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交錯する時空

食堂に着くと、イベントのためスペースが作られていた部屋の中央付近に、椅子が円形に並べられ、皆そこに座っていた。


奥田さんの顔色が戻っている。どうやら体調が回復したようだ。今は状況が呑み込めずポカンとしていた。


「あっ!華凛ちゃん、華澄ちゃん!」


海藤さんが私達に気付いて手を振る。


私達は空いた席に並んで座った。


「無事で良かったよ....と言っても、外部の犯行っていう事は無さそうだから、そんなに心配してなかったんだけど....でもほら、何があるか分からないし」


少し気まずそうに海藤さんが言い淀む。それもそのはずだ。外部犯ではない以上、犯人は私達の中の誰かなのだから。


「でも海藤さん、本当なんですか?外部の犯行ではないというのは....?」


信じたくないという気持ちを滲ませながら、田辺さんは海藤さんに聞いた。


「うん。だってどの部屋も窓が開けられた痕跡は無かったし、玄関とかが特別汚れてるって事も無かったんだ。あと駐車場の方もちらっと見たんだけど、僕達以外の車が停まってたって感じでも無かった。それにあんなに歩き回ったのに犯人に遭遇するって事も無かったから、この洋館の何処かに隠れて潜んでるって事も多分無いと思うし。だから間違いないんじゃないかなぁ」


外も見てたのか。見つかってたら色々ややこしくなってた感じもするし、気付かれてないなら良かった。


「ていう事は、私達の中に犯人がいるってこと?」


さっきまでとは打って変わって、多恵さんが冷静に尋ねる。


「......うん、そう、なるね」


友達を殺されたからという事もあっただろうけど、出来れば外部犯であって欲しいという気持ちが海藤さんの中にはあったから、強引に調査に行ったんだろうなと、今の話を聞いていて感じた。


「だっ、誰よ!!誰があんな事したの!?殺人鬼と一緒の部屋なんて私、嫌よ!」


取り乱した真姫さんが席を立って部屋を出ようとしたため、田辺さんが慌てて真姫さんをなだめる。


「落ち着いて真姫ちゃん!犯人だってこの状況じゃ手出し出来ないんだから、今は警察が来るまで皆で待ってよう。ね?」


「だって…だって先輩…っ!」


そう言って真姫さんが、田辺さんの胸で泣きじゃくる。


「でもよ、そもそも何で榊先輩は殺されたんだ?あの人、人に恨みを買うような人だったっけか?」


溝口さんが顎を擦りながら言った。


「動機って事だよね?榊くんが卒業した後は、あんまり会っていた訳じゃないから分からないけど、少なくとも人に恨みを買うような感じじゃなかったよ。人付き合いが上手い方でもないけど、お人好しな部分があるっていうか」


海藤さんが答えた。今が榊さんの事を知る絶好のチャンスだ。


「海藤さんと榊さんって、どうやって知り合ったんですか?同じ学部とか?」


「ううん、榊くんは建築学を専攻してたんだ。僕と榊くんが知り合ったのは大学の学食でだよ。榊くんが昼ご飯を食べながらミステリー小説を読んでるのを見て、なんか嬉しくなっちゃって僕の方から話しかけたのがキッカケなんだ」


