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ベータ01 転生。

 俺は目を開けた。というよりも視界を手に入れたって感じだ。そうなってはじめて意識不明だったってことに気付く。「意識プッツリ病」の俺は子供のころからそうだった。意識が回復した瞬間に「ああ意識を失ってたんだな」って気付くものさ。じゃあここはどこだ? 記憶の再構成は一瞬だ。人間の頭脳ってやつは超高性能だと実感するさ。俺は国語の授業を受けてたし、意識を失っていきつく場所なんて保健室に決まってる。そうかい、なるほど目の前には白衣の天使がいるわけだ。蛇がからまりつく十字架のエンブレム、金髪を後ろに束ねた髪。琥珀色の目に透き通る肌、頬は赤らんで、唇はトマト。

 保健室の先生にしては可憐すぎるし、美しいオーラはまるでフランス映画。たとえばパリの安アパートに咲く一輪の花みたいな保健室の先生がいたとしよう。誰だって同じことを言うはずだ。

「あなた保健室の先生じゃないですよね?」

 もちろん俺は言ったさ。言ったんだよ。まったく馬鹿げてるってことだな。俺の目の前にいたのは白衣の天使なんかじゃなく、そこには大きな鏡がかけてあったんだ。鏡に質問した俺は次の瞬間にすべてを疑った。

「これは鏡――ってことは――」

 わかるだろ、俺の言いたいことが。

 わからないわけはないよな。当然さ。

 フランス映画のヒロインは、つまり白衣の天使、鏡に映った俺の姿だったんだな。

 部屋を飛び出した俺はそこが西洋建築の館だと知った。おそらくは病院なんだろうが、神の愛と患者への愛が融合してる。わかりづらい言い方だな。つまり宗教と治療が結婚してるんだ。要するに中世ヨーロッパの教会みたいな場所だ。神の慈悲を体現するために負傷した兵士や不治の病人を介抱する場所。俺は白衣の金髪美女のまま廊下を駆け抜けた。ナイチンゲールの恰好で扉を蹴破ると外は圧巻の美景。そよ風に揺れる草原、その丘と青い空、雪の残る山々、鳥の群れ――。ヨーロッパの原風景は深夜テレビでしか見たことがなかったから俺は呆気にとられた。すると、

「どうしたベータ」

 と背後から声。振り向くと一人の老人。濁った目、そして十字架の刺青。

「な、なんですの」

 と女言葉で返した俺。

「ベータ、ここはもう終わりだ。お前のように若い女がこんな場所に長くいてはいけない。お前に必要なのはこの牢獄から抜け出すことだ。死と病と血、そして闇」

「そ、そ、そうですわね」

「ならば決意したのじゃな。よかった。これで私も安心できる。心の安らぎだ」

 俺は女言葉で何語かつぶやいた。すると老人の正体がわかった。彼はこの教会を建てた元兵士。幾度となく殺人を重ねてきた償いとしてここをつくったという話。十字架の刺青は少年時代ギャングだった頃のものらしい。

 そんなことは実際どうでもいいわけだ。誰が何を思おうが、何をしようが関係ない。俺にとって一番関係があることは、俺の身に何があったのかってことだ。

 どうして俺は白衣の天使のベッピン美女なのか。顔を下に向ければ足元が見えないくらいの巨乳。そしてヒップ、ほどよい筋肉とふくよかな脂肪。何といっても香しい芳香!

「ならばベータ」と老人は言った。

「な、何?」

 と女言葉を忘れた俺。

「西へ行け。お前の故郷がある。そしてここには二度と戻るな」


 話を整理する必要がある。俺は女。名前はベータ。若干の医療技術とグラマラスなスタイルを誇る。最後のが一番いいね。鏡を忘れるなって話だ。俺にとって鏡さえあればいつでもどこでも「お楽しみタイム」ってことで、まさに悠々自適の素敵な「ひとり遊び」じゃないかい、なあ!

 ともあれ俺は自身に起きた怪現象を解明すべく、とにかく西へ向かった。

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