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bittersweet diary

作者: 三笠言成

恋愛ものです

経験ないなりに頑張りました

十一月四日


 今日から日記をつけようと思う。初日の今日は、思い至った経緯を書こう。これから先やめたくなることもあるだろうが、その時は日記帳一ページ目のこの部分を見て初心を思い出せるように。

 十一月四日はきっと僕にとって一生忘れることのできない日になる。

 今日ついに、狭山雫さんに告白して、オッケーをもらった。

 これまで過ごしてきた灰色の高校生活ともいよいよお別れ、明日からはバラ色の毎日になるだろう。

 そういえばメールや電話ってどのくらいの頻度でするべきなんだろう?



十一月五日


 今日も僕の一日を綴ろう。

 一番の出来事といえば、狭山さんと一緒に帰ったこと。さすがにまだ手もつなげないし、会話を滑らかに続けることもできなかったが、それでも終始狭山さんはにこにこしていた。

 その笑顔を見るたびに、告白してよかったとしみじみ感じるのだ。

 そういえばまだ誕生日も聞いてなかった。よく考えたら彼女のこと、全然知らないな。

 これから知っていこう。



十一月六日


 三日目だ。今日書ききって明日書くのをやめたら典型的な三日坊主。

 典型的な、で思い出したが英語でいうtypical 素直に訳したら典型的な、だがどうやらネイティブのアメリカ人は普通の~というときもその単語を使うようである。

 そうそう、ついに誕生日を知ることができた。狭山雫の誕生日は一月の十四日らしい。それまで別れるわけにはいかない。

 そしてそれまで絶対日記を書き続けよう。

 あれ、ということは一月二月そして三月。どの十四日も僕らにとってイベントのある日になるのか。

 バレンタインデー、今年はひもじい思いをしなくて済むんだな。よかった、よかった。



十一月七日


 万歳脱三日坊主。三日坊主とよく言うけれど、しかし僕は二日目のほうが危ない気がする。三回続けたらもうやるしかないって気になるけれどまだ一回しかやっていないとなると引き返せるから。

 閑話休題

 今日数学で微分を習い始めたのだが、なんだ思ったより簡単じゃないか。というのが感想である。

 ……しかし、対数の時も確立の時も初めは簡単だったような気もする。ああ、受験生になりたくないなあ。

 でも、受験シーズンはもしかして二人きりで勉強会とかするのか?

そういえば彼女は理系教科にすごく強いと聞いた。

それならはやく受験生になりたいな。カモン受験生。だめだそれだと三年生がここに来ちゃう。



十一月八日


 「ねえ、藤川君。」

 出だしはこんな感じだったと思う。

 「いつになったら、私のこと雫って呼んでくれるの?」

 「……」

 上目遣いで尋ねるように言い放ったその言葉にときめかない男子はいない。

 ちょうど、僕自身狭山さんって呼ぶのはよそよそしいと思っていたところだったのでこの提案は願ったりかなったりだった。

 というか本来そういうのは僕から切り出さないといけないのに。

 しかしその旨を伝えると彼女は笑顔でこう言ってきた。

 「ううん、私は君のちょっと奥手なところも含めて好きなんだから。変わらなくていいよ、春翔くん!」

 彼女の二人称を変えたことで僕の二人称も変化した。

 死ぬかと思った。

 これが、恋愛か。



十一月九日


 二人称の変化とともに僕たちの距離の幾分か近づいたように思う。

 まだ手は握れないが。

 そしてついに明日は初デート。色々書きたいこともあるが、デートスポットを調べないといけないので今日はこのくらいで終わることにする。



十一月十日


 今日は雫の妹に会った。

 それはつまりどういうことか。

 そう。本日十一月十日、僕は彼女の家に行ったのだ。

 今日は日曜日。昨日は学校で模試があったのでどこにも行けなかったが、今日は念願の初デート。

 前日…つまり昨日。昨日の分の日記を書いた後、優柔不断な僕はどこに行けばいいのか、どこに行くべきなのか全然わからなかったので彼女に「どこに行きたい? 」という甲斐性もへったくれもないような質問をしてしまった。

 すると彼女は笑顔で「春翔くんの行きたいところがいいな」と言ってきた。その回答が一番困るから……

 困った僕はネットでいろいろ検索してみたが、映画は見たいものがやっていなかったのでパス。水族館、遊園地は優待券がないと行ってはいけない気がするのでパス。

 ショッピングモール……買うのか買わないのかところで僕の優柔不断さが出てしまいそうなのでパス。

 ああ、僕の家はどうだろう。

 ねーよ。

 とそこまで考えたところで携帯電話が震えた。時刻は優に十二時を過ぎている。

「誰だよこんな時間に…」と毒づきながら差出人を見ると雫。申し訳ない気持ちでいっぱいになった僕は、しかしどうしてこんな時間まで起きているのだろうと不思議に思いながらメールを開く。

