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第十一話

アイリ「はぁ・・・・・・」


キミエ「どうしたの、アイリちゃん。ため息なんかついちゃって。何か悩み事?」


ササミ「むむ。それなら私の出番だね」


ミドリ「いやいや。愚痴ならともかく、悩み事ならおまえの出番はないだろ。アドバイスとかしないくせに」


キミエ「だったら私に任せて! 親身になって相談に乗るよ!」


ミドリ「なに目ぇ輝かせてんだよ。完全にお菓子目当てだよな。下心アリアリだよな」


アイリ「別にいい。悩み事ってわけじゃないから」


キミエ「悩み事じゃないの?」


ササミ「だったら何?」


ミドリ「ほら、アレだろ。持病の五月病。それにしても今回はずいぶん早いな」


アイリ「ちょっと! 変なイメージ植え付けないで! 私、五月病になったことなんか一度もないんだから!」


ミドリ「そうだっけ? だったらホント何なんだ?」


アイリ「今、タブレットで話のネタ探してたの」


キミエ「それでため息?」


アイリ「だって、どれもこれもつまらない話ばっかりだから」


ササミ「ほほう。世をはかなむ薄幸少女の図。いいね」


アイリ「『薄幸』は余計でしょ! みんな私にどういうイメージ持ってるの!?」


キミエ「まあまあ、落ち着いて。ねぇ、アイリちゃん。アイリちゃんにとってのつまらない話ってどんな話?」


アイリ「すぐに『それ違うでしょ』ってなっちゃう話」


ミドリ「要するに、簡単に間違いとか指摘できる話ってことか?」


キミエ「まぁ確かに、創作物じゃないんなら、現実にそぐわない話見聞きして、面白いって思うわけないよねぇ」


ミドリ「いやいや。創作物だからって何でもありってわけじゃないだろ。特に現代社会が舞台のものなんかはな」


ササミ「リアルモノと思いきやの、急な超展開ほどしらけるものはないからね」 


キミエ「じゃあ逆に、アイリちゃんにとっての面白い話って?」


アイリ「反論の余地のないくらいクリアな話」


ミドリ「ま、当然そうなるわな。だけどそんなの、そうそうあるもんじゃないだろ」


アイリ「ホントにそう。なかには面白い話する人いるけど、全部納得ってことないし」


キミエ「見解の相違とかそういう問題じゃなくて?」


アイリ「うん。もっと根本的な部分の話で。そもそも自分の個人的体験を、まるで全人類共通の事柄みたいに語る人多すぎる。そういうのに出会う度に、すごくモヤモヤした気分になる。『あなたの言いたいことはわかったけど、私の中でそういう現れ方はしてないの。だから、その考えを押し付けるのはやめてよね』って」


キミエ「案外、人としてどこまでが共通で、どこからが違うのかっていう見極めできてない人、多いよね。いわゆる『大家』と呼ばれる人でさえも」


ミドリ「そりゃ、有名だからって世界の真実知ってるわけじゃないからな」


キミエ「そういえば、心理を研究してる人の動機って、自分自身の心理がわからないからっていうのが意外に多いんだってね。何かを専門に研究してるからって、その対象について熟知してるわけじゃないってことだね」


アイリ「うん。哲学とかに関わってる人にも、やっぱり同じことが言えると思う」


ササミ「結局、わかってないってことではみんな同じ。五十歩百歩ってことだね」


ミドリ「そんなこと言ったら怒られるぞ。専門家の人たちに」


アイリ「そんなことで怒るのは、悩んでみせることを商売にしてる人たちぐらいじゃないの?」


ミドリ「それ、どういうことだ?」


アイリ「成果としての答えが示せないんだったら、せめて研究の足跡ぐらいは示しておかないと評価にはつながらないでしょ。つまり、そういうこと」


ミドリ「なるほどなぁ。だけど、それってどうなんだ? たとえばそれが本だとして、散々いろんなこと語っておきながら、結局のところ明確な答えは出ていません。今後の展開に期待。とか、あなたが答えを見つけられたらいいですね。なんてことで締めくくられてたら、読んだヤツ、怒らないか?」


