『ねぇ、壁に指ってめり込むんでしょ?……え、違うの?』
地下の通信室は、いつもよりノイズが多かった。
ミカは端末を抱えたまま、そっと整備兵へ尋ねた。
「……外って、本当にそんなに危ないんですか?」
「危ねぇよ。ヴィクターさんがAI兵器で筋トレしてるくらいにはな」
「……………………はい?」
耳がおかしくなったかと思った。
だが次の瞬間、扉が勢いよく開く。
「おーいミカ!質問タイムだって聞いたぞ!」
金髪と筋肉と太陽みたいな笑顔。
噂の本人が、なぜか嬉しそうに入ってきた。
「……あの、本当に……AI兵器で筋トレって……?」
「お、そこ聞いちまったか!
よし、外トレ時代の話、全部してやる!」
リラがコーヒーを置き、ため息をついた。
「ミカ、覚悟して聞きなさい。」
なぜ覚悟が必要なのか、この時のミカにはまだわからなかった。
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◇ 第一章:人型AIでウォーミングアップ
地表に出た瞬間、灰が揺れた。
波のようにうねり、その奥から白い人型AIが立ち上がる。
骨のようなフレーム。無駄のない殺傷動作。
「あいかわず気持ちワリィなお前」
「どうだミカ?気持ち悪さ伝わったか?」
「え、いや、まぁ、うーん、はい⋯⋯」
(え?何、いちいちそうゆう感じ?)
AIが突撃してくる。
常人なら視認すらできない速度だ。
「遅ぇよ」
ヴィクターは横に体を傾けただけで避け、
すれ違いざまに腕を掴み、地面へ叩きつけた。
> ドガァッ!
起き上がろうとしたAIの頭部へ、
近くのコンクリ塊を振り下ろす。
> ズゴォッ!
「よし、一体目終了!」
「どうだミカ?カッコいいか?」
「あ、いや、カッコいい?です!」
(……まずこの質疑応答どうにかならないかな?)
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◇ 第二章:ドローン4機で反復横跳び
灰空が低く震え、黒いドローンが四機降下してくる。
レーザー照準が一斉に点滅。
「反復横跳びの練習だ!」
「どうだミカ?やってみるか?反復横跳び」
「話しましょう!」
「なんだよ、釣れないやつだな」
(いや……だって中身全然入ってこないもん)
ヴィクターは鉄骨を掴み、横へ跳ぶ。
一撃で一機粉砕し――
コンッ。
黒煙ボフッ。
「四勝ゼロ敗!敏捷性OK!」
「どうだミカ?」
「あ!おっOKです。」
(ヤバい全然聞いてなかった)
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◇ 第三章:虫型AIでインナー強化
アスファルトが割れ、昆虫型AIが姿を現す。
脚は太く、複眼は不気味に動く。
「腹弱そうだな。インナー行くか」
ヴィクターは欲しそうな目でこっちを見る。
(とりあえず止まらないで話してくれる……)
脚を折り、腹の下へ潜り込み、
そのまま虫型AIをベンチプレス。
> ズシャァッ!!
地面へ叩きつけて撃破。
「インナー終わり!」
(いや、ちゃんとすごい……)
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◇ 最終章:鳥型AIでフォーム確認
灰空が静まり返る。
上空から影が落ちてきた。
骨の翼、長い嘴。
古代の怪物のような鳥型AI。
「フォーム確認にちょうどいいな」
ヴィクターは電柱を持ち上げた。
軽々と。
(電柱!?軽く、って言いましたよね今……?)
影が急降下。
殺意の軌道。
「うぉらぁぁぁ!!」
> ゴオオオオッ!!
バキィィィッ!!
電柱の一撃で、影は灰空へ血飛沫を散らし落下した。
「今日もいい筋トレだった!」
(……いくらなんでも盛りすぎ……?)
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語り終えると、ヴィクターは胸を張る。
「どうだミカ?」
「はい、凄かったです。」
(……どうも何も本当だったら人間じゃないのでは?)
ヴィクターが笑顔で言う。
「よし、お前も特訓だ!」
「嫌です!!」
「まず壁に指をめり込ませろ。建物ごと持ち上がるはずだ」
「……え、指?いやいや、頭沸いてる?(ヤバっ声に出てた)」
「何言ってんだお前?頭は沸かねーだろ?焦げてんだ!ほらおデコの辺り」
リラが咳き込む。
ミカは頭を抱える。
続けてヴィクターが、
「でも指くらいは普通に入るぞ!ほら、ズズズッ」
「うわぁ、普通にスゴい!本当だったんですね(以外と簡単?なんか楽しそう)」
「私にもできるかな?」
「あ?俺の筋肉は嘘つかねぇよ!大丈夫だ!コツさえつかめば“だれでも”できる!」
「やりたい!教えて下さい」
「良し!いいかミカ!指はな、壁を“押す”んじゃなくて“貫く”イメージだ!躊躇したら逆に痛いから、一気にいけ!」
「わかりました。一気に貫く……せ(あ、これ絶対ダメなやつだ)ぃぃっ……」
「クッ!?」
ミカは指を抱え俯いて沈黙。
その瞬間、リラが口に含んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。
さっきまで楽しそうに武勇伝を話していたヴィクターは音を消して去っていた。
(うそじゃん……ァッツ……指ついてるかな……あっ、ついてた…)
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◇ 後日談
この日を境にミカは、
ヴィクターを「人間」ではなく、
筋肉寄りの自然災害
として分類することにした。
もしかしたら、この終末世界は筋肉でどうにかなるかも?




