人とすれ違うたびに敬礼された。
「ここはどういう村なんだ?」
「本当に何も覚えてないのか? アルファ。冗談はよせ」
「冗談言ってる顔か?」
「アウトライダーだよ」とネッガーは深刻な顔。
「アウトライダー?」
「盗賊集団だ。アルファ、お前の敵だぞ! 帝国と異人の戦争がやつらを盗賊から一大国家へと変貌させた。十年前まではただのゴロツキだった連中が今じゃ軍隊を持つ大勢力だ」
「何だよそいつら? 泥棒から大出世だな」
「強盗、略奪、拉致、誘拐、監禁、殺人、破壊工作、大虐殺、アウトライダーは極悪非道の狂人どもだ。俺の故郷もやられた、それに――」
「それに?」
「お前の故郷だって焼き尽くされたんだろ! それさえも忘れたか! アルファ!」
ネッガーの激しい叱責だって俺にはチンプンカンプンさ。とにかく手を離せって俺は言った。
「この村は最後の希望だ。故郷を失い、家族を失った者たちが集まって自給自足の暮らしをしてる。人生の多くを失ったが、未来まで失うわけにはいかないからな」
「なるほどな」
つまりここは難民キャンプみたいな場所だ。戦争やテロの脅威から逃れ、何とか生き抜こうと必死に頑張る哀れな人々。ニュース番組やネットの動画でしか見たことがなかったが、今、俺はそういう場所にいる。
実際に彼らと話し、汗のにおいを嗅ぎ、泥の味を味わうと、悲劇が現実なのだと実感できた。中二病の俺はそういう光景を想像するのが得意だから、つまり俺が歴戦の英雄なのだとしたらさ、剣を振るうことで彼らを助けられるのだとすればな、立ち上がらない理由はないって話で、
「戦おう」
と俺は言った。
ネッガーやアルティーク、村人たちは安堵の表情をつくっていた。俺の記憶喪失が回復したと思ってるんだろうが、そうじゃない。俺はまだアルファ・スペックスには戻っていない。そうじゃなくて、俺はただ俺として戦うことを決意しただけのことだ。