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青い鳥への贖罪 第2話


 それから三日後、事件は起きた。


 女子高校生が部活後に一人で居残り練習中に死亡。なんでも、警備員が見回りに来た時にはもう、息絶えていたらしい。そして、その被害者は――私の通う高校の人だった。


「ねぇ、聞いた? 死んでたの、隣のクラスの浅井久美子あさい くみこらしいよ」


「聞いた聞いた。3―Cのでしょ? なんでも、青い羽根握りしめて死んでたらしいね。意味深っぽくない?」


 周りの女子がひそひそと繰り広げる会話を聞き、日誌を書いていた手が止まる。


(青い羽根――)


 その時、突然鳴ったバイブ音に驚き、ビクッと肩を震わせた。何事かと鞄の中から携帯を出すと、新着メールが届いていた。


(? 知らないメアドから……?)


 不審に思いながらも、件名を確認する。


『件名:樋山です』


 思わぬ件名に、手汗で携帯を取り落しそうになりながらも、慌ててメールの内容を確認する。


『突然すみません。今日の放課後、お話があります。青鳥公園まで来てくれませんか?』




        ✜ ✜ ✜




 坂の上にある青鳥公園に着くと、学ラン姿の樋山がすでにベンチに座っていた。軽く談笑した後、樋山が少し硬い表情で語り出した。


「もう知っているかもしれませんが、昨日亡くなった浅井さん――『幸せの青い鳥』の管理人だったみたいなんです」


 樋山がフェンス越しの街を眺めながら言葉を発する。


「それ…………本当?」


「はい」


 短い返事ながらも、確信を秘めた彼の言葉に、私は何も言えなくなった。


「あの、呪いって――いや、やっぱり何でもないです」


 彼はふと悲しげな表情をした後、緩く首を振った。

 そして、再びこちらを向いた時、彼は笑顔に戻っていた。


「すみません。たったこれだけの話をするためにこんな所にまで呼び出してしまって……」


「いや、むしろ私からお礼を言わせて。人にあんまり聞かれたくない内容だし……ね」


 私は樋山の笑顔から目を背け、夕焼けに染まっていく街を見つめた。無理に笑っている彼の姿に、胸が痛む。


「それじゃあ私、帰るから。教えてくれてありが――」


「あ、あの!」


 ベンチから立ち上がりかけた私の腕を掴み、樋山が大きな声を上げた。


「俺、高一で頼りないですけど……頼って下さい。一人で全部抱え込まないで下さい」


 樋山の真剣な声に、思わず息をのむ。


「真紀さん、あなたは誰よりも紗代の事――」


「離して」


 樋山の声を遮り、私は彼の手を振り払った。


「私は…………一人で大丈夫」


 樋山の優しさに思わず泣きたくなる。でも、優しくしないで、私に構わないで……。

 そう、私は一人で大丈夫。

 私は自分に強く言い聞かせながら、樋山に背を向けて歩き出した。


「その……真紀さん。最近は色々と物騒なので寄り道せず、真っ直ぐ家に帰って下さいね」


 樋山の心配そうな気遣いある声に、思わず歩みが止まる。


「……ありがとう」


 私はそっとお礼の言葉を口にし、樋山の優しさを噛み締めた。


 急な土砂降りのせいで混雑してしまったバスから降り、闇が濃くなっていく中、いつもの帰宅ルートへと戻る。まあ、急とは言っても、天気予報の通りだったのだが……。


「天気予報……か」


 傘に当たる雨粒の音を聞きながら、私は思わず呟いた。私の声は周りの雨音にかき消されてしまったが、浮かんできた懐かしい記憶は、色あせることさえしてくれなかった……。


 紗代はいつも天気予報を気にしていなかった。だから、私が紗代の天気予報士。今日は雨が降るから傘を持った方が良いとか、今日は紫外線が多い日だから日焼け止めはきちんと塗った方が良いとか、色々世話を焼いていた……。懐かしい記憶を思い出したせいで、心が余計に軋んだ。


(帰宅しても紗代がいない……)


 その事実が、家へと帰ろうとする私の足を重くする。

 中学、高校は違えど、家では毎日一緒だった私の妹。両親が仕事人間のせいで、家では私と紗代、いつも二人きりだった。まあ、最近は紗代との間に距離を感じ、ほとんど話してはなかったけど……。

 それでも、私にとって紗代は大切な存在だった。


「なんで死んじゃったの……紗代」


 街灯の頼りない灯りが涙で歪む。

 いつの間にか雨は止んでいた……。


(ねぇ、神様――幸せの青い鳥が死んでしまったら、どうしたら良いんでしょうか?)


 私は、暗い気持ちのまま、誰もいない家に帰宅した。


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