「そうだったんですね。そういえば榊さんって今は何をされていたんですか?話からすると建築関係とか?」


「うん、そうそう!建築士をやってるって言ってたよ」


ああ、やっぱりそうか。パズルのピースが一つまた一つと、正しい位置にはまって行くのを感じる。


「ありがとうございます!」


私がお礼を言うと海藤さんは微笑んでいたが、突如何かを思いついた様な、ハッとした表情になり


「あのさ、今思ったんだけど、警察が来るまで、遺体を発見するまでの行動を皆それぞれ話していくっていうのはどう?取り調べを受ける時の良い練習にもなると思うんだけど」


と全員に提案した。なぜいきなりそう思ったのかは不明だが、私としては願ってもない流れだ。


「私も賛成です。それに今は話してる方が気が紛れますし」


私が賛成すると


「私もそう思います。ちょっと気持ちがそわそわしてしまって....」


とお姉ちゃんも流れに乗って来た。


「うん、確かにそうよね。私も賛成!」


多恵さんだ。


「おぉなんかミステリーぽくて面白い流れだな。俺も賛成だ!」


溝口さんも賛成する。


「私は....ううん、私も賛成です。なんかこのままじっとしてるだけだと、どうにかなりそうで」


逡巡の後、真姫さんが賛成した。


「私はどちらでも構いません。皆さんの心がそれで少しでも休まるのでしたら」


田辺さんが賛成した。


「正直、僕、何がなんだか良く分からなくて....。というか、ずっと休憩室で一人で寝ていただけなので、一番に疑われるとしたら、やっぱり僕......ですよね?」


奥田さんが暗い表情で呟く。


「うーん、皆の話を聞いてみない事には、それはまだなんとも言えないんじゃないかなぁ」


海藤さんがフォローする。



「よし、提案したのは僕だから、先ずは僕から話すね。榊くんが昼食の時生きていたのは皆知ってる訳だから、話すのは自由時間が始まってから遺体を発見するまでの行動って事で良いかな?」


皆が頷く。


「えっと、遺体を発見した時の時刻、分かる人いる?」


海藤さんが尋ねると


「真姫ちゃんの悲鳴が聞こえて、私が最後に食堂を出たのですが、その時に柱時計の鐘が鳴っていましたので、真姫ちゃんが遺体を発見したのも、大体3時位という事でいかがでしょうか?」


田辺さんが、そう答える。あの鐘はそこまで大きい音じゃないとはいえ、書斎にいた時は気付かなかった。たぶん遺体に集中し過ぎていたせいだろう。


「ありがとう!じゃあ3時までという事で」


いつもの大袈裟な身振り手振りではなく、精密機器を扱う様な慎重な手つきで、海藤さんが話し始める。


「え~とね、昼食が終わったあと、そのまま僕は食堂に残って、華凛ちゃん、華澄ちゃん、真姫ちゃんとミステリーの事とかについて話してたんだ。途中で食器を片付けていた多恵ちゃんとも話したよ。それが終わって部屋を出たのはえっとぉ....」


「私が遊戯室に着いた時に時計で確認したら2時15分だったので、それ位じゃないでしょうか」


私が助け船を出した。


「ああ、そうだったんだ、ありがとう!それで部屋を出る時に田辺くんとすれ違ったんだよ」


田辺さんが頷く。


「それで僕は書斎に行こうとしたんだけど、遊戯室の入り口前辺りで溝口くんと榊くんに会ってね。榊くんは話の途中で西側廊下の方へ行っちゃったんだけど、今日のイベントの事とか、美味しかった料理について溝口くんと話してたんだ。」


今度は溝口さんが頷く。


なるほど。お姉ちゃんが海藤さん達を見始めたのが、ちょうど榊さんが去った時だったから、彼が東から西に通り過ぎた様に見えたのだろう。


「で、そのあと書斎に着いた時に、僕が落とした車の鍵を華澄ちゃんが届けに来てくれたんだけど、あれは...いつ位だったんだろう?」


海藤さんが首を傾げた。


「ああ、多分それは2時20分頃だと思います。お姉ちゃんが遊戯室を出たのが、それ位の時間だったので」


私が再び助け船を出す。


「何回もごめんね。でもありがとう、助かったよ!それで僕、華澄ちゃんが法医学とか科学捜査に興味があるって、昼食の後の会話で知ったから、その方面の話を華澄ちゃんから色々聞かせてもらってたんだ。知識量が凄くて、あの時は本当に驚いたよ!」


お姉ちゃんが微笑む。


「それでそのまま今度は僕も遊戯室に行こうかなって思って、華澄ちゃんと一緒に部屋を出たんだけど、その時に廊下で溝口くんと真姫ちゃんに会ったんだ。そして遊戯室に着いた時に、たまたま時計を見たんだけど、確か...2時30分だったかな」


