第2話:やったぜ! 婚約破棄だ!
「偽聖女ニーナ! 私はそなたとの婚約を破棄する!」
「やったあ!」
王家と聖女教会の合同感謝祭パーティーで、リサルチア王国アラスター王太子殿下が声高に宣言した。
賢いあたしは知っている。
身分の高い人の発言には重みがあるから、そうそう言ったことを取り消せないと。
これであたしは自由だ、やっほい!
殿下はカトリーヌちゃんと仲良くしてりゃいいよ。
「やったあ、とは何事だ!」
「ごめんね。あんまり嬉しかったもんだから。口の中に食べ物入れたままバンザイしたのは淑女らしくなかった」
「ニーナに淑女らしさなど期待してな……そうでなくてだな!」
何だったろ?
出席者の皆さんも固唾を呑んでるけど、緊張感のある場面じゃなくない?
あたしが婚約破棄されただけだぞ?
「そなたは私に婚約破棄されて何を喜んでいるのだ!」
「嬉しいからに決まってるじゃん。身分の違いってやつがあるから、平民のあたしから婚約破棄することなんかできないんだぞ?」
殿下はそんなことも知らないのか。
まったくおバカなんだから。
「私に何の不満があるのだ!」
「あれ? あたしのセリフを何げなく取られたな。……とゆーか殿下のいいところって、顔と健康くらいしかなくない?」
「十分だろうが!」
「おおう」
そーきたか。
いや、信頼できる優秀な家臣がいれば政治は回るな。
子作りだけすればいいなら、ある意味殿下の言ってることは正しいわ。
「年回りの合う中で最も高位の聖女が殿下の婚約者ってことになってたじゃん? まーあたしも結構なお給料いただいてるし、義理には勝てないわ。だから渋々殿下の婚約者を引き受けたんだよ」
ぶっちゃけ過ぎだろって声がどこかから聞こえたけど、これは本音。
「に、ニーナは私が嫌いなのか?」
「嫌いじゃないよ」
好きでもないけど。
それより殿下とカトリーヌちゃんの恋路を邪魔してるのが気持ち悪かったんだよ。
「そ、そうか」
「何を喜んだ顔してるのよ? 殿下は今あたしを婚約破棄したんじゃなかったっけ?」
「そうだ、偽聖女ニーナよ! そなたは不敬に過ぎる!」
「えっ? でも殿下はそのままのあたしが好きって……」
「言ってない!」
「あたしも言われた覚えなかったわ」
アハハ。
観客の皆さんもお喜びだわ。
「ごめんね。正直だから本音が漏れちゃうの。ところで偽聖女って何?」
あたし筆頭聖女じゃなかったっけ?
誇らしげにアラスター殿下が言う。
「聖女とは王家が任命するものなのだ! よって父陛下が外遊中の今、聖女の任命権罷免権は王太子たる私が持つ! 私はニーナをクビにした!」
「へー」
大司教のじっちゃんがアホ王子にしてはよく気付いたって顔してるわ。
じゃあ殿下の言ってることは本当なんだな。
「聖女でなくなったそなたを私が婚約者とする意味はない。よって婚約破棄したということだ!」
あれえ? 殿下にしては論理的な気がする。
誰かに教えてもらったのかな?
「新しく筆頭聖女となったのはこの、カトリーヌ・ディクスドラン公爵令嬢だ。同時に私の婚約者となる!」
「はいはい」
カトリーヌちゃんと結ばれたいのはわかってるって。
ただカトリーヌちゃんは可愛いけど、性格は悪いぞ?
殿下の前ではそーゆー面を見せてないのかもしれんけど。
で、筆頭聖女が務まるほどの実力はなくない?
「偽聖女ニーナよ。そなたの聖魔力をカトリーヌに与えよ!」
「えっ?」
「さすればカトリーヌは筆頭聖女に相応しい魔力を得るであろう!」
おいおい、どこでそんな知識を仕入れてきたんだよ。
今日の殿下冴え過ぎだろ。
あっ、カトリーヌちゃんがほくそ笑んでるわ。
扇で隠しててもわかるわ。
カトリーヌちゃんの入れ知恵だな?
