第3話:偽聖女教会設立
「ニーナよ。偽聖女教会を作るのじゃ」
「偽聖女教会?」
色々ゴタゴタはあったけど、結局アラスター殿下との婚約破棄と筆頭聖女解任はその通りになった。
とゆーか陛下御夫妻が大慌てで帰国した時には、時間が経ち過ぎてて既にどうにもならなかったとゆーのが正しい。
あたしも王都を出ちゃってたしな。
自由になったぞ、やっほい!
王都近郊の村ラパでブラブラしてたら、聖女教会のじっちゃんことテオドール大司教が押しかけてきた。
聖女教会辞めてきたんだって。
何で?
「聖女教会は貴族閥に成り下がった。偽聖女教会の方がマシだからじゃ」
「アラスター殿下の婚約者で筆頭聖女のカトリーヌちゃん中心に、聖女教会は動き始めたってことか。わからんでもないけど、じっちゃんが偽聖女教会なんて言ってちゃいけないんじゃないの?」
「問題ない。我が国は信教の自由が保障されておるからの」
「そお? いや、それはそれとして、何で偽聖女教会なん?」
「お主が言っていたではないか。魔法属性や魔力容量を授けるのは神様だと」
「言ったけれども」
「つまり神はお主に聖女として働けと能力を授けておるのじゃ。人間の都合で聖女をクビになったのなら、偽聖女として働くべきじゃ」
「……なるほど?」
さすがは年の功。
何となく大司教のじっちゃんが言ってることは正しそうな気がする。
「でも聖女教会があれば足りるんじゃないの?」
「そんなことないわい。ニーナが何人分も働いていたから回っていたようなものじゃ。それに神をも恐れぬお主が……」
「ちょっと待った! 神様を恐れないことないわ。そこまで罰当たりじゃないわ」
「傍若無人なお主がいたからこそ貴族閥を抑えることができ、聖女教会は均衡が取れていたのじゃ。お主が抜けたらすぐに問題は表面化する」
「ええ? それわかっててトップが辞めてこっち来ちゃったのかよ」
「わしじゃってくだらぬ苦労はしたくないのじゃ」
「わかる。あたしも同じ理由でアラスター殿下の婚約者辞めたかったわ。偽聖女教会を立ち上げることはくだらなくない苦労なんだ?」
ふっとため息を吐くじっちゃん。
「まあの。ニーナがここにいる、という旗印が必要なのじゃ」
「んー? そーなん?」
「一ヶ月も経てば理解できるわい。お主もこのラパ村に使われていない礼拝堂があるから来たのじゃろう?」
「その礼拝堂を偽聖女教会の本部にするってこと? いや、あたしはおいしそうなイノシシの群れを近くで見たことがあるから来ただけ」
「理由は何でもいいわい。ラパ村に導かれたことが重要なのじゃ」
そーなの?
まあじっちゃんが納得してるならいいや。
「あたしはイノシシ狩ってくるよ。畑を荒らすらしくて、村人が迷惑してるんだ」
「わしは礼拝堂を覗いてくるかの。使えるようにするのは骨が折れそうじゃが」
「村人に手伝ってもらえばいいよ。イノシシ鍋腹一杯食わせてやる代わりに手伝えってさ」
「ふむ? イノシシ狩りに自信があるのか?」
「誰にものを言ってるのよ」
あたしが使えるのは癒しや祝福の聖属性魔法だけじゃないわ。
宮廷魔道士の皆さんが寄ってたかって魔法の手ほどきをしてくれたわ。
時々教会抜け出して、イノシシやシカを狩って感謝されてたわ。
「行ってくる!」
◇
――――――――――一方その頃、王宮にて。王太子アラスター視点。
父陛下の帰国後、勝手に聖女ニーナとの婚約を破棄したのは何故だと叱られた。
何でも世界どこへ行っても聖女として認められるのはあの平民しかいないそうで。
父陛下も外遊中、我がリサルチア王国には正真正銘の聖女がいる、しかも次期王の婚約者だってことで、かなり大きな顔ができていたらしい。
でもなあ。
『陛下、よくお考え下さい』
『何をだ!』
