おばあちゃんなのよ
婚約破棄を宣言された若き聖女は涙を流す。
その姿を見た、宝石の乙女は高笑いする。
「おやまあ。負け犬がみっともなく泣きだしちゃったわね」
自分を侮辱する宝石の乙女に対して、泣きながら聖女は微笑む。
「王子の心を射止めるなんて、本当によくがんばったわね。あなたのような若い子が、本当にがんばりましたね。私はうれしいです」
その反応に戸惑う宝石の乙女。
「気色悪いこと言わないでよ。あなたは私と同い年でしょう」
「私はおばあちゃんなのよ」
「あのさ、聖女っさ。前にもそんなこと言っていたけど、わけわかんないのよ。あなたは十五歳なんでしょう」
「私は転生者で、前の記憶が残っているんですよ。だから、実質七十過ぎのおばあちゃんなのよ」
「だから、意味わからないのよ。転生者とか意味不明なのよ」
「ともかく、私は身体は子供でも、中身はおばあちゃんなんですよ」
「それが本当だとしても、私はあなたを追い落としたライバルでしょう。もっと怒りなさいよ。私に対して、反撃とかざまぁをしなさよ」
「そんなことできないよ。あなたはまだ子供なんだから」
「見下すんじゃないわよ。私は十五よ。立派な成人よ」
その言葉に聖女はますます泣き出す。
「そうだよね。この世界では十五才は成人だよね。成人になるしかないのよね。でも、私にとっては、十五才はまだ小さな子供で、あなたのように立派なのはすごいことなのよ」
「私を立派とか言うな。私は自分のために、あなたを蹴落とそうとする人間よ」
「私の転生前の世界は、国民みんなが教育を受けられて文字が書けて、清潔な水や豊富な食料が簡単に手に入れられて、防犯を忘れることができるほど安全で、気軽に医者に診てもらうことができる世界だったのよ」
「そんな天国のような夢の世界があるわけないでしょう」
「あったのよ。私はそこで死ぬまで甘ったれてすごした。でも、あなたたちは違う。この過酷な世界でみんな必死に生きている。あなたもその年齢で、自分の幸せをつかみ取るために行動している。あなたはすごいよ、立派だよ」
「私は自分が悪いことをしていることを知っているわよ。だから、私を憎めよ!」
「そんなことできないよ」
「憎んでくれよ」
狼狽える宝石の乙女を、聖女は抱きしめる。
「大丈夫だよ。おばあちゃんがついているから」
聖女の腕の中で、口だけの反抗をする宝石の乙女。
「年寄りみたいなことを言っているんじゃないわよ」
「私は年寄りなのよ。それよりも、あなた綺麗になるために努力するのはいいけどやせすぎよ。もっと、食べなさい」
「私のおばあちゃんみたいなこと言うなよ」
「私もおばあちゃんなのよ。たしか、にしんケーキが好きだったわよね。今度、作ってくるわよ」
「そんなに好きじゃないわよ。一度、ちょっと好きだと言うと、何度もこすってくるなよ。おまえはおばあちゃんかよ」
「私はおばあちゃんなのよ。飴でも食べる?」
「どこから飴を取り出してるんだよ。なんだよ、その見たことない飴は?おばあちゃんかよ」
「おばあちゃんなのよ」
おわり




