第七話
ササミ「論点ズレていませんか?」
キミエ「え?」
ミドリ「いきなり何なんだ?」
ササミ「いやね。私、副業でクラスの子の悩みとか聞いてるんだけど、そう思うことが多くって」
ミドリ「おまえ、そんなことしてたのかよ」
キミエ「ふ~ん。で、副業ってことは本業は?」
アイリ「まず、そこに食いつくんだ・・・・・・」
ササミ「もちろん、本業は学業」
ミドリ「うわっ、よりによって優等生回答! ボケるなら、もっとわかりやすいのにしろよなっ」
アイリ「今のボケなの? それに、ボケることが前提なの?」
キミエ「で、副業って言うからには報酬とかあるの?」
アイリ「あ~あ。キィちゃん、関心が完全に横道へそれちゃってる・・・・・・」
ササミ「報酬は明瞭会計、お話一回につきお菓子一個。『お気持ちで結構です』とか言って、暗に一定額以上を要求するお布施なんかより断然良心的」
キミエ「お菓子!」
ササミ「そ。んでもって、今日の報酬はチョコレート」
キミエ「いいなぁ~。チョコ、いいなぁ~」
ササミ「欲しい? これ、欲しい?」
キミエ「欲しい! 欲しいです!」
ササミ「どうしようかなぁ~。あげようかなぁ~」
アイリ「えぇ!? 札束ビンタならぬ、板チョコビンタ!?」
キミエ「あうあうっ、すごい屈辱! でも、チョコの誘惑には抗えない・・・・・・」
ミドリ「いや、そこは抗えよ! たかがチョコレートだろ!」
ササミ「『たかがチョコレート』!? やれやれ、これだから飽食世代は・・・・・・。私らギブチョコ世代とは価値観がまるで違うね」
キミエ「ですよねぇ、おやびん」
アイリ「ギブチョコ世代? もしかして『ギブ・ミー・チョコレート』?」
ミドリ「戦前生まれかよ! 半世紀以上違うだろ!」
ササミ「いやいや、私たちがねだってきたのは、進駐軍にじゃなくて、主に友達だから。来月、期待してますぜ」
キミエ「ギブ・ミー! ギブ・ミー・チョコレート!」
アイリ「来月にチョコ? もしかしてバレンタイン?」
ミドリ「何かと思えば友チョコのタカリかよ! 飽食とか世代とか関係ないし、おまえが論点ズレてるよ!」
ササミ「おっと、これは失敬」
キミエ「怒られたところで本題に戻ろっか。で、ササミちゃんのお悩み相談がどうしたの? あと、チョコください」
ミドリ「いい加減、チョコから離れろ。話が進まない」
キミエ「あい」
ササミ「まぁ、人に話せるレベルの悩みだから、恋愛絡みが多いんだけど、みんな勝手なことばっかり言うんだよねぇ」
アイリ「たとえば?」
ササミ「たとえば、告白して付き合い始めたのはいいんだけど、相手の人が思ってたより優しくなかったとかいう、いわゆる性格の不一致」
キミエ「よく聞くね、そういう悩み」
ミドリ「で、それのどこが論点ズレてるんだ?」
ササミ「だって、ほとんどの人が、外見とかそういう上っ面の部分を好きになって付き合い始めてるんだよ。だったら、ほかの部分で、自分の意にそぐわないところがあってもしょうがないじゃない」
アイリ「う~ん。なんとなくわかるようなわからないような・・・・・・」
ササミ「たとえて言うなら、ホームベーカリー買っておいて、『ご飯が炊けない』って文句を言うようなもの」
アイリ「え~と。その場合、パンが外見でご飯が性格?」
ミドリ「なぁ。そのたとえ話、アリなのか?」
キミエ「つまり、ご飯が食べたいなら、最初から炊飯器を買えばってこと?」
ササミ「そう。炊飯器だったら、簡単なパンが焼けたり、ほかの調理ができるのもあって言うことなしだからね」
ミドリ「あー、もう、わけわからん! たとえ話だけで語るなよ!」
アイリ「要するに、ひとつのことに囚われないで、ちゃんと全体見極めろってこと?」
ササミ「いかにも。でもまぁ、それは無理な要求かも。『恋は盲目』って言うくらいだから」
キミエ「確かに、そういう本人はいたって真剣なんだろうけど、端から見ればすごくちぐはぐってことあるよねぇ」
アイリ「たとえば?」
キミエ「たとえば同じ外見絡みで、ドラマの役柄に影響されて、その俳優さんのこと好きになっちゃうってこと」
ミドリ「あー。よく聞くなぁ、それ。で、実際の私生活スクープされて、そのギャップに幻滅したりしてな。それが原因で叩かれたりした日にゃ、いい迷惑だよな、勝手な幻想抱いておいて。ホント芸能人も大変だよ」
アイリ「まぁ、芸能人て人気商売なんだから、しょうがないんじゃない?」
ササミ「芸能人は人気が命。人気さえあれば、番組内容度外視で視聴者獲得できるしね」
ミドリ「いやいや、さすがにそれはないだろ、今のご時世。人気芸能人を起用した番組が視聴率低迷で打ち切りなんて話、ちょくちょく聞くぞ。重要なのは、やっぱり放送作家とか制作側の腕だろ」
ササミ「でも、たとえそれで成功したとしても、視聴者がおもしろいと思うのは、たいてい台本通りに動いている演者のほう。ここでまた新たに生まれるちぐはぐ」
キミエ「あ~。人気アイドルを起用したバラエティ番組だと、そういうのあるかもね」
