第八話
キミエ「いよいよ始まったね、オリンピック!」
ミドリ「な! オリンピックな!」
ササミ「今回も睡眠不足の人が、世にたくさんあふれそうですな!」
キミエ「だね! で、たくさん競技はあるけど、その中で特に注目なのは?」
ミドリ「あれだろ? あの滑るヤツ!」
キミエ「ああ! あの滑るのね!」
ササミ「滑る! 滑れ! 滑ろ!」
アイリ「何なの? そのハイテンション。それに、冬のオリンピックって、ほとんどが滑る競技でしょ。もう関心ないってことバレバレ。本当に見る気あるの?」
ミドリ「・・・・・ないな」
キミエ「ないね」
ササミ「私もない」
一同「・・・・・・」
キミエ「話、終わっちゃったね・・・・・・」
ササミ「やっぱり無謀だったね、興味のない時事ネタに無理矢理のっかるのって」
ミドリ「だいたい人がスポーツしてるとこ見て何が楽しいんだっていうんだよ! ゲームにしたってそうだろ? 何だって自分でやってこそのもんだろうが! わからん! スポーツ中継とかの意味が全然わからん!」
ササミ「ふむふむ。ミドリは『同じアホなら踊らにゃ損々』タイプってことだね」
ミドリ「よりよって何でそれだ! 引用するならもっといい言葉選べ!」
キミエ「まぁ、楽しみ方は人それぞれだから、意見のゴリ押しはできないよ」
アイリ「似た感性でも持ち合わせてないと、その人の意見とか解釈とか力説されても、引かれちゃうだけだし」
ミドリ「だけど、スポーツ中継って見所わからんし、ホントつまらん!」
キミエ「そりゃ、興味なかったら何でもつまらないよ。でも、テレビでわざわざ放映するくらいだから、やっぱり興味ある人が多いってことじゃないの?」
ササミ「かもね。少なくとも、私の周りにはいないけど」
アイリ「外国だったりすると、スポーツ好きの人ってイメージわくけど、日本だとちょっとピンとこないよね」
キミエ「え? でも、日本にも普段から熱心にスポーツ見てる人たちいるよ。そういう人たちはスポーツ好きって言わないの?」
アイリ「それは、その特定のスポーツが好きってだけで、本当の意味でのスポーツ好きとは違うと思う」
ササミ「いわゆるあれだね。血統書付きとか雑種とかの区別なしで犬をかわいがれる人じゃないと、犬好きと呼べないって話と同じ感じの」
アイリ「うん、そう」
ミドリ「そういえばちょっと前、テレビでマイナー競技の選手は、活動資金の調達にすごく苦労してるって特集やってたな。本当にスポーツ好きが多いんなら、そんな状況にはならないか」
ササミ「ある程度の知名度があれば、スポンサーも付くんだろうけどね」
キミエ「だね。今のスポーツって科学技術と切っても切れない関係だから、いくらお金をつぎ込めるかで、出せる結果も違ってくるらしいし切実な問題だね」
アイリ「つまり、国際試合で結果が出せないのは、スポーツ民度の低さと関係あるってこと?」
ミドリ「だな。だいたい日本人には『にわか』が多いんだよ。数年に一度開催されるヤツには特にな」
キミエ「ただ見て騒ぎたいだけの人が多いってことなの? でも、それって日本だけのことかな?」
ササミ「ノン。洋の東西を問わず、常に民衆が求めるものは『パンとサーカス』」
アイリ「今の世相を堕落したローマ市民と重ね合わせるの!? 挑発的な発言はやめて!」
ミドリ「でも、あの時代の娯楽っていったらスポーツ観戦なんだろ? あながち間違いでもないんじゃないか?」
キミエ「そうかぁ。いつの時代の人も、優劣付けるものに熱狂するんだね」
ササミ「もしかしたら、ある種本能に根ざした欲求なのかもね。まぁ、私くらいになると、その手の娯楽は必要ないけどね」
キミエ「じゃあ、ササミちゃんにとっての娯楽ってなに?」
ササミ「もちろんこれ。こう長いすにコロンと横になって目を閉じれば、それだけで幸せ。・・・・・・おやすみなさい」
ミドリ「って、寝るな! 偉そうなこと言って、別な欲求のほうが強いだけだろ、おまえの場合は!」
アイリ「それはそうと、優劣っていえば一昔前、運動会で順位をつけないっていう話あったよね。あれって今でもやってるのかな?」
キミエ「どうなんだろう? でも、そういうこと主張する人たちって、こういう公然と優劣付けが行われるイベントの時、どうしてるんだろうね」
ミドリ「そりゃ、ダンマリ決め込むに決まってるだろ。オリンピックでの順位付け反対運動なんて聞いたことないし、第一、そんなことしたらヒンシュク買うだけだしな」
ササミ「結局、主義なき主張ってことだね。こういうことはオール・オア・ナッシング。例外作ったらおしまいなのに」
キミエ「ま、たとえちゃんと主義があったとしても、あの手の優劣付け否定の主張って定着することはないんじゃないかな」
ミドリ「まぁ、そうだろうけど、何でだ?」
キミエ「だって、矛盾してるから」
アイリ「矛盾?」
キミエ「うん。『総論賛成、各論反対』って言葉あるでしょ? 抽象的な目的にはみんなの合意が得られても、いざ具体的な段階になると全然意見がまとまらない。それは、人それぞれ立脚するものが違うから。そんな状況の中、自分の意見を通そうと思ったら何が必要?」
ミドリ「う~ん。パッと思いつく限りだと議論かなぁ」
キミエ「だよね。相手もたぶん自分の意見は正しいと思ってるはずだから、それを覆すには議論で勝しかないよね。それか、実力行使かとか」
アイリ「どっちにしろ、自分の優位性を示す必要があるってこと?」
キミエ「そう」
ササミ「つまり、優劣付けを否定するために、優劣付けを必要とする矛盾てことだね」
キミエ「その通り!」
ミドリ「結局、どんなものにも優劣を付けずにはいられないのか、人間て。まったく因果なもんだな」
アイリ「たとえ話題が平和的なものでも、議論してる人がすごく好戦的で攻撃的に感じられること、端から見てるとよくある」
ササミ「もしかすると、自分の意見を声高に主張する人の根底には、人より優位に立ちたいっていう欲求があるのかもね」
キミエ「畑違いの心理分析は置いといて、そろそろまとめしようか」
考察・その八『人が集団で暮らす以上、優劣の付け合いはなくならない』
ササミ「ってことは、ネットとか公の場所に意見を投稿するのってある意味対戦要求? 本気で否定しても許される?」
ミドリ「やめとけって。恨み買うだけだぞ」
キミエ「誰でも自分の意見て否定されたくないものだからね」
ササミ「自分は人の意見とか否定してるくせに? 勝手だね」
アイリ「しょうがないんじゃない。勝手な人って多いからから・・・・・・」