「聖女による聖属性魔力の譲渡が可能なことは知っている!」
「できるっちゃできると思う。やったことないけど」
「ならばカトリーヌに譲渡せよ!」
「やめとく」
皆さんホッとしてるけど、多分思ってる理由と違うと思うよ?
「拒否するのか! 不敬罪侮辱罪の上に命令服従違反が加わるぞ!」
「えーと、殿下。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「あたしとカトリーヌちゃんじゃ魔力容量が違うじゃん?」
「魔力容量……最大マジックポイントのことだな?」
「冒険者的に言えばそうだね」
「だから何だ!」
「簡単に言うと、あたしがカトリーヌちゃんに聖属性魔力を譲渡したら、カトリーヌちゃんがボンってなっちゃう」
「ボン、とは?」
「カトリーヌちゃんがあたしの魔力を受け切れなくて破裂しちゃう。具体的にゆーと、死ぬか廃人になるか」
「「えっ?」」
「あたしも詳しいことは知らんけど」
そもそも聖属性魔力の譲渡って、聖属性の持ち主が極端に少ない時代に、亡くなる間際の聖女が魔力容量の大きな人を聖属性魔法の使い手にするために譲ったってことだからな?
魔力容量を増やすためにやるなんて聞いたことないわ。
「そ、そなたとカトリーヌでは魔力容量が違い過ぎるということか?」
「そうそう。一〇〇倍くらいは違うと思う。もっとかな?」
聖女教会関係者が頷いてるでしょ?
カトリーヌちゃん青くなっとるわ。
お仕事サボってるから魔力容量が伸びないし、教会では当たり前のことも知らないんだぞ?
余計なことは知ってるクセに。
「な、何故平民のそなたが莫大な魔力容量を持っているのだっ! 理屈に合わんではないか!」
「何の理屈だか知らんけど、貴族だとか平民だとかは人が決めたことだぞ? 一方で魔法属性とか魔力容量を授けるのは神様なの。どーして神様が人に忖度しなきゃいけないのよ? それこそ理屈に合わんわ」
「「……」」
「で、どーする? あたしはどーしても魔力が欲しいってわけじゃないから、譲ってもいいぞ? その代わりカトリーヌちゃんがどうなっても責任は持たない」
「いや、待った! 魔力譲渡についての要請は撤回する」
撤回されたぞ?
殿下の言葉の軽さよ。
皆クスクス笑ってるからな?
「で、婚約破棄については了承するとして、殿下はあたしをどうしたいのよ?」
「国外追放処分にする!」
「あんたはアホか」
「何おう!」
「あたしが聖女クビになったって、莫大な魔力の持ち主であることは変わんないだろーが。貴重な人材を自分の我が儘で他国に追いやってどうする。陛下と王妃様帰ってきたらメッチャ叱られるぞ?」
「じ、じゃあ処刑?」
「筆頭聖女の婚約者をクビにした上処刑なんてよっぽどの罪がないとムリだろ。王家と殿下の信用が揺らぐと、国が転覆しちゃうぞ? あたしも素直に処刑されてやる気はないし」
「どうすればいいんだ!」
「王都から追放くらいにしときなよ。あたしも今までお給料もらってた義理があるから、この国にいてやってもいいよ」
「む? ならばその条件で」
ここまでオーケー。
「で、婚約破棄の慰謝料は?」
「どれだけずうずうしいのだ!」
「殿下自分の立場わかってる? 陛下と王妃様がいない間に勝手なことしてるのには変わりないからな?」
「む……」
「ま、あたしも貴族間のパワーバランス的に、公爵令嬢のカトリーヌちゃんが殿下の婚約者ってのは悪くないと思ってるんだ」
「そうであろう?」
「素直に慰謝料ガッポリ出せば、あたしもカトリーヌちゃんの筆頭聖女就任と殿下の婚約者になることに賛成してやろうって言ってるんだよ。あたしが賛成してるのとゴネてるのでは陛下の印象が違うぞ?」
聖女が断罪されてる現場とは思えんっていう、誰かの呟きが聞こえる。
残念ながらあたしはもう聖女じゃないのだ。
「わ、わかった。しかるべき金額を出そう!」
「よーし、契約は成立だ! 握手!」
わーい!
どこへ行こうかな?