キミエ「何かしらの答えを求めてた人は怒るかもね」


ササミ「『お金と時間返せー!』って?」


アイリ「書いてる側としては、何らかの指針になればっていう意図もあるのかもしれないけど、それはちょっと疑問。もしかしたら見当違いの方向を掘り進んでる可能性だってあるんだから」


ミドリ「その可能性はあるよな。なにせ答え自体、知らないんじゃな」


ササミ「そんな状況だから、『哲学って何?』って首を傾げる人が多いんだね」


ミドリ「かと言って、世間で答えを知ってるってのたまうヤツとか、したり顔でしゃしゃり出てくるヤツなんかは、ヤッバイのしかいないしな」


ササミ「宗教とか妄想虚言癖の人とかだね。ま、その人の言うことが本当に信用できるかどうかは、疑問質問ぶつけてみればわかるけどね」


アイリ「結果は大抵、答えに窮した挙げ句、最後の最後に『何事にも例外はある』っていう逃げ口上を言うパターンじゃない?」


ミドリ「だったらその退路も断ってやるか。『何事にも例外はある』って言うんなら、その論理にも例外があるってことだよな。それって『例外がないものもある』ってことだろ。この矛盾、どう解決するつもりだ? 結局、矛盾した論理を礎にしてる主張が矛盾してないわけないよな」


キミエ「ミドリちゃん、その辺にしておいたら。あんまり追いつめちゃかわいそうだよ。そういう人って、きっと妄想の中に逃げ込むことで自分を保ってるんだから。せめて妄想の中だけでは全能感を味あわせてあげようよ」


ササミ「まぁ、現実が見えないのは、妄想に浸りすぎちゃってるせいなんだけど」


アイリ「追い打ちかけちゃダメ! ダメな人は社会の潤滑油なんだってよ。ダメでも役には立つんだよ。貴重な人材なんだよ」


ミドリ「おまえ、何気にひどいよなぁ・・・・・・」


ササミ「それでムキになって道化に磨きが掛かってくれれば大変結構。しばらく煽りもできなくなるし」


ミドリ「鬼だ、おまえは・・・・・」


キミエ「でもホント、難しく考えすぎてるから見えなくなってるってことあるよね」


ミドリ「そうなのか?」


キミエ「だって、すべての事柄の根幹になるもの、自然法則とかの理なんかは考え出すものじゃないでしょ。それはあくまで見てとるもの。だから、考えるって手法で得られたものは、妄想と同じで現実にそぐわなくて当然だよ」


ササミ「その手のことって、何も隠蔽されてるわけじゃないから、ありのまま、あるがままに、すべての事象から抽出すればいいだけの話。だからそこに、例外の入る余地なんてない。ルソーさんも『観察結果に例外があっちゃダメ』みたいなこと言ってるし」


アイリ「考えるって行為は、その基礎ができた上での話。じゃないと全部砂上の楼閣。建設的で有意義な意見なんて導き出せるはずなんてないんじゃない」


ミドリ「確かに。そりゃ基礎がグダグダじゃ、百家争鳴の状況にもなるわな」


ササミ「ま、みなさん色々なアプローチしてますけど、答えが出せてないってことは、結局その程度ってことですな」


キミエ「・・・・・・」


ミドリ「・・・・・・」


アイリ「・・・・・・」


ササミ「・・・・・・」


ミドリ「言ったおまえがとぼけんな! ちゃんと責任取れ!」


アイリ「謝って! とにかく謝って!」


ササミ「しからば・・・・・・。参加することに意義がある。結果よりも過程が大事。ドンマイ!」


ミドリ「さらに煽ってどうする!」


アイリ「あ~あ、もうおしまい・・・・・・」


キミエ「よし! それじゃあ、やぶれかぶれのまとめしよう! 誰かの目にとまるわけじゃないから大丈夫だよ、きっと」


考察・その十一『No answer,no authority』


キミエ「用法と用語、合ってるかなぁ?」


ミドリ「『答えなくして権威なし』だよな?」


ササミ「または『権威があれば答えがある』つまり『権威が答えを作る』?」


アイリ「なんか意味深・・・・・・」

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