 空メールだった。

「なっ、こんな時間に空メール?! 」

 僕は焦った。寝ぼけて送ったという可能性も無きにしも非ずだが、万が一という話もある。僕は彼女の身に何か起きたのではないかと心配になった。

「大丈夫? どうした? 」本当にそうならば長文は打っていられない。僕は二言だけ書いて送信ボタンを押す。

 長い一分間が過ぎた。

 再び携帯電話が震える。

「っ……」焦る指でボタンを操作し、なんとか開封する。

 そして拍子抜けた。「やっぱりまだ起きてたー どうせあしたどこに行くか迷ってたんでしょ?」

 本当はもっと可愛い顔文字を使っていたのだが、僕の画力では日記帳にアラビア文字が書かれてしまうのでここには記さない。

 安堵しつつも、雫の謎の行動にわけのわからなさを感じながらメールのやり取りを続ける。

「うん、図星だけど」またすぐに返事が返ってきた。

「どうせ遊園地とかは優待券がないといけない気がするとでも思ったんでしょ そんなわけないでしょ笑笑 あーでも遊園地よりは私、ストレス発散したいなあ…もう寝るね、おやすみなさい」

 エスパーですかあなたは。思わず突っ込んでしまうところだった。

 しかしストレス発散か。そのアドバイスにより僕は行く場所を決め、眠りについた。


 さすがに集合時間に遅れるというようなことはなかった。

「で、どこに行くの?」可愛らしい声で聞いてくる雫。僕は胸を張ってこう宣言した。

「今日は…ボクシングジムに行こうと思います」

「サンドバックなら間に合ってるわ!」殴られた。

「違うでしょ?高校生がストレス発散もかねてデートで行く場所と言えばあそこしかないでしょ!」「僕の家?」「違うわよ!深読みしすぎよ!」「じゃあ……」「そこで赤面するな。」「いや、本気でわからない」「カラオケよ。」「ああ」

 こんな掛け合いの末僕たちは歌を歌いに行くことにした。

 彼女の歌は上手なほうだった。

 歯切れが悪いのには簡単な理由がある。僕の妹のほうが上手いからである。とはいえそれにはれっきとした理由がある。僕の妹は『歌い手』さんなのだ。

 痛いと思った人挙手。はい。初めは思っていました。

 でも妹の歌、プロレベルだった。正直お前デビューしろよという感じだった。

 そんなわけで、雫の歌自体はうまかったのだが、相対的に普通になってしまったのである。

 僕?僕はいたって普通だ。

「ねえ、春翔くん。」僕の歌は普通と言ったら雫は低い声で脅してきた。

「あなた、妹さんのせいで歌唱力の価値観おかしくなっているよ…相当上手だからね。」

そういわれて当然悪い気はしない。

「そう、ありがとう。」

 もうだいぶ長くなったのでデート描写はここまでとしよう。

 そのあと彼女を言えに送り届けたところで冒頭に戻る。

 妹と会った話だった。彼女の妹は狭山雪といい、顔がとても整っていた。

 当然雫のほうが可愛いが。そしてなぜわざわざ彼女の妹の話をしたかというと、話が弾んだからで、なぜ話が弾んだのかと言うと、彼女は僕の卒業した中学校に通っていたからである。たった二年ほどで、だいぶ母校も変わるんだなあと実感した。

 しばらくは雫のことも忘れて話し込んでしまったため、途中で雫は家に入ってしまった。

 機嫌を損ねたかな…妹伝いに謝っておいてもらおう。

 別れ際雪ちゃんに気持ちを伝え、無事雫との関係がリセットされた。よかった、よかった。

今日は楽しかった。眠る。



十一月十一日


 悲報がある。

 十一月十一日十一時十一分十一秒を、見逃した。

 見逃した。普段は大好きなはずの体育の授業を恨んだのは初めてだった。

 ふと時計を見ると今ちょうど二十三時のほうの十一時十一分三秒だった。ラッキー。邪道感はあるけれど、見ておこう。

 ……見逃した。

 「春翔くん!もうすぐ1111111111だよ!」というメールをちょうどその時刻に送ってきたおちゃめな彼女のせいである。

 震えた携帯に気をとられているうちに過ぎていた。

 今年はだめだったなあ。



十一月十二日


 面白い一発ギャグを考えた。

 ここに記そうと思う。


 農民の、ちょっといいとこ見てみたーい

 そーれ一揆!一揆!


