第6話:挟撃
――――――――――リサルチア王国とシアノイツ王国の国境近く、リサルチア軍中にて。偽聖女ニーナ視点。
「大変です! 我が国が西の隣国ゾリバス帝国に攻められております!」
「「マジかー」」
総司令官であるデレクのおっちゃんの声とハモった。
東の隣国シアノイツが攻めてきたので、国境まで出張って応戦しています。
そしたら西の帝国に攻められました。
今ココ。
「ゾリバスのことだから、どうせ大軍で来てるんだろう?」
「はい。少官が王都を発った時点では、国境守備隊と諸侯の領兵の連合軍で迎え撃っているという急報が入ったところでした」
「じゃあもうとっくに国境は突破されてるな。ゾリバスに抵抗できるまとまった軍なんか途中にないから、王都パリスで籠城ってことになる」
「挟み撃ちってやるほうは愉快だけど、やられると実に面白くないね」
「まったくだ。もっとも俺達はシアノイツと戦うことを目的に出張ってきてるんだから、ゾリバスのことは知らんっていう考え方もあるんだが」
他の隊長さん達も頷いてるわ。
今回の東方への対シアノイツ迎撃軍の中では、総司令官であることや今までの実績もあって、デレクのおっちゃんが圧倒的に認められててさ。
軍議ってわけじゃないけど、方針を決める際にはおっちゃんとあたしとお喋りしてるのを皆さんが聞いているというスタイルになった。
何か説明がちょこちょこ入るからわかりやすいし、肩肘張らなくていいからリラックスするのにいいんだって。
つまりあたしは可愛いマスコット以上の働きを要求されてしまっている。
「でもデレクのおっちゃんはできる男だから、西の帝国に対して手を打たないってことはないんでしょ? 伝令さんは言われてないみたいだけど、西も何とかしてくれってことなんだろうし」
「リサルチア全体のことを考えりゃゾリバスを放ってはおけないな。かといってシアノイツだって強敵だし。まったくできる男はつらいぜ」
「他の指揮官の皆さんの考えはどーなん?」
「俺達の職責は対シアノイツにあるんだから、東方戦線に注力する。西のゾリバスは放置だ、という考え方の者は挙手してくれ」
誰も手を上げない。
そりゃそーだ。
リサルチアは対シアノイツに注力しているから、ゾリバス帝国軍とまともに戦えるだけの兵力や人材は残ってないんじゃないかな?
しかし……。
「こーゆー事態にならないように、陛下御夫妻が外遊して各国に協力を要請してたんじゃないの? どーなってるのよ?」
「いや、アホ殿下とニーナちゃんの婚約破棄があったろ? だから陛下は帝国滞在の予定をキャンセルして帰国してるんだ。帝国はバカにされたと感じたかもしれない」
「マジか。知らなかったわ」
そんな予定外の事態が起きてるとは。
微妙にあたしのせいじゃないか。
違うわ、あたしとの婚約を破棄したアラスター殿下のせいだわ。
何がどう関わってくるか、わからんものだなあ。
アラスター殿下とカトリーヌちゃん、今頃青い顔してるんじゃないの?
「ニーナちゃん、どうするよ? とっとと方針決めなきゃいけないんだが」
「それあたしに聞いちゃうのかよ。おっちゃん達のお仕事じゃん。あたしは軍人じゃないし、大体権限がないもん」
「軍人の発想だと王都に取って返すか、あるいはシアノイツに降伏するか。大きく分けて二択だな」
つまりそれ以外の方策があるかを聞かれてるのか。
隊長さん達は頷いてるけど、多分デレクのおっちゃんは降伏するつもりなんかないだろ。
往生際の悪い……粘り強い人だから、何とかシアノイツと手打ちにして王都で帝国軍と決戦と考えてるんじゃないかな?
