第五話
ミドリ「どれがいいかな~。これもいいけど、こっちもいいしなぁ。よし! どうせなら全部買うか!」
ササミ「ケータイ見つめて何ニヤニヤしてんの? オンラインショッピング?」
キミエ「それにしては随分豪気な発言だったね。臨時収入でもあったの?」
ミドリ「ふふ~ん。あったんじゃなく、これからあるんだよ」
アイリ「これからって、お年玉のこと?」
ミドリ「そんなみみっちいもんじゃないんだなぁ。ウン百万、ウン千万、もしかしたら億ってこともありえるかもな!」
キミエ「わかった、宝くじだ。もしかして買ったの?」
ミドリ「当ったり! 毎年恒例、家族全員出資のまとめ買い。今年こそは当たりそうな気がするんだよなぁ~。もし当たったら、何かおごってやるよ。何がいい? マックか? ミスドか?」
アイリ「億とか言ってる割には、庶民的なチョイスだよね……」
ササミ「だったら私、な○卯のからあげでいいや」
キミエ「唐揚げいいね! じゃあ、私はセブン○レブンのからあげ棒!」
ミドリ「そんなんでいいのか? それだったら何回でもおごってやるよ」
キミエ「ううん、一回でいいよ。その代わりすぐおごって、前祝ってことで」
ササミ「別に今日じゃなくてもいいよ、当選発表の前までなら」
ミドリ「……。おまえら、ゼッタイ外れると思ってるだろ?」
ササミ「バレた?」
キミエ「やっぱりダメ?」
ミドリ「当たり前だ! もういい! おまえらには何もおごってやらない!」
アイリ「そんなことで怒られても……。結局、当たるわけないんだから」
ササミ「そうそう。当選確率とか見ちゃうと、ホント気が萎えるよね~」
キミエ「そもそも、そういうギャンブル的なもの、射倖契約って言うんだっけ? それって、損する人が大勢いて、得する人が極端に少ないから成り立つんでしょ? そう考えると、どうしても自分が得する側に回れるなんて思えないよ」
ミドリ「でも、裏を返せば少ないながらも得するヤツはいる。勝てる確率はゼロじゃないってことだろ?」
アイリ「カモだ」
キミエ「カモだね」
ササミ「カモネギだ」
ミドリ「うっさいな! いいだろ別に。夢くらいみさせろよ!」
アイリ「夢ねぇ……」
キミエ「あのね、ミドリちゃん。夢ってみるものじゃなくて、叶えるものなんだよ」
ミドリ「なに真顔で語ってんだよ! つーか何様だよ!」
キミエ「ダメ? ハッとしなかったった?」
ミドリ「するかよ! そういうのは何かを成し遂げた人間が言ってこそだろ! 単なる一般人にそんなこと言われても、ウザイだけだっつーの!」
キミエ「アハハ、だよねぇ。でも実際、私のなかではギャンブルと夢って、なぜかうまく結びつかないんだよねぇ、昔から」
ミドリ「なんだよそれ。楽して儲けようっていう発想が気に食わないってことか?」
キミエ「う~ん、ちょっと違うかなぁ。別に楽しようがしまいがそれはどうでもいいんだよ。お金はあくせく働いて稼ぐものだ、なんて考え持ってないし」
ササミ「ってことは、特許とかの知的財産権で一攫千金狙うのはあり?」
キミエ「当然あり」
アイリ「じゃあ、株なんかの投機は?」
キミエ「それも一応ありかなぁ」
ミドリ「頭を使って稼ぐ分には問題ないってことか?」
ササミ「だったら、頭を使ってギャンブルに勝つのは?」
アイリ「なんかそれ、すごく犯罪っぽい臭いがする……」
ミドリ「イカサマってことか? まぁ、ギャンブルって運の要素が大きいからこそ、みんな勝つ機会が公平にあると思うわけだしな」
キミエ「だね。とにかく、この世の事象全部の相互作用を完全に把握することなんて、たぶん不可能だから、運の要素は消せないとしても、自分の能力や努力なんかが決定的な要素になるもっと堅実なもの、それが私にとっての『夢』のイメージなんだよ」
ミドリ「ふ~ん、なるほどねぇ」
アイリ「でも、実際語られる『夢』って、大概単なる願望・妄想だよね」
ササミ「だからかもしれないけど、他人の『夢』の話って、いまいち興味持てない。『はぁ、そうですかぁ。だから何?』って感じで」
ミドリ「確かに、それは言えてるかもな……」
アイリ「『夢』を叶えた人の話、英雄譚とか偉人譚とかだったら需要はあるのにね。不思議だよね」
キミエ「もしかしたら『夢』って、後語りでこそ意味があるものなのかもね。だから、できる人の行動は、常に不言実行だったりするのかも」
アイリ「だったら逆に、夢や理想をあれこれ語る人は、何もできない可能性が高いってこと?」
ササミ「まぁ、あれですな。マニフェストを大々的に打ち出しておきながら、実際政権とってみたら、満足に達成できなかったという例もありますからな」
ミドリ「それでも現政権が何か失態やらかせば、どうせまた政権とっちゃうんだろ?」
ササミ「消去法選挙の宿命ってやつですな。だから政治家は、国政のことよりも足の引っ張り合いに精を出す。選ぶ側と選ばれる側。果たしてどっちに問題があるのやら。これは卵が先か、ニワトリが先か論争と同じくらい奥の深い問題ですぞ」
アイリ「どうしちゃったの!? 社会派路線に変更なの!?」
キミエ「それはともかく、堂々巡りになりそうだから、まとめやっちゃおうか」
考察・その五『才覚のない人間ほど、夢や理想を熱く語る』
キミエ「だけど、のめり込む人はのめり込むって言うよね、ギャンブルって」
ササミ「そりゃ、手っ取り早くお金を手にできるんなら、そっちに飛びつきたくなるのが人情ってものだしね」
アイリ「でも、それで負けてたら本末転倒な気もするけど……」
ミドリ「まぁ、お金に余裕のある人が、遊びでするぶんにはいいんじゃないか?」
キミエ「だけどそれ、依存症に陥りやすいパターンなんでしょ? 一度勝つと、もっと大きな刺激を求めて、どんどんつぎ込んでいっちゃうっていう話だよ」
ササミ「結果、路頭に迷って路上生活者に」
ミドリ「おまえ、好きだなぁ、あの人たちのこと。もしかして憧れてるのか?」
ササミ「そりゃ、憧れるでしょ。何にも縛られない自由人なんだよ」
ミドリ「なんだよそれ。大方ずっと寝てられるとでも思ってるんだろ?」
ササミ「大当たり! ギャンブルの話だけに」
キミエ「ああ、そこと掛けたんだ!」
アイリ「わかってもらえるか不安なら、言わなければいいのに。解説まで入れて……」
ササミ「そこはあえて”Long Shot”大きく賭けていかなきゃね!」
ミドリ「結局、最後の締めもギャンブル関連か……」