 だめだ、ねよう。

明日は自分の中学校にでも行こうかな。高校とは逆方向だけど、お世話になった先生にもあいさつしたいし。



十一月十三日


 十三日の水曜日。

 十三日の金曜日は不吉な日ということだが、僕にとって十三日の水曜日は思い出に残る一日となった。

 手、案外すんなりつなげたなあ。

 昔何かの本で読んだように、まず彼女と腕の振りの幅、速さを合わせ、それから自然にすっと握る。

 これだけで彼女の体温を感じ取ることができた。

 表現が気持ち悪いか…

 テンションが上がったせいでさっきからシャーペンの芯が折れ続けている。後日このページを見返したとき、「なんでこのページ、ちょくちょく太い字があったりするんだ? 」と思うであろう僕へ。

 テンションあがりすぎだ。



十一月十四日


 学校で彼女を見かけることがないので、電話をしたところ少し彼女の機嫌と体調がすぐれないようだった。

 あれ?手つなぐだけで妊娠する可能性ってあるの?



十一月十五日


体調は無事回復したようだった。元気になった彼女に念のため「手をつなぐだけで妊娠なんてしないよな…」と聞いたら笑い飛ばされた。

くそう、「……妊娠してほしいの? 」くらい言ってほし、いややっぱねーわ。

 さすがにティーンエイジャーでそれはね、まずいね

しかし妊娠―――結婚か…今僕が十六歳だから二人ともあと二年で結婚できるようになるのか

 待ち遠しいなあ



十一月十五日


 土曜日。

 この前彼女に休日でも両親は家にいない、妹も部活なので土日はちょっと寂しいけれど解放感に満ち溢れている、というようなことを言ったのだが、それをどうやら覚えていたらしく、僕の家に彼女がやってきた。

 ひゃっほーい。

 彼女は僕に昼ご飯を作ってくれた。

 古典的なライトノベル(日本語変かな)に出てくるヒロイン(そしてそのヒロインは例外なく暴力的)にありがちな、壊滅的に料理ができないという謎設定は、当然彼女にはなくどれも大変おいしくいただいた。

 何分突然の来訪だったため、僕の部屋に挙げるわけにもいかず、リビングでくつろいでもらった。

 当然やましいことをする気はなかったので、何をすればいいのか迷っていたところ、部屋の隅に置いてあった将棋盤に興味を示した。

 聞くところによると、指せるらしい。腕が鳴るぜ。


「こ、ここ数年やってなかったから…」見苦しい言い訳をしたのは当然僕。

 また、数年やっていないというのも嘘。妹と昨日指したばかり。

 彼女はボードゲーム全般的に得意らしく、花札カードゲームかや、オセロ。囲碁も嗜むらしい。僕もそれなりにできると自負していたのだが惨敗。

 これまた部屋の隅に置いてあった麻雀の自動卓にも興味を示したようだが、二人しかいないのでできなかった。

「こんどは春翔くんの妹とあたしの姉も入れて四人で麻雀したいね」

 麻雀には自信があった。



十一月十六日


 日曜日。

 残念ながら僕の彼女は日曜日にバレエのレッスンが入っているので遊ぶことができない。

 今日は一人で古本屋めぐりをした。

 半額セールをやっていたので全巻一気に買い、読み、寝た。

 まだ寝てないけれど。

 ああ、堕落した生活を送っているなあ……

 週末課題…



十一月十七日


 思えばこの日記も長い間続いているなあ。

 そういえば今日友達にすごい形相で「なんでわかれた」って聞かれたけれど、別れてないよ。

 なんであんなこと聞いてきたんだろう。僕と彼女はこんなにラブラブだというのに。

 あんまり一緒に帰れないけど。



十一月十八日


「あたし、数学苦手なの、教えて? 」可愛い顔でそう言われて断れる僕ではない。

 でも、僕もそこまで数学に強いわけではないからどうしよう。



十一月十九日


 異常気象。

 雪が降った。

 今まさに十一月下旬に入ろうかというタイミングで降るとは。



十一月二十日


 今日は久しぶりに一緒に帰った。

 当然話題に出るのは昨日の雪の話。

「昨日雪だったね。」

「……? 」

「あ、いや降ったでしょ」



「ああ、なんだ、呼ばれたのかと思った。」

だって。

まったく…本当にお茶目な僕の彼女。

ありがとうございました

やはり僕に恋愛は無理でした


ちなみに、当初は妹の雪さんが話にかかわる設定ではありませんでした。

なので、Call Meに出てくる狭山雪とは違う世界の雪だと思ってください

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[良い点] 淡々と日常が書かれていて面白いです。その日その日を楽しそうに綴っているのに好感が持てました。 [気になる点] 日記形式である以上仕方のないとは思いますが、日によって内容に落差があるように感…
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