海藤さんが顎に手をやった。


「その後は、ダーツをしてて、いきなりあの雷みたいな大きな音が食堂から聞こえたから、僕、華凛ちゃん、華澄ちゃんの三人で食堂に行ったんだ。イベントが始まった時間って....」


「2時40分です。その時間に始めるよう指示があったので」


そう言ったのは田辺さんだ。


「ありがとう!それで映像を見終わったあと、カード探しが始まって、僕がカードを見つけて、書いてあった問題を華凛ちゃんが解いてくれたんだよね。で、もう一枚探そうとしてた時に真姫ちゃんの叫び声が聞こえた....」


榊さんの死体と共に、あの時の事を思いだしたのだろう。海藤さんは少し暗い顔をして、一瞬言葉を切った。


「僕の行動はこんな感じかな」



海藤さんの話が終わったので


「次は私が話します」


と言って、今度は私が話し始めた。


「2時15分までは海藤さんと同じです。そこからは、遊戯室でゲームをしてました。途中、後ろを振り返った時に、海藤さんと溝口さんが会話してるのを見たあと、先程の海藤さんの話の中にもあった通り、2時20分位に私の姉が鍵を届けに遊戯室を出ました。その後は、ゲームに熱中していて姿は確認していないのですが、背後で声が聞こえました。あれは多分溝口さんだったと思います」


私がそう言うと、溝口さんは笑顔で頷きながら


「おう、間違いねぇぜ!あのゲーム、すげえ難しいのに、嬢ちゃんがものすげぇ早さで攻略してて、俺ちょっと感動しちまったよ!」


と言ってくれた。結構嬉しい。


「ありがとうございます!それで一段落して、時計を見たら、その時2時29分だったんですが、それから程なくして姉と海藤さんが遊戯室に入って来ました。その後2時33分までゲームをしてたんですけど、急にお手洗いに行きたくなったので、姉にゲームを代わってもらって、女子トイレに行きました。その時、食堂の中が暗くなっているのを見たり、厨房で多恵さん、溝口さん、真姫さんが掃除と片付けをしているのを見たりしました」


「おう!あれは海藤さんと、大きい方の嬢ちゃんに廊下で会った後だから、さっきの海藤さんの話からすると2時30分位だったんじゃねえかな」


と溝口さんが言った。


「はい。溝口さんと廊下でお会いして、私も先輩の為に何か出来る事があれば是非手伝いたいって言ったら、だったら厨房の後片付けを手伝いに行くか?って言って下さって...。イベントが始まるまでの間だったので10分程しか手伝えませんでしたけど...」


真姫さんが少し申し訳なさそうに言った。


「いやいや、手伝ってもらって助かったよ!お陰で片付けと掃除が予定よりも早く済んで、最後の方だけでも映像が見れたんだから!」


多恵さんが真姫さん達にそう言って感謝する。


「ああ、やはり見られてしまっていたのですね。実はイベントの準備をする際、ドアを閉めるのを忘れてしまったんです......」


田辺さんが申し訳なさそうに言った。


「お手洗いから戻る時も厨房では多恵さん達が掃除と片付けをしている最中でしたが、食堂のドアは閉まっていました」


私がそう言うと


「ああ、はい。イベントが始まる5分前位にようやくドアが開きっぱなしだった事に気付きまして...」


と、恥ずかしそうに後頭部を左手で触りながら田辺さんが言った。


「遊戯室に着いたのは2時38分でした。その時、お手洗いに行く前と同じく、海藤さんはダーツを、姉はゲームをしていました。そして、今度は私が姉のゲームを見せてもらっていたところ、突然大きな音が食堂からしたので、姉と海藤さんと共にそちらに向かいました」


