表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大変な作業

作者: 杜若
掲載日:2007/04/04

怪談とお笑い なんとか一つにまとめたくて挑戦してみました

「こんにちは、赤ちゃんの顔見に来たよ」

「わ、来てくれたの。ありがとう。」

薄いカーテンに囲まれたベッドに座った由美子は

疲れた様子だったが、その顔には聖母のような

微笑が浮かび、潤んだ瞳は誇らしげな輝きがあって

私は一瞬みとれてしまった。

「とりあえず座って、びっくりしたでしょう。古くて」

そう言いながら薦めてくれたパイプ椅子に、私は

ありがたく腰掛けさせてもらった。

「・・・・・たしかに、古いわねえ」

それに言っちゃ悪いがあまり清潔そうではない。

天井はしみだらけだし、床は所々リノリウムがはがれて

コンクリートがむき出しになっている。

窓は埃で白く曇ってまるですりガラスのようで、

布団からはちょっとかびたような匂いまでする。

赤ん坊の肌着だけが、真っ白なのが唯一の救いに思えてきた。

「運が悪かったのよ。まさか臨月になってあんなことが起きるなんて」

由美子の眉がちょっとひそまる。元々彼女が出産する予定だった

病院は、ホテル並みの個室にサービスが売りの個人病院だった。

それが、由美子がいざ産み月となった時に火事になってしまったのだ。

慌てて受け入れてくれる病院を探したが、産婦人科の不足がテレビでも

取り上げられるご時勢やっと見つかったのが、ここだった。

「でも、ここで産める。と思った時はここが天国に見えたわ。最悪自宅出産まで覚悟したんだから」

「うーん、このご時代に自宅出産はきついわねえ。産婆さんなんて、絶滅寸前だろうし」

「そうそう、ねえ、せっかく来たんだから赤ちゃん、抱いていって」

「うん。その前に手を洗ってくるね」

そういって私は薄暗い廊下に出た。お手洗いは廊下の突き当たりだ。

その手前、分娩室と札のかかった部屋のドアが開けっ放しになっている。

私は好奇心に引かれ、中に入ってみた。

古そうな背の高い椅子が一つ、わけの分からない器具に囲まれておかれている。

生命の誕生の場所というより、学校の理科室みたいだ。

こんな所で由美子は赤ちゃんを産んだんだ。怖くなかったのかしら。

と、とんとんと肩をたたかれ、私は飛び上がりそうになりながら振り返った。

看護師さんが立っている。

「あ、すいません。いまでていき・・・・・」

私の言葉は途中で絶叫に変わった。

普通に人間は、天井からぶら下がったりしない。というかできない。

幽霊だ。今は真昼間だけど、テレビで見たことしかないけれど

今目の前に居るのは間違いなく幽霊だ。

私は腕をぐるんぐるん振り回しながら、分娩室をとびだして

由美子の居る病室に駆け込んだ

「どうしたの?」

首をかしげる由美子に、私は震えてつっかえつっかえしながら

今見たものを告げた。

「ゆ、由美子。や、やばいよここ。退院しなよ。私、霊感ないけどばっちりみえちゃった

やばいって」

「私も、見たわよ」

「へ」

「分娩室の人でしょ。陣痛が一番つらかった時、目の前にぶらん、とぶら下がってきたのよね

こっちは痛みでどうにかなりそうだったから、思わず手を握っちゃった」

「・・・・・・」

にこにこと笑いながらいう由美子

「握った?幽霊の手を?」

「そうよ。陣痛の時って何か握りたくなるのよね。とりあえず調度いい場所に手があったのよ

ちゃんと握れたから良かったわ。それより、だっこしてみて。」

「う、うん」

差し出された赤ちゃんを私はおっかなびっくり抱いた。

が、頭の中はショートしっぱなしだ。

由美子って人一倍怖がりじゃなかったっけ。ホラー映画だって一人で見れなかったはずだ

それなのに、幽霊の手を握った?そんなにすごいのかしら、陣痛って。

「結構上手じゃない。そうそう、秋には結婚するんでしょ。貴方にも早く

赤ちゃんが出来るといいわね」

「う、うん」

あいまいな返事をした私の横を

すーっとおばあさんが通っていった。

同室の人かな?

え、ちょっとまって。体が透けて見えてるんですけど

というか、壁の中からでてきませんでしたか。おばあちゃん。

あの、その寝巻きの前にべったりくっついてるの 血糊じゃありませんか

「ゆ、由美子。い、今の人、」

「うん、時々出てくるの。昨日も夜中に来たわ

赤ちゃんがすっごく泣いて、私も泣きそうだったんだけど

あやしてくれたらなきやんだの。親切な人よ」

人、人か。人なのか。あれは

「ゆ、由美子、お、お札とかもらってこよか」

「え、どうして?すっごく助かってるから。大丈夫よ。ほーら、

おばあちゃんきてくれましたよう。」

由美子の言葉に私はおそるおそる横を見て、本当に飛び上がった。

いつのまにか血まみれの老婆が横に立って

じーっと赤ちゃんを見ているのだ。

それをにこにこと見つめている由美子。

「この人がいると不思議と泣かないのよ。本当に助かるわあ」

「あかちゃん、ありがとう」

私は由美子に赤ちゃんを返すと、ぐったりといすに腰を下ろした

老婆の姿はいつの間にか消えている。

「忙しいのに来てくれて、本当にありがとう。大変でしょ結婚式の準備」

由美子の言葉に私は首を振った。

本当は、仕事の合間をぬってやっている結婚式の準備の大変さを

愚痴ろうと思って来たのだが、出産に比べたらたいしたことなかったようだ。

少なくとも私は、結婚式場の天井から看護士がぶら下がったり

壁から血まみれの老婆が出てくれば。叫んで逃げるくらいの

分別は、残っている。





よろしければ 評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーは文句なしに面白いです。 しかし、不自然な改行が目立ちました。携帯のディスプレイでは大丈夫なようですが、パソコンですとそれが目だってすこし不自然に思いました。 しかし、短くてすっき…
[一言] 初めて拝読いたしました。小説が書けるという事だけで尊敬してしまいます。登場人物の癖とか表情とか細かな仕草が加えられたら、よりリアルにお話の世界に入り込めるかもな…と思いました。ナマ言って、す…
[一言] 怖面白い!どういう顔をしたらいいのかわからなくなりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