西から帝国が攻めてくるなら王都陥落のピンチだ。
リサルチア軍の主力がシアノイツとの国境で戦線を維持していても全く意味がない。
第一もう前線に兵糧も送ってこられないだろう。
短期で決着つけるのは大前提だ。
……ふつーならシアノイツ軍の追撃はある程度覚悟して、王都へ急ぎ取って返すの一択だろ。
でもデレクのおっちゃんが降伏をわざわざ口にしたのは、リサルチア王家の求心力の問題なんじゃないかな。
アラスター王太子殿下のやらかしが露骨に危機を呼び込んでるから、臣民が国を支えようって気をなくして保身に走っちゃうという。
おっちゃんったらアホ殿下言っちゃってるしなー。
そのアホ殿下発言に対して皆さんメッチャ首を縦に振ってたしな?
ならば……。
「降伏はありなん? まだシアノイツと大きな戦いにはなっていないから、簡単に許されるタイミングであるとは思うけど」
「降伏に賛成という者は手を挙げてくれ」
誰も手を挙げない。
ほぼほぼ何もしていないのに降伏とゆーのは、軍人としての矜持が許さないのかもしれないな。
矜持なんてものは飯の種にはならんのだけど。
「では降伏はなし。必然的に王都パリスに転進することになるが、モタモタしてると王都は陥落する。急がねばならんがどうする?」
「シアノイツの司令官をとっ捕まえよう。それで東の戦争は止まる」
「えっ? エセルバート殿下を捕まえる? 可能ならシアノイツとは休戦にできるが、ニーナちゃんそんなことができるのかよ?」
「できると思う」
「ニーナちゃんの魔法で?」
「まあ」
シアノイツ軍の総司令官はエセルバートという第一王子殿下だ。
王子が自ら戦場に出てくること自体偉いと思う。
皆さんあたしのエセルバート殿下を捕まえる発言に半信半疑なのはわかってるけど、こうなったからにはあたしも出し惜しみなしでいくわ。
「どうせゾリバス帝国がリサルチアに攻め込んでることは、シアノイツ軍もすぐに知るでしょ?」
「多分ね」
「じゃ、引っかかるんじゃないかな? こうして……」
あたしの魔法でどうたらこうたら。
デレクのおっちゃん以外の指揮官の皆さんは驚愕してるのに、おっちゃんは呆れた顔してる。
せっかく勝てるアイデアを出してるんだから、もうちょっと尊敬しろ。
「ニーナちゃんの魔法って、俺が思っていた以上だな。言ってくれりゃもっと楽できたのに」
「職責ってやつがあるじゃん? おっちゃんだってあたしをヒーラーとして呼んだんだし、あたしもそれ以上の働きをする気はなかったわけよ」
「そりゃそうか。俺も軍人として命令の是非はともかく、従うことにしてるもんな。今リサルチア王国が危機に陥って、初めてフリーハンドを与えられた気がする」
首肯する皆さん。
デレクのおっちゃんみたいな視野の広い人は、ただの軍人じゃもったいない気はするけどね。
「あたしは軍人ですらないから、出過ぎたマネすることは控えてたわけよ。それにあたしの魔力は、人を癒すために神様がくれたと思うんだよねえ。敵軍にダメージを与えるためじゃない」
「まあわかる。今回はニーナちゃんの作戦が一番両軍の人的損害が少ないから、神様も許してくれるだろうってことなんだな?」
「そうそう。おっちゃんはわかってるなあ」
「俺も神罰の対象になるのは勘弁して欲しいからわからざるを得ない」
アハハ、とりあえず作戦は決まった。
あたしの魔法でもってシアノイツ軍を翻弄し、総司令官はエセルバート第一王子殿下をとっ捕まえてくれる。
攻撃魔法でも撃ち込むのかって?
あたしが従軍してることをシアノイツ軍が知ってれば、さすがに陣には対魔法結界張ってるんじゃないの?
もうちょっとエレガントな方法で降参させるんだとゆーのに。
「首尾よく殿下を捕らえることができれば話し合い。逃げられたらそのまま王都に向かって撤収だな?」
「そーだね。捕らえ損ねても追撃されずに帰れると思う」




