第三話
アイリ「ねぇ、聞きにくいんだけど。私たちの話っておもしろい?」
ササミ「どしたの、急に」
キミエ「そうそう、なんで?」
ミドリ「ん? この前も同じこと言ってなかったか?」
キミエ「も~! 何やってんの、ミドリちゃん! そこは例のマネ台詞でしょ! せっかくの前フリが台無し!」
ササミ「空気読め! トーシローか!」
ミドリ「なんだよ、それ! ワケわかん!」
キミエ「ダメだなぁ~。そんなんじゃ、お客さんの心はつかめないよ」
ササミ「そうだ、そうだ。せっかく高座名まで考えて来たっていうのに」
ミドリ「高座名? なんだ、そりゃ!?」
ササミ「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。遠からんものは音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! ジャジャーン!」
アイリ「え~と、そりゅうていどくく?」
ササミ「チッチッチ。疎流亭独苦と書いて『そるてい・どっく』と読む! どう?」
ミドリ「いやいや、『どう?』とかって言われても。ここ落研じゃないし。そもそも、そんなの名乗る気ないし」
ササミ「気に入らない? 喜ぶと思ったのに。人の好意を無にするなんて、とんだろくでなしだね、ミドリは」
ミドリ「何でそこまで言われなくちゃならないんだよ! だいたい何でソルティ・ドックなんだよ!」
ササミ「本家本元と同じ、ウォッカベースのカクテルってことで」
キミエ「あー、そういうことか。ササミちゃん、カクテルのこと詳しいんだね」
ササミ「そこはそれ、『蛇の道は蛇』ってやつですから」
ミドリ「いや、その言葉の指し示すところがわからん。酒好きってことなのか?」
アイリ「ダメー! お酒は二十歳になってから!」
キミエ「さ。だいぶ脱線しちゃったけど、アイリちゃん、どうしたの? また、読者の反応のこと?」
アイリ「ううん、違うの」
ミドリ「じゃあ、何だ?」
アイリ「うん。全然関係ないんだけど、今日、学校に来る電車の中で、たまたま騒いでる子たちがいたのね。そのおしゃべりの内容、ちっとも面白くないんだけど、その子たちはすごく楽しそうなの。これってどういうことなのかな~って思って。私たちが普段何気なしにしてるおしゃべりも、傍から見ればやっぱりつまんないと思われてるのかな?」
キミエ「あるねぇ、そういうこと。まぁ、内輪ネタだったりとかしたら、面白くなくて当然だけど」
ササミ「あと、前回も話に出た趣味嗜好? それにもよるんじゃない?」
ミドリ「でもさぁ、なんかそれだけが要因じゃないって気ぃしないか?」
ササミ「どゆこと?」
ミドリ「私、テレビのネタ番組とかで、嫌いな芸人がネタやると、ちっとも笑えない。家族はみんな爆笑してたりするんだけどな」
キミエ「へぇ~、そうなんだ」
ササミ「好き嫌いの激しいミドリならではのエピソードですな」
ミドリ「余計なお世話だ! でもないか、そういうこと」
アイリ「確かにあるかも。選り好みのある個性派タレントの取りとめもない一言が批判の的にって話、よく聞くし」
キミエ「あるある。その人が嫌いな人にとっては、言うこと為すことすべてが気に食わない。まさに『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』だね」
ミドリ「そうか。私が、嫌いな芸人のネタに笑えないってのも、そのことに理由があるんだな」
ササミ「ネタが面白い面白くない以前に、まず相手への感情ありき。それが笑いのキーポイントってことだね」
アイリ「多少おもしろくなくっても、感情が好意的だったら笑ってもらえるってこと?」
キミエ「お決まりのギャグで笑いが取れるっていうのも、そういうことに要因もあるんじゃない?」
ササミ「ふむふむ。愛読者には、ワンパターンやマンネリも、その作家の味や作風として受け取ってもらえるのと同じですな」
ミドリ「ずいぶん毒のある見解だな、それ」
ササミ「まぁね。でも、そういう事情があるんなら、前々から気になっていた仲間内でのぬるい評価の付け合いもうなずける」
アイリ「やめてー! 掲載してる場所柄、そんなこと言ったら敵をつくるだけだから!」
キミエ「ま、いわゆるこれは、さっきの逆パターン『あばたもえくぼ』だね」
ミドリ「その人が抱いている感情次第で、多少難があっても肯定的に。逆に、どんなに筋が通っていても否定的に受け取られるってことか……」
ササミ「よし! 今度からこれを『あばたもえくぼ・坊主憎けりゃ袈裟まで憎い現象』と呼ぶことにしよう!」
アイリ「どうでもいいけど、なんか長くない?」
ササミ「なら、略して『あばたも坊主現象』」
ミドリ「いやいや、ことわざ繋げただけなんだから、略したらダメだろ」
アイリ「もう何がなんだかわからくなってる……」
キミエ「じゃあ、何はともあれまとめしよっか」
考察・その三『はじめに感情ありき ロゴスは二の次』
アイリ「う~ん。聖書の文句をもじって体裁繕ってるけど、言ってることは割と月並みだよね」
キミエ「それでいいんじゃない? 宗教や怪しい自己啓発の類と違って、認識操作で別境地へ誘うっていうのが目的じゃないんだし。自然の流れに沿ってるなら、最終的な結論は、誰もが素直に『そうかもね』って言えるものになるはずだよ」
ササミ「そうかもね」
ミドリ「おいおいおい。そこで肯定してどうするよ! その判断は読んでる人がするもんだろ。じゃないと話が安っぽくなるっつの!」
ササミ「そうかもね」
ミドリ「このっ、おちょくってんのか!」
アイリ「あ~あ。完全に遊ばれてる……」