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アルファ01 転生。

 気付いたらそこは森の中だった。暗く深く、そして美しい森。俺は退屈な教室からテレポートしたらしい。と自分の体を見て驚愕。おかしな甲冑を着ている。未来的でどことなくノスタルジック、古風でいて斬新、要するにファンタジー的な衣装。待ってくれ、待ってくれって、さすがの中二病患者でもこれはダメだ。学芸会じゃないし、劇団員でもないわけだ。にしてもよくできた衣装。ハリウッドのデザイナーよりも精巧につくられてる。腕をまくってみてまたも驚愕だった。俺の腕は傷だらけ。擦り傷や刺し傷、あげくは切り傷、傷の博覧会はとまらずについに胸や腹まで見てみると、深く大きな傷が全身にあった。どれも鋭利な刃物や鈍器による損傷、戦争の帰り道って感じの出来栄えだった。特殊メイクにしちゃやりすぎだしリアルすぎて気持ち悪いレベルだぜ――とため息。ため息は中二病の悪い癖だけどな。俺は俺に酔ってるから、最後までやっちまうのが俺さ!

 古傷を押すと若干の痛みがあって、俺は酔いから覚めた。どうやら傷は本物。ってことは「何で俺は傷だらけで森にいるんだよ!」である。人生に答えなんかない? 世の中に正解などない? 確かにな、だけど俺にとっちゃ、何よりも欲しいものが「答え」であり「正解」なんだよ。何よりも知りたいのは、っていうよりか、誰だってそうだろ? こんな状況になってみろよ。みんな同じことを思うはずだ。

 ここはどこだ。俺はどうなった。


 答えを知るきっかけ、かどうかは知らないが、森を歩いていると一筋の光が見えた。そして地面を踏む軽快な音。馬の蹄。一頭の白馬とそれに跨った人影。俺は身構えた。そして気付いたのさ、俺の腰には龍の装飾が彫られた剣が差してあるってことにさ。鞘から抜き払って、思わず構えても騎手はとまらない。それどころか俺を見るなり鞭を打って急接近。

「アルファ!」

 と騎手は言った。

 俺は剣を持ったまま茫然だ。騎手はケープから顔を出したんだけど、その顔は花が咲いたように綺麗な女。つまり南フランスの海岸に咲き誇る赤や黄色の花々みたいな、中二病的なたとえについて来られるか? まあ俺は茫然から覚醒して剣を置くなり膝をついたのさ。そして騎士のように忠義の礼をした。

「アルファ! あなた生きていたのね!」

 と女。俺は顔をあげた。

「アルファ? お、俺の名前、ああ、いや、我が名でありもうすか」

 ってな感じでシドロモドロだ。わかるだろ?

「とにかく村に戻って! 傭兵隊は全滅したわ。あなただけよ!」

「え? な、何の話、ああ、いや、なぬ、何の話であるか?」

 まあ俺の時代劇的な会話は全部無視されて、女は俺を馬の背に乗せると早駆けで森を抜けたんだ。

 俺は目を疑った。ハリウッドのオープンセットでもこれだけの規模の風景をつくるのは不可能だ。CGでもなきゃ絶対不可能な世界が俺の眼前にひろがった。森を抜けた先には広大な草原があって、青い空には真っ白な雲、遠くには奇妙な形の山脈が連なっていた。イギリスの原風景とアイスランドの大自然をCG合成させたみたいな感じだな。

 そんなこんなで見たこともない景色の連続を過ぎると、村に到着した。

 半壊した石積みの城壁。その周りに立ち並ぶ木造の家々。柵の中には豚や羊が鳴いていた。そこに住まうケルト衣装を着た老若男女。

「何だよこのドッキリ。規模でかすぎるだろ」

 と俺が言うと、

「アルファ、生きていたか」

 と肩を叩いたのは筋骨隆々の男。左目に眼帯をつけた山賊のボスみたいな野郎だった。

「ネッガーはあなたが死んだと思って一人で最後の突撃を仕掛けようとしてたのよ」

 と彼女が言った。

「アルティーク、余計なことを言うな」

 と二人の会話を聞けば、山賊野郎の名前はネッガー、美女の名前はアルティーク。でもって俺の名前は――アルファ?

「さあ戦士の休息だ。アルファ。祈りの家で命に感謝しろ」

 とネッガーにうながされて祈りの家ってとこに案内された。黒い礼服を着た老人がいて彼は龍を象った杖を持っていた。

「アルファよ。ここは安息の地、大いに休むがよい」

 そう言われて家の中に入り、大きな祭壇の横にある鏡を見て驚愕。そこに映っていたのは俺じゃなく、銀髪の白人おっさんだった。目はスカイブルー、鼻は高くて、唇は薄く、刻まれた皺と傷は歴戦の跡――。

「人の顔整形してまでドッキリかますなんてタチが悪いなんてレベルじゃねーぞ!」

 と叫んだ俺にネッガーは笑った。

「何だおい、アルファ、戦いの恐怖でおかしくなったか? お前らしくもない」

「あのな、あんたらどこの劇団から雇われた俳優か知らないが、ちょっとばかしやりすぎなんだ――って、まさか、これって――」

 俺はふと思いついちまったんだ。

 そうなりゃあとは想像力が押し寄せて、ひらめいたアイデアの洪水に脳内は圧倒される。

「これって、まさか、まさかな――、でも、そうとしか思えないもんな――」

「どうしたアルファ?」

 俺は、俺はさ、

「転生したんだ」

 そうとしか思えないだろ?

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