お姉ちゃんが頷く。


「そうだったんだ~。僕夢中になってて、華凛ちゃんが遊戯室を出たの全然気付かなかったなぁ」


海藤さんがポリポリと頭を掻く。


「イベントが始まった後は、ほぼ海藤さんと同じですが、映像の途中で真姫さんの声が聞こえました」


「あっ、うん。先輩が胸から血を出しててびっくりしちゃって....」


真姫さんがちょっと恥ずかしそうに言う。


「えっ、そうだったの?いやぁ、映像に夢中になってて気付かなかったなぁ」


海藤さんが再びポリポリと頭を掻く。


私は周りを一瞬見渡して


「以上です」


と言って話をしめた。



「ところでさ、あのイベントの映像って何分位あったのかな?」


次の人が話し始める前に海藤さんが田辺さんに尋ねた。


「12分程ですね」


田辺さんが答えた。


という事は、大雑把に言って映像が終わったのは2時52分か。私、あの解答の時、結構早口で喋ってたんだな。


「そうだったんだ。映画みたいで面白くて、夢中になって見てたから、もっと短いかなって思ってたよ!」


海藤さんがニコニコしながら言った。


「ありがとうございます。楽しんでいただけて幸いです」


田辺さんがちょっと嬉しそうな表情になっていた。



場が静まったあと


「次は私が」


と言って、お姉ちゃんが話し始めた。


「食堂を出た2時15分頃までは海藤さんが仰った通りです。その後は、遊戯室で華凛ちゃんがゲームしているのを見ていたのですが、途中で話し声が気になったので、声のする入り口の方を見てみたら、海藤さんと溝口さんが話されていて、その横を東から西に、私から見ると左から右へ、榊さんが歩いて行くのが見えました」


海藤さんと溝口さんが頷く。


「そして、それから間もなく海藤さんと溝口さんが別れて、私もゲームの画面に視線を戻そうとした時、先程までお二人が話されていた辺りに、車の鍵が落ちている事に気付いたんです。確証は無かったのですが、多分位置的に海藤さんの物かなとは思いましたし、海藤さんの行き先は書斎だという事も食堂で聞いてましたから、華凛ちゃんに一言言ったあと書斎へ向かいました。この時の時刻は先程のお話にもありました通り2時20分頃です」


ここでお姉ちゃんが一拍置いたあと、再び話し始めた。


「まだ書斎の入り口の辺りに海藤さんがいらっしゃるのが見えましたので、少し走って行って、車の鍵を落とさなかったかどうか尋ね、やはり海藤さんの物だったと分かりましたので、海藤さんに鍵をお渡ししました。そして戻ろうとしたところ、海藤さんが私に、法医学の事や科学捜査の事について色々質問して下さったので、それに答えていました」


うんうんと海藤さんが頷く。


「少しして話が一段落しましたので、私がそろそろ遊戯室に戻ると申し上げたところ、海藤さんも遊戯室に行かれるとの事でしたので、二人で向かう事になりました。因みに、この間に書斎を訪れた方は誰もいらっしゃいませんでした」


お姉ちゃんは更に続ける。


「廊下に出ると真田さんと溝口さんが休憩室付近にいらっしゃったので、挨拶しました」


真姫さん、溝口さん、海藤さんがそれぞれ頷く。


「2時30分頃に遊戯室に着いた後は、再び華凛ちゃんのゲームを見ていたのですが、先程の華凛ちゃんの話にもあった通り、2時33分に華凛ちゃんがお手洗いに行ったので、私が代わりにゲームをしてました。華凛ちゃんが戻って来た後も、私のプレイが見たいと華凛ちゃんに言われて、そのままゲームを続けました。40分にイベントが始まった後の事は海藤さん、華凛ちゃんと同じですが、真田さんの声は私も聞きました。私からは以上になります」


お姉ちゃんが話し終わった。



「じゃ、次は私が話すわ」


多恵さんが話し始める。


「まあ、話すと言っても、ほとんど厨房にいて後片付けしてたから、あんまり話せる事もないんだけどね」


多恵さんが苦笑しながらポリポリと頬を掻いた。


「えっとね、先ず食堂にあった食器を片付けた後すぐ、厨房に田辺さんが来て、今日の料理の事とか、片付けが終わったら厨房を軽く掃除しておいて欲しいとか、イベントの事について話してたの。あっ、イベントの事っていうのはね、実は被害者役は田辺さんだから、少し経ったら食堂で準備するので、食堂と厨房の間の扉を一時的に閉めきるって話でね。もし早く片付けが終わったら私にも参加してもらいたいけど、その時は廊下から食堂に入って来て欲しいって言われたんだ」


