第零話
「でもさぁ、実績っていうけど、この部の活動内容って一体なんだ?」
つり目の少女・鬼怒川ミドリが、腕を組んで考え込む。
「そうねぇ、今まで私たちがここでやってきた事と言えば……」
糸目の少女・宇喜多キミエが、あごに人差し指を当てながら中空を見上げる。
「食う、寝る、遊ぶ」
虚ろな瞳の少女・哀川アイリが、キミエ、つぶらな瞳の少女・相楽ササミ、ミドリの順で指を指す。
それに対し、ササミだけがビシッと親指を突きあげた。
「あながち間違いとは言えないけど、そういうおまえはどうなんだよ」
「私? 私は……」
ミドリの反撃に、アイリは途端に言いよどむ。
「哀川アイリは、のむ・うつ・かうの三拍子揃った猛者である。ちなみに、具体的に何をさすかはご想像にお任せします」
「ちょっと、やめて! 私、放蕩三昧なんかしてないし、病んでもいないから! 変なイメージ植えつけないで!」
ササミの行ったナレーションに、アイリは悲痛な声で抗議した。
「まぁ、何はともあれ、私たちが部活らしい部活をしてこなかったっていうのは事実だよね」
「それはそうなんだけど、そもそも『人文科学研究会』ってどんな活動すればいいんだ?」 キミエが切り出すと、ミドリがそれに乗っかった。
「人文科学っていうのは、私たち人間の思考・行動などに関するあらゆる事柄を研究対象とした、それはそれは奥の深い学問なの! ……って言われて勧誘された記憶がある」
「そういえばそんな触れ込みだったなぁ」
ササミの発言に対し、ミドリが懐かしげに相づちを打った。
「でも、結局先輩たちのやってたことって、今の私たちと同じだったよね」
苦笑いをうかべるキミエ。
「そうか! つまり、これこそが人文科学研究会の活動なんだ! 人間のあらゆる思考・行動が研究対象ってことは、当然今までの私たちの行動だってそれに当てはまるってことだしな」
ミドリは、さも得心がいったかのように首を上下させる。
「じゃ、ここでの放課後ライフを活動内容として報告してみる? とんちが効いてるって褒められるかも」
「ないから! それ、廃部を早めるだけだから!」
ササミの提案を、アイリが即座に拒絶した。
「なら、どうする?」
「そうだ! こんなのはどう?」
重苦しい沈黙を破って、キミエがポンと手を叩く。
「対象が人間の思考や行動ってことは、つまりほぼ何でもありってことでしょう? だから、日ごろ私たちが疑問や疑念に感じたことについて、自分たちなりの考察をしてみるの」
「でも、なんかそれ、難しそう……」
「難しく考えることないよ。ほら、ツイッターとかでよく、人生訓めいたこと呟いてる人いるじゃない。ああいうのでいいんだって、ね」
「そうか。それならできそう」
不安げに眉をしかめていたアイリが、パッと顔を輝かせた。
「じゃ、ついでにそれ、ネットにアップする? 活動を形として残すために」
「それ、いただき! それだったら、ちゃんと部活してますって言い張れるよね」
ササミの提案に、キミエは即座に飛びついた。
「でもさぁ。それだと、ネット上にあったのを切り貼りしただけだろって疑われなくない? 私、難癖つけられるのやだよ」
「あ、それありそう……」
ミドリの懸念に、アイリが頭を抱え込む。
「だいじょうぶ! そう言われないために、ちゃんと過程も載せればいいんだよ。どうしてそういう結論に至ったかっていう過程をね」
「でもそれ、なんか面倒くさくない? 議事録みたいなもんだろ?」
「堅苦しく考える必要ないよ。私たちの会話をそのまま載せればいいんだから。マンガにアニメ、ライトノベル。ヒットを飛ばすのは会話劇主体のものが多くなってきてるでしょう? 私たちもその波に乗ろうよ!」
「世代を超えて受け入れられる『お笑い』。喜劇も落語も漫才も、コントにジョークもみんなみんな結局は会話だしねぇ。案外いい考えかも」
ササミがウンウンと感慨深げに頷いた。
「そう! 人間は会話を楽しむことができる動物なんだから!」
「でも、私たち素人だよ。くだらねぇとか言われない?」
「言われたら言われたでいいよ。そのときはこう言ってやればいいの」
キミエは、その糸目をキッと見開いて言い放つ。
「『この世にくだらないものなんてない。くだらないって思うのは、あなたがその事柄について興味がないだけだ』ってね!」
「あ~、確かに。『この人バカだな~』って思う言論にも、必ず数人は賛同者がいるものだしね~」
ササミがウンウンと感慨深げに頷いた。
「だから、いくら面白くないからって酷評するのだけはやめて~!」
両手で顔を覆ったアイリが、フルフルと頭を振るわせる。そんなアイリの頭を、ササミがポンポンと撫でた。
「心配ないって。タダで読んでおいて、わざわざ酷評する人なんていないよ。そんな手間隙かけるほうがよっぽど損だし。なにせタダなんだから」
「『タダ、タダ』言っちゃ、読んでくれる人に失礼だろ! 全国のお金はないけど暇はある甲斐性なしさんに謝れ!」
怒りをあらわにするミドリを、他の三人が一斉に指さす。
「おまえが一番失礼だ」