茶色のパテ
掲載日:2025/10/02
ドアが開く。
また詰め込まれる。
俺の体はもう荷物の一部だ。
背中に湿った吐息、
腕にぶつかるカバン、
足元にはヒールの踵。
人間というより、ただの肉の塊同士が押し合っている。
「少しでも奥へお進みくださーい」
車掌の声が響く。
奥?
奥などもう存在しない。
ここは人間を発酵させる樽だ。
押し込まれた怒りと汗が、ぬるい熱気となって立ち込める。
隣の男のスマホのゲーム音が耳に刺さる。
前の女の髪の毛が唇に触れる。
後ろの誰かの新聞が首筋をこすっていく。
そして、ふと考える。
――このまま、この電車が急停車したらどうなるんだろう。
俺たちはまとめて壁に叩きつけられて、肉のパテみたいに潰れるんじゃないか。
その瞬間、俺とこの見知らぬ何十人かは、ひとつの料理になる。
「人肉ぎゅうぎゅうサンド」だ。
通勤ラッシュ特製、
毎朝焼きたて。
思わず笑いそうになった。
でも笑えない。
なぜなら俺は、
今その具材の
ひとりだからだ。