多恵さんがそう言うと


「はい間違いありません。あの時は確か、10分程話していたのではないかと思います。海藤さん達と食堂の入り口で入れ違いになったのが2時15分との事でしたので...」


頷きつつ田辺さんが答えた。


つまり多恵さんが食堂の食器の片付けを終えたのが2時5分頃という事になる。時計を確認した訳ではないが、多恵さんが食堂に姿を見せなくなったのは確かにそれ位だったように思う。


「うん、確かに10分位だったかも。それで田辺さんが厨房を出た後は、一人で黙々と片付けをしてたんだけど、さっきの華凛ちゃんの話にもあった通り、途中で溝口さんと真姫ちゃんが来て、片付けを手伝ってくれたんだよね」


多恵さんが溝口さんと、真姫さんに視線を送り、二人は頷いた。


「それで厨房の掃除をしようと思って、換気の為にドアと窓を開けといたんだ」


つまり私がトイレに行った時に見たのは、掃除を始めて間もない頃だったという事か。


「お姉ちゃん、厨房は片付いてた?」


テレパシーでお姉ちゃんに確認をとる。


「うん、全部片付いてたし、田辺さんに案内してもらって最初に厨房を見た時より綺麗になってたよ。」


「そっか。ありがとうお姉ちゃん」



「それでイベントが始まって、二人が厨房を出る頃には、片付けはほとんど終わってたから、あとは掃除だけっていう感じだったんで、手早く終わらせて窓の戸締まりとかもしたあと食堂に行ったんだ。映像の最後の1分間位は見れた感じだから、着いたのは2時51分って所じゃないかな。私が食堂に入った時は、華凛ちゃん、華澄ちゃん、海藤さんが6つある席の前列に座ってて、真姫ちゃんが後列に座ってた。で、溝口さんがその席の近くに立ってて、田辺さんが胸にナイフを刺されて死体になってたって感じだったな。結構凝ってるなって思ったんだよね。その後は真姫ちゃんの席と一つ空けた席に座ったよ。で、カード探しが始まって、私は遊戯室に探しに行ったんだ」


気丈に振る舞ってはいるが、多恵さんの表情が少し暗くなる。


「で、いきなり書斎の方から真姫ちゃんの悲鳴が聞こえて、慌てて駆けつけたら......うん、まあ私はこんな所かな」


そう言って多恵さんが話を終えた。



「次は俺が話すぜ!」


溝口さんが勢いよく言う。


「俺は榊先輩とちょっと話があったから、先輩が書斎に行くのについて行って、そこで色々話したんだよ。まあ、イベントの事もだが、将来の事とか、サークルの事とかな」


溝口さんが珍しく神妙な顔をしていた。


「それで話が終わった時、先輩がまた食堂の方へ行くって言い出したから、じゃあ俺もそうしようかなて思って書斎を出たんだ。遊戯室の前で海藤さんに会ったのはその時だから、書斎で15分位話してたって事になるな」


つまり、2時頃から2時15分頃まで書斎にいたって事か。


「んで、海藤さんと話し終わって食堂に行ったら、太一と真姫ちゃんと榊先輩がなんか話してたんだよ。な?」


溝口さんが田辺さんと真姫さんに視線を送りつつ確認する。


「はい、そうですね。真姫ちゃんが私を探していると、食堂の入り口で会った海藤さんから聞いたので、そのまま食堂で真姫ちゃんと話していたら、最初榊先輩がいらっしゃって、それからは3人で話していました。そして剛が来てからは4人で会話していて、そのうち榊先輩がお手洗いに行きたいと仰ったので、先輩は最初に案内を受けていらっしゃらなかったため、私が場所をお教えして、解散したのが――あの時ちょうど柱時計を確認したのですが2時25分でした」


