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第十話

ミドリ「そういえば今度、上の兄貴ンところに子どもが生まれるんだよ」


キミエ「おー! それはおめでたいね!」


アイリ「お父さん、お母さんにとっては初孫? だったら、大喜びなんじゃない?」


ミドリ「ああ。ふたりとも、すごくはしゃいでる。そりゃもう、みっともないくらいに」


キミエ「でも、それはしょうがないんじゃない? 孫は子どもよりかわいいって言うくらいだから」


ミドリ「そんなもんかねぇ。どうでもいいけど、私はいまいち実感持てないんだよなぁ、正直な話」


アイリ「核家族社会で、しかも末っ子っていったらそんなものじゃない? 身内の赤ちゃんと身近に接する機会なんて、ほとんどなかったでしょ?」


ササミ「ま、その辺の実感は、実際に生まれてからってことで。ね、ミドリおばさん」


ミドリ「『おばさん』言うな! いや、確かに『おばさん』なんだけど・・・・・・」


キミエ「他人の『小母さん』と親族の『叔母さん』。どっちも同音なのは困るよねぇ、呼ばれるほうとしては」


アイリ「『おばさん』ていうと、どうしても『年配の女性』っていうイメージのほうが強いから」


ミドリ「だよなぁ。そっちの意味じゃないってわかっていても、実際『おばさん』て言われるのには、やっぱ抵抗あるよなぁ」


ササミ「大丈夫。その子がおしゃべりできるようになる頃には、もう立派なオバ、むぎゅ!」


ミドリ「ふざけんな、このタコスケ! そんな急激にオバサン化してたまるか!」


アイリ「でも、だったら何て呼んでもらうつもり? 『おねえちゃん』?」


キミエ「年が近い場合なら、そういうのもありだよね。たぶん有名なのはアレかな? フィクションだけど」


ミドリ「ああ、アレな。カ○オ・ワ○メ方式な。だけど、そこまで年が近いわけでもないしなぁ・・・・・・」


キミエ「そうだ! 語感がよくないっていうんなら、いっそのこと英語で呼んでもらったら?」


アイリ「英語? アンクル・サムとかアンクル・トムみたいな感じ?」


ミドリ「よりによってそのふたつかよ、引き合いに出すのが」


ササミ「つまり、アーント・グリーン」


ミドリ「なんで名前まで英語だよ。しかも、語呂悪いし」


キミエ「ダメかぁ。じゃあ、せめてファーストネームで呼び合うとか・・・・・・」


ササミ「ヘイ! グリーン。調子はどうだい?」


ミドリ「だからなんでミドリが英語なんだよ! それに、そんな風に話しかけてくる子ども、気色悪いわ!」


キミエ「もう、わがままだなぁ、ミドリちゃんは」


ササミ「そうだ、そうだ。せっかく人が親身になって協力してるのに」


ミドリ「私か!? 私が悪いのか!? もういい! 呼ばれ方なんてどうでもいい! なるようになれだ!」  


アイリ「あ~あ、すっかりへそ曲げちゃって」


キミエ「だけどいいよねぇ、赤ちゃん。ボーロとか、食べさせてみたいよねぇ」


アイリ「私も赤ちゃんにはついつい目がいっちゃう。さすがに話しかける勇気はないけど。でも、目を大きく見開いて見つめると、興味深げに見つめ返してくるのがすごくかわいい」


ミドリ「それ、聞いたことある。赤ん坊は人の目に反応するんだってな。私も今度、やってみるかな」


アイリ「だったらショッピングモールとかがおすすめ、赤ちゃん連れ多いから。エスカレーターに乗ってる時とかレジ待ちみたいに立ち止まってる時なんかが狙い目」


ササミ「みなさん、赤ちゃん談義が尽きませんな~。まさに赤ちゃんは客寄せパンダ。猫カフェみたいに、赤ちゃんとふれあえるカフェがあったら、きっと大盛況間違いなし」


キミエ「さすがにそれは問題ありそう。個人的には行ってみたい気もするけど」


アイリ「だけどよく考えてみると、私たちが手放しで『かわいい、かわいい』って言ってられるのって、その子とそんなに深い関わりがないからっていうのもあるよね。実際育てる責務を負ってる親からすれば、『かわいい』だけじゃ済まされないこともあるんじゃない?」