『元々ニーナなどという平民はイレギュラーな存在ではありませんか。私がカトリーヌ・ディクスドラン公爵令嬢と婚約することは規定路線でしたよ』
『む? まあ……』
父陛下が帰国したら文句言われることはわかってた。
しかし私がカトリーヌと婚約することに賛成してくれる者は多いのだ。
どんなやり取りになるかというシミュレーションは既にできていた。
『ニーナ以前に筆頭聖女を務めていたほど、カトリーヌに実力があることは事実です。しかもディクスドラン公爵家の令嬢ですよ? 後ろ盾として考えた時、絶対にカトリーヌを婚約者にしておくほうがいいですよ。貴族の支持も得やすいですし』
『……うむ』
『母上や宰相も賛成です。陛下の留守中に勝手なことをしたのは申し訳なかったですが、間違いではなかったと信じております』
通った、よしよし。
いや、私は決して元筆頭聖女ニーナが嫌いなどということはないのだ。
可愛らしくて愛嬌があるというのはその通りだから。
でもなあ、色気を丸っきり感じないんだよな。
マナーはなってないしメチャクチャ無礼だし。
頭がいいからかもしれないけれど、口で勝てる気がしないし。
守旧派の貴族から平民の婚約者はどうなのかという根強い反発があることもあり、私の将来の妃として見ることはできなかったな。
しかしニーナに存在感があることは疑い得ない。
婚約破棄の現場でもそうだった。
私が婚約を破棄する側なのにも拘らず、全く主導権を握れなかったのはどういうことなのだろう?
実に忌々しいことではある。
……しかし結果としてはニーナの言うことを聞いておいてよかったとも思える。
王家及びカトリーヌと聖女教会との関係悪化を、最小限に抑えることができたからだ。
テオドール大司教が責任を取って辞任したようだが、むしろ聖女教会に譲歩を強いたとも言えるから、王権の強化に役立っていると父陛下も考えているのではないかな?
ともかく今のところ私の思い通りうまくいっているのだ。
ただカトリーヌが気になることを言っていたな。
聖女教会がうまく回らないと。
あんな無礼な平民聖女ニーナでも治療院にはしょっちゅう顔を出し、奉仕に励んでいたようであるから、市民人気は抜群であったと聞く。
カトリーヌもニーナのようにもっと奉仕に身を入れれば、理解を得られてやりやすくなるのではないか?
いや、魔力容量だけが取り柄のニーナと比較するのもフェアでないか。
あと聖女教会の運営がうまくない理由としては、テオドール大司教が抜けたこともあるだろうな。
トップ二人が抜けて組織が少々動揺するのは仕方あるまい。
逆に王家やカトリーヌの影響力を聖女教会に浸透させやすいとも言えるのではないか?
結論、時間が解決することだ。
◇
――――――――――一ヶ月後、偽聖女ニーナ視点。
大司教のじっちゃんの言う通り、一ヶ月もしたらマジで状況が変わった。
王都聖女教会の、特に平民の修道士修道女や司祭・助祭、聖女達が逃げてきたのだ。
何で?
「ニーナ様がいなくなってからの聖女教会は本当にひどいのです!」
「俺達ばかりに仕事を押しつけて、貴族は遊び回っている!」
「でもカトリーヌちゃんとか元々そんな感じだったじゃん」
「どうせ貴族出身者は何もしないのじゃろ?」
「「「「はい!」」」」
「やらせりゃいいじゃん」
「ニーナ様くらいの実力やテオドール大司教猊下の権威がないとムリです」
「聖女教会は貴族出身者に任せておけばよい。やつらしかおらねば、嫌でも何とかするじゃろ」
「私達も偽聖女教会に置いてください」
「構わんけど、こっちお給料は出ないぞ? 食べ物はある」
「「「「十分です!」」」」
「そお? 逃げたきゃ逃げていいからね」
実務を担ってた人員がかなーりこっち来ちゃったぞ?
王都の聖女教会はやれるのかなあ?