田辺さんが丁寧に説明してくれた。


「おお、おお、確かにそれ位の時間だった気がするな!それで俺は遊戯室を覗いてみて、嬢ちゃんがあのゲームやってるの見たから、あんな難しいのよくやってるな、心折れてんじゃねえかなって思ってたら、物凄い勢いで攻略してたから、すげぇなって思ってよ!」


溝口さんが私を尊敬の眼差しで見つめる。照れる...。


「邪魔しちゃ悪いから部屋から出た時に、休憩室から出て来た真姫ちゃんに会ったんだよ。で、さっき真姫ちゃんも言ってた通り、どうしても何か手伝いたいって事だったから、じゃあ一緒に厨房の片付けするか?って話になったんだ。海藤さんと大きい嬢ちゃんに会ったのはその時だな」


溝口さんが腕を組んで、話を続ける。


「それで、真姫ちゃんと一緒に厨房へ向かう時に、食堂の中をちらっと見たら、テーブルの配置とかが変わってて、太一が何かしてるのが見えたんだ。そん時はまだ部屋の中は明るかったな。もしかしてイベントの準備をしてんのかなって俺は思ったからスルーしてたんだが――」


溝口さんが言い終わる前に、真姫さんが突然思い出したように


「ああ、あの時!考えてみれば先輩はイベントの準備をしてたんですけど、私、分からなくて、何してるのかなって食堂に入ろうとしちゃって......」


と申し訳なさそうに言った。


「んで、俺が誤魔化して、予定通り厨房に行くよう促したんだよな。がはは!」


今の溝口さんと真姫さんの会話を聞いていた田辺さんが


「ああ、ドアをうっかり閉め忘れて作業してしまっていた時ですね....変な気をつかせちゃって、ごめんね真姫ちゃん」


と謝罪した。


「いえいえ!先輩のせいじゃないです!私がぼーっとしてたのが悪いんですから!」


真姫さんは慌てて胸の前で両手を振った。



一段落して再び溝口さんが話し始める。


「じゃあ話の続きだけどよ、あとは、さっきの話の流れの中でも確認した通り、2時40分までは厨房で片付けを手伝ってたんだ。俺はどのタイミングでイベントをやるのか聞かされてなかったから、食堂からいきなり大きい音がしたんでびっくりして、最初は厨房と食堂の間のドアを開けようとしたら、そこは閉めきられてるって多恵ちゃんに言われたんで、真姫ちゃんと一緒に、仕方なく廊下から食堂に行ったんだよ」


多恵さんと真姫さんが頷く。


「食堂に着いて、おお、割りと凝ってんなって思いながら、最初は後列の席に真姫ちゃんと、席を一つ空けて座ってたんだけどな。考えてみたらゲストの席に座ったらまずいよなって思ったんで、その後は立って見てたんだよ。んで、映像が終わる頃に多恵ちゃんがやって来て、俺が最初に座っちまった席に座ったって流れだな」


「ああ、はい、そうでしたね。どうして急に席を立ったのかなって思ってたんですけど、考えてみれば確かに」


真姫さんは少し笑っていた。


「あとは、映像が終わった時に食堂のカーテンを開けたんだ。俺が受けていた指示は、"イベントの会場はカーテンが閉められた状態になってるから、そこで流れている映像が終わったら、カーテンを開けたあと、カードの説明をしてくれ"って事だったからな」


そう言ったあと、組んでいた腕を解き顎を撫でながら


「んで、海藤さんがカードを一瞬で見つけて、嬢ちゃんが難なく問題を解いて、その後は真姫ちゃんの悲鳴って感じの流れだったよな。うん、俺からはこんな所だな!」


と言って、溝口さんの話が終わった。



「それじゃあ次は私が話します....」


真姫さんが、地面の一点を見つめながら話し始める。


「2時15分までは海藤さんが言った通りで、そこからはさっき先輩が言ってた通り2時25分まで先輩達と話してました。先輩とは最近会えてなかったから、忙しいのは分かってたけど、どうしても色々話したくて付き合ってもらいました。榊さんが来てからは、サークルの話とかそういう感じの話題になったんですけど、私が知らない先輩が知れて嬉しくて、ついつい聞き入っちゃってたんです」