アイリ「その手のちぐはぐって言ったら、やっぱり歌もそうじゃない? ヒット曲が生まれると、すぐ歌手のほうにスポットライトが当たるけど、私、歌って作曲者の功績のほうが大きいと思う」
キミエ「作詞者よりも?」
アイリ「うん。私、好きな曲だとオフ・ヴォーカルでも楽しめるし、着メロやオルゴールバージョンのほうが好きって場合もあるし」
ミドリ「ヴォーカルを、楽器の一種としてとらえればそうなのかなぁ」
キミエ「どんなに歌が上手くても売れない歌手の人っているし、逆に歌ってる人が下手でもヒットした曲ってあるしね。さすがに今は、加工技術が進歩してるらしいから、あからさまにひどいのはないんだろうけど」
ササミ「画像も音声も加工し放題。まったく、いい時代になったねぇ。人並みだったあの子も手軽にアイドルへ! ただし、ネット上限定」
アイリ「ネットアイドルの実像・・・・・・。それだけ虚実のギャップも広がってるってこと?」
ミドリ「何はともあれ、つまりは作品が受け入れられる受け入れられないは創り手の能力次第ってことだな!」
キミエ「ちょっと待って。それってホントに創り手の能力次第?」
ミドリ「ん? 違うのか?」
キミエ「だって、ヒットをとばしたものの中には『どうしてこんなのが?』って思うものない? 歌でも何でも」
ミドリ「・・・・・・あるな、あるある。私、懐メロとかで70年代・80年代のアイドルの歌聴いて、ドン引きすることある。歌詞も曲も全部完全に肌に合わない。そりゃもう、鳥肌立つくらいに・・・・・・」
ササミ「そうそう。今だって、世間で騒がれてる割には、たいして面白くないっていう作品、あるよね」
アイリ「お願いだから、名前出したりしないでね・・・・・・」
キミエ「感性が違うって言っちゃえばそれまでだけど、それって作品の良し悪しとは別な要因があるように思えない?」
ミドリ「売れる売れないについてか?」
キミエ「うん。たとえばどこだかの高級ブランド品て、そんなに品質は良くないんだけど、そのブランドってだけで高く売られてるらしいいよ」
アイリ「それがいいことなのか悪いことなのかは別として、つまりはイメージ戦略ってこと?」
ミドリ「確かにイメージってあるよなぁ。小説家志望の奴が、有名な新人賞に作品を送りたがるっていうのもそのためだろ? もし入賞して出版されることになったら、人気レーベルのあるところのほうが売れるから」
ササミ「同人誌の利益率から見ても、一冊あたりの儲けなら、断然自費出版のほうがいいんだろうけど、まず売れ行きじゃ、天と地の差だろうね」
ミドリ「内容より知名度・話題性で売るパターンか。そういう商売、あるよなぁ」
アイリ「要するに、売れる売れないは、マーケティング力に関係するってこと?」
ササミ「だね。どっかの偉い人も『需要を創造することが重要だ』って内容のこと、言ってたような気がする」
キミエ「そういえば、『流行色』っていうのも、染料確保の関係で、もうすでに何年も先の分まで決まってるんだってね。そう考えると、流行モノって本当は自然発生的なものなんてなくて、全部仕組まれてるのかもしれないね」
ミドリ「それも含めて、いいもの作れば必ず売れるなんて、所詮はアマちゃんの寝言ってことか・・・・・・」
ササミ「その『いいもの』の基準だって、あるかどうか怪しいものだしね」
アイリ「またそうやって、絶対主義の人たちの感情逆なでするようなこと言う・・・・・・」
ミドリ「あー! もう色んな要因があって、何がヒットに繋がるのか全然わからん!」
アイリ「それがわかったら、誰も苦労しないんじゃない?」
ササミ「結局は、様々な要因の組み合わせ、巡り合わせの妙で生じるものだからね、何事も。だから、無理矢理ひとつの要因だけで片付けようとすると、的外れな提言とか、例外なしじゃ説明すらできない、お粗末な分析とかになっちゃう」
ミドリ「なんか、ホント難しいな世の中の仕組みって・・・・・・」
キミエ「それじゃ、手詰まり感が漂ってきたところで、まとめやっちゃおうか」
考察・その七『ひとつの結果にひとつの原因だけを結びつけようとするのは暴論』
キミエ「ところで、ササミちゃんは今日の相談にはなんて助言したの?」
ササミ「助言? 何それ」
アイリ「悩みを相談されたなら、助言のひとつくらいするものじゃないの?」
ササミ「そんなことはしない!」
ミドリ「威張って言うな! だったら何か? 助言もしないでただ話聞くだけかよ」
ササミ「そだよ。何か不都合ある?」
アイリ「不都合っていうか何ていうか・・・・・・」
キミエ「それでみんなは満足するの?」
ササミ「そだね、割とスッキリした顔して帰っていくよ」
アイリ「あぁ、なるほど。いわゆる『ガス抜き』っていうあれ?」
ササミ「そ。話を聞くのは、カウンセリングでも基本だって言うしね」
ミドリ「ホントはただ横着なだけなんじゃないのか? 物は言いようだな、まったく」