魔王になってた
「三上!資料の作成済ませておけよ?」
「は、はい!かしこまりました....!」
カタカタカタカタ
周囲はすっかり真っ暗モニターの眩しい光が目に突き刺さる。
「まだ6割程度しかできてないぞ、今日は4時コースだな、んっ、目が痛てぇ.....」
『入社する前まで目は良かった。休むことなくこんな暗い中仕事をしていたらそりゃそうなるか、』
「ハハ、もう疲れたな、」
『あれ、最後に寝たのっていつだっけ、飯も食べてないし.....そうだな、起きれたら飯でも食べに行こう』
三上 良樹 32歳【死因】──過労死
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魔王様、ご報告がございます。
『誰だ?この声、人の久しぶりの睡眠を邪魔しやがって........ってか資料!今日中に終わらせないと!』
魔王様は多忙の身、次起こすような真似をしてみろ、貴様は解雇とする。
『魔王様?って誰?てか瞼重すぎるんだけど?数日ぶりに寝たからかな.....』
三上は重い瞼を気合と根性で無理やり開けた。ゆっくりと開いたその目には始めて見る光景が待っていた。
『なんだここ、』
魔王様!申し訳ございません!魔王様の眠りを妨げてしまい、如何なる罰でm
「良い、静まれ」
『って、え?何今の声とセリフ、俺の口から出たよな?』
三上はゆっくりと視線を落とした。男らしいと自負していた手は更に逞しくなり腕の筋肉等もさっきとは見違えるほどであった。それに視界がハッキリしている、良く眠ったおかげだろうか、おそらく今は寝惚けているか夢の中なのだろう、そう考えた。
『俺ってやっぱり無理してたんだ、夢と現実の区別ができないほどに、俺の体はボロボロだった、せめて夢の中くらい自由になったっていいよな!』
「何か用か?」
『声渋!こんなダンディボイスに生まれてたら声優さんとかになりたいもんだぜ。』
「はっ、辺境の村を襲うようにと命じていたゴブリンやコボルト達が敗戦したようです。その内半数は戦死、残り半分は命からがらこの地まで逃げ果せて来ました。」
『この夢はあれか?異世界か?懐かしいな〜昔小説を書いてたっけ、電車に揺られながら書くのが楽しいんだよな〜』
「辺境の村如き潰せぬとは、軟弱だな。治療が完全に済み次第兵を集めさせろ、我が直々に叩き直してやろう。」
不敵な笑みを浮かべながら目の前に跪いている黒い鎧の着た女騎士にそう命じた。
『かぁー!なんて気分がいいんだ!駒のように動くのではなく部下を駒として動かす!今までの鬱憤が溜まりに溜まっているせいか、ストレスを撒き散らしたいくらいだ、勿論部下以外に放つとして、冷静に考えるとなんで目が覚めないんだ?』
そう疑問に思うと頭の中に情報が大量に流れ込んできた。数秒間動く事も考えることもできないほどの情報量、そこに刻まれていたのはこの世界のことと《自分の死》についてだった。
「.....................」
「魔王様......?どうなされましたか?」
「ラキラタスを残しこの部屋から出ていくのだ、少々考えたいことがあるのだ。」
「も、申し訳ございません!直ちに!」
道を作るかのように待機していた幹部達も正面に構えてある大きな扉から部屋を後にした。部屋、《玉座の魔》には執事のラキラタスと我のみ。
「我の名は魔王クルリオール·ヴェール·ダハト、そうであるな?」
「左様でございます。魔王様」
「貴様の名は我専属の執事ラキラタス·リザルーム、そうであるな?」
「左様でございます。」
白髪のモノクルを付けたイケおじ、黒基調のスーツに身を纏ったこの方は専属の筆頭執事ラキラタス、
「我の亡き父の名はクルリオール·バン·ラスト」
「左様でございます。どうかなさいましたか魔王様。」
「なに、大したことでは無い。ラキラタス、済まないが一人にしてくれ。」
「かしこまりました。」