真姫さんも田辺さんも少し照れた表情をする。そういう空気を感じたのか、奥田さんは複雑そうな表情をしていた。


「その後は、これもさっき先輩が言ってた通り、榊さんはお手洗いの方に行って、先輩は何かやる事があるって言って――まあ、今考えてみればイベントの準備だったんですけど、そのまま食堂に残って、溝口さんは他の方達の様子見もかねて、ちょっとぶらぶらして来るって行って外に出ました」


真姫さんが視線を送り、田辺さんと溝口さんが頷いた。


「私は、奥田くんとは一応幼馴染みですし、休憩室まで付き添った時、あんまり体調が良さそうな感じではなかったので、様子を見に行こうと思って休憩室に向かいました。ですから遊戯室までは溝口さんと一緒でした」


奥田さんが少し嬉しそうな顔をしていた。


「休憩室に入ったら、奥田くんがまだ眠っていたので、やっぱり疲れてるんだろうなと思って、顔色とか少し様子を見たあと、部屋を出ました。その時たまたま遊戯室から出て来た溝口さんに会って、さっき話にあった通りの経緯で、厨房で片付けを手伝わせていただける事になりました。ちょうど話がまとまった辺りで、書斎から出て来た海藤さんと華澄ちゃんに会って...その時の時刻は2時30分頃という事でしたよね?」


真姫さんが確認をとると


「うん、それで大丈夫だよ」


と海藤さんが答えた。


「ありがとうございます。その後のカード探しまでの流れは概ね溝口さんと同じなんですけど、強いて違いをあげるとしたら、死体になりきっていた先輩の姿を見て、びっくりして声をあげちゃった事と、イベントで映像を見た時に、私は後列の席に座ったままだった事ですかね」


床の一点に固定されていた真姫さんの視線が自由になった代わりに、表情が徐々に恐怖と悲しみを帯びていく。


「それで......カード探しの時に...わっ、私、書斎に行って、さっ、探そうと思ったら....っ!」


口を押さえて真姫さんが泣き始める。


「ああ、辛い事を思い出させちゃってごめんね真姫ちゃん。話してくれてありがとう」


と海藤さんが真姫さんを慰めた。


「あとは、田辺くんだけだよね。お願い出来るかな?」


「はい...」



田辺さんが話し始めた。


「昼食が終わったあと、イベントの準備をする前に、先にお手洗いに行っておこうと思ってそちらに向かいました。その後、先程の話にもあった通り、厨房に行き、下山さんと10分程話していました」


田辺さんが鼻の下に指を軽く当てつつ、口を手で覆うような格好で話を続ける。


「その後も、先程の話にもあった通り、食堂で2時25分まで真姫ちゃん達と会話していたのですが、そろそろイベントの準備をしないとまずいかなと思っていた所で、榊先輩がお手洗いに行きたいと仰ったため、それを機にその場は解散という事になったので、少しホッとしました」


真姫さんが少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「あとは、2時40分までイベントの準備をしていたのですが、先程から何度か話に出て来ている通り、厨房と食堂をつなぐドアは閉めきったものの、うっかり廊下側のドアの方を開放したまま準備してしまっていて、気づいたのはイベントが始まる5分前位でした」


さっきと同じく田辺さんが少し恥ずかしそうに後頭部に左手を当ててそう話したあと、少し間を置いて今度は同じ手を顎に添えた。


「イベントが始まった後は、死体に扮していて目を閉じていたので詳しい状況は分かりませんが、皆さんの話にあった事以外で気になった事は特にありませんでした。それから、カード探しが始まってから真姫ちゃんの悲鳴が聞こえて、皆さんが食堂を出られた後に私も出ようと思ったら、先程も申し上げた通り、柱時計の3時の鐘が鳴りました」


田辺さんは、左手を膝に置いて


「私から申し上げられる事は以上です」


と言って、話をしめた。



これで全員の話が聞けた。


「これで