キミエ「そうなんだろうねぇ、たぶん。時々『何もそんな言い方しなくても』って思うような叱り方してるお父さんやお母さんいるからねぇ」


ミドリ「う~ん。その辺のことは、やっぱり実際に育てる側になってみないとわかんないよなぁ」


ササミ「もしそうなったら、虐待する親の気持ちもわかるかな?」


ミドリ「そんなのわかってたまるか! 虐待なんかするヤツはな、異常なんだよ、異常!」


キミエ「熱いねぇ、ミドリちゃん。お兄さんの赤ちゃんがきっかけで、母性本能に目覚めた?」


ミドリ「茶化すな! 子どもを大事に思うのは、生物として当然のことだろうが! だから、子どもを虐待するヤツは異常なんだよ!」


アイリ「その手の主張ってよく聞くけど、それってホントにそう?」


ミドリ「なにぃ!? 違うって言うのか!?」


アイリ「じゃあ、人に育てられた動物園とかの動物が、育児放棄したりするのは何で? そもそも、遺伝子レベルで刻み込まれてることなら、問題になるくらい高確率で発生する?」


ミドリ「うっ、言われてみればそうだけど・・・・・・」


キミエ「虐待されて育った人は、自分の子どもも虐待するっていう負の連鎖って、今じゃ広く知られるようになってきたしねぇ。やっぱり良しにつけ悪しきにつけ、自分がされなかったことはやれないし、されてきたことはやっちゃうってことじゃないかなぁ」


アイリ「大前提として『こうあるべき』っていうのを決めちゃって、そこからはみ出した人を『異常』として片付けちゃうのって、わかりやすくて簡単だけど、それって結局何の解決のもならないし、やっぱり違うと思う」


ミドリ「それはそうなのかもしれないけど、だけどそうなると、私らが赤ん坊をかわいいって思うのも後天的な刷り込みの産物ってことにならないか? なんか釈然としないなぁ・・・・・・」


キミエ「別にそれでいいんじゃないかな? 人ってそういう後天的に得た知識で物事判断してるんだから」


ミドリ「そういうものかぁ?」


キミエ「うん、そうだよ。だって、子どもや孫に対する愛情は無条件ってこと、よく言われるけど、実際は違うよね。ホントのところは有機体で、ほ乳類で、いわゆるヒトで、しかも自分の遺伝子を受け継いでてとかとか、すごく条件が厳しいから」


ミドリ「確かにその条件ていうのは、後天的に得た知識ではあるよなぁ」


キミエ「でしょ。もしそれがなかったら、赤ちゃんが周りの存在全部に興味を示すように、すべての存在に愛着を感じるか、逆に全く感じないかのどっちかになるんじゃないのかな?」


アイリ「でも、その意識を向けられるほうとしては、その両方とも受け入れられないものなんじゃない?」


ミドリ「後のほうは当然だとして、最初のほうもか?」


アイリ「うん。だって、大抵の人は他の存在と同列に扱われること嫌がるでしょ」


ササミ「『人は犬猫みたいに扱われていい存在ではない!』って真顔で力説する人いるもんね。そういうの聞く度に、思わず『わんことにゃんこに失礼~』って言いたくなる」


キミエ「その人の中だと、犬や猫の存在価値は、人よりずっと下のほうに位置づけられてるんだね、きっと」


アイリ「その一方で、ペットを家族と同等の存在として接する人もいるのも事実だよね」


キミエ「それについて、どっちの価値判断のほうが正しいって明言できる人、いるのかな?」


ササミ「序列が存在するって言う人がいたら是非聞いてみたい、その基準てもの。あと、そこから派生する人間間での格付け基準も」


ミドリ「ま、絶対的な価値基準があるんだとしたら、当然そういう流れになるんだろうなぁ・・・・・・」


キミエ「よし! そういう心配はそっちの立場の人に任せて、私たちは私たちの立場でまとめようか」

考察・その十『価値を生じさせるのは人の意識の思い込み』


ミドリ「それにしてもササミ。おまえ、今回あんまり発言しなかったな」


ササミ「そう? 期待はずれだった? なら、これから独演会でも開こうか?」


ミドリ「いいよそんなの。もう終わりだし」


キミエ「じゃあ、そんなササミちゃんに最後の締めの言葉をお願いしようかな。お題はそうだねぇ~、これから生まれてくる赤ちゃんたちへ贈る言葉!」


ササミ「よかろう、コホン。『人間にとって最も善いことは生まれないこと、存在しないこと。次に善いことは、すぐ死ぬことだ』」


ミドリ「おまえ、なに言ってんだ! シレノス気取りかよ! 笑いの要素ないし、0点だ0点!」


ササミ「そこはそれ、最終回前のシリアスパートってことで」


アイリ「まぁ、三月ってそういう時期だよね・・・・・・」


ミドリ「ただのおしゃべりに起承転結もシンデレラ曲線も関係ないだろ!」


キミエ「ってことで、次回いよいよ最終回!」 

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