ラキラタスも皆と同様正面に構えてある大きな扉から玉座の魔を後にした。
「なるほど、」
『俺は日本で会社員として働いてたけど過労で死んだ、んで目を開けてみたらこの世界で魔王として転生していた、と。前のこの身体の持ち主が自分の部屋で転生の義?とかいうやつを遊びでやったら俺が降りてきた、めちゃくちゃバカだな、こいつ。』
「だが嬉しい誤算だな!この体の持ち主の記憶は保持し前世の記憶も保持している、思い出したくもないこともたっくさんあるけど!この世界ではストレス無く生きるぞ!」
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『どうやらこの世界には魔法があるらしい。まぁ、魔王とかいるんだからそりゃあるだろうけど、この世界では剣は使う意味がないとまで言われているらしいが、魔法には魔力が必要だが剣は努力で成り上がれる素晴らしいものだと思ったんだけど....感性は人それぞれってやつだ。』
ダハトは手元に漆黒の炎を出した。魔法があると言ってもダハトの記憶にはあったが三上の記憶には無い、見てみない事には認識出来ないだろう。
「まずは職場の確認だな、記憶があるとは言え現場を直に見なきゃ分からないことだってある!」
ダハトはどうやら部下達にあまり興味を示さないタイプだったらしい、が。力はあっても人に優しくできないんじゃあ王とは言えないだろう。
「ラキラタスを連れて職場を見に行くとするか。」
ダハトは手元に水晶玉を召喚した。
「ラキラタスよ、我の元まで来い。」
「かしこまりました。」
───念水晶
魔力を込めることによって保有者と連絡が取り合うことができる。
数十秒でラキラタスは俺の元まで馳せ参じ、二人で現場を見て回ろうと話をし言葉通りの行動を始めた。ラキラタスが案内をしてくれるそうだからなんとも頼もしい限りだ。
「まずは鍛治工房へ向かいましょう。」
玉座の魔から1分程で着く場所に鍛治工房とやらがあるらしい。
カン!カン!カン!
鉄を叩き研磨する音が工房内に響き渡る。何とも耐え難い熱気が我々を襲うが、これこそ鍛冶場というものだろう。
「ま、魔王様!」
ダハトの存在に気づき鉄を叩いていた者達や武器を研いでいる者達まで手を止めダハトに跪こうとしていた。
「手を止めるでないわ!」
ここで一喝。
「は、はい!!」
怯えたような表情をし作業を再開させる職人達。だが、流石は職人仕事に戻るやいなや表情が変わり目の前の金属に全神経を集中させていた。
「魔王様、お忙しい中御足労いただきありがとうございます。」
職人達が仕事をする中背は低いが風格のあるおじさんがダハト達に挨拶に参った。
「彼はメルゲ、鍛治工房の総括を務めているエルダードワーフでございます。」
「ほぉ?エルダードワーフか。」
───エルダードワーフ
ドワーフの上位種エルダードワーフには寿命が無く生涯己の職人としての腕を磨き上げる種族。中には神にも届きうるアイテム、アーティファクトを作り上げ《神匠》とまで呼ばれる者も居たそうだ。
「ご紹介にあずかりましたメルゲと申します、本日はどのような御用向きでしょうか。」
こちらに萎縮してる様子も無し、話が早くてとてもいい上司と見受けられる。
「大したことでは無い、職場の偵察に来ているのだ。最近困った事など不便に思ったことなどがあれば素直に申せ。」
『まずは意見を聞いて改善出来るところは改善していきたいしね』
メルゲはかなり考えている素振りをしている。些細なことでもなんでも言って欲しいものだ。
「では一つだけよろしいでしょうか。」
『お!お悩み1つ目来た!こういうのは積極的に言ってくれた方が評価上がるんだよな〜』
「うむ、聞こうか。」
「ここは見ての通り鍛治場なのですが如何せん空気があまり良くありません。最近では体調が優れない者も増えてきまして、ですが窓を設置して外の空気を取り込むなども出来ないのです。火の調整や温度管理のかってが変わってきてしまいますので、どうにかならないでしょうか。」
『部下の身体の心配ができる良い奴だ、これは期待に答えてあげたいな。確かに密閉されていて体に悪いことは確かだ、窓をつけるのが手っ取り早いけど、それじゃダメらしいし.......こういう時はやっぱり!』
「わかった、何とかしよう」
「ありがとうございます魔王様。」
ダハト達は鍛治工房を後にし石畳の廊下を再び歩き出した。
「魔王様、具体的にはどのような対策を取るおつもりで。」
「うむ、やはりこういう時の《魔道具》であろう。」
───魔道具
魔力の籠った道具。魔力を設定量使用することで刻まれた効果を発生させることができる。
「魔道具には状態異常解除と指定範囲内の空気を綺麗にする魔法を刻み込もうと思うのだが、ラキラタスの意見も聞かせてくれ。」
「そうですね付け加えるとしたら......」
「魔王様!」
ラキラタスが何やら良さそうな事を言ってくれる気がしたが、先の黒騎士が急ぎ足でこちらに向かってきた。
「どうかなさいましたか。」
ラキラタスが応接してくれるようだ。我々の前に跪きラキラタスの問いに答える。
「どうやら我々の攻めていた村が盗賊団に襲われているようです!」
「我々が戦力を削った所を狙われましたか。如何なさいますか、魔王様」
「..........漁夫の利、」
空気がビリビリとし始め黒色の稲妻のようなオーラがダハトの足元から出始めた。
「見方を変えれば賢いと言わざる負えない、が。漁夫の利をされた側は虫唾が走るように不快な思いをするのだ、」
ダハトは1歩踏み出し何処かへと消えてしまった。
「ならばこちらも仕返しをするまで、漁夫の利をさせてもらおう。」
ここはその村の上空、転移魔法で瞬時に移動し盗賊団を空から一瞥した。
「なるほど、なかなかの防衛能力だ。辺境の村だが戦略がしっかりとしている。防壁に槍を刺す隙間を作り上からは弓で応戦、魔法に対抗する術は無さそうだが、盗賊ごときに魔法使いなどいるはずもあるまい。」
結論──取るに足らない。そう判断しダハトは空から盗賊団の前降り立った。
「盗賊共、直ちにここを去るのなら見逃してやろう。」
盗賊はこちらを少し警戒しているようだがたまたま通り掛かった魔法使いとしか見られて無さそうだ。表情からして数で叩けばどうって事ないと思われてそうだ。
「お前ら!遠慮なんかすんな!さっさと殺っちまえ!」
ボスらしき奴の一声で盗賊達はダハトに一斉に襲いかかってきた。
「反響する次元の刃」
盗賊団は血飛沫もなく身体が真っ二つに切られその場に崩れ落ちた。直に自分の死に体が追いつき意識も失うだろうが、この光景は後世まで心の奥底にこべり付き心を蝕むだろう。自分の体から血が零れることもなくただ身体がなく死を目の前にしているこの光景が。
「さて、一件落着。」
『人を殺してもなんとも思わない、躊躇することも無く殺せたのは俺の心が完全に魔王として生まれ変わっているからだろうか。』
少し寂しい気もしなくは無いが、この世界で生き残る為にはこの位冷酷な方が何かと都合も良さそうだろう。
「あ、あの。貴方様は.....」
村民達が門を開けてこちらに寄ってくる。なんとも警戒心のない奴らだ、この俺が敵である可能性は残っているだろう。
「我は魔王である、貴様らの村を侵略しにやってきた。」
目的は短く的確に、完璧だ。
「ま、魔王......」
完全に怯えている。自分達が殺される可能性をまだ秘めていると気が付けば恐怖するのも無理はない。
「これは女神様の思召でしょうか。」
『ん?』
「私達の村を守ってくれたのは貴方様です。我々は貴方様、魔王様の配下に着くと誓います。」
『.........思ってたのと違う!』
これは気に入らないことを全て蹴散らす魔王様が魔王城をクリーンでホワイトな場所にする、そんな魔王人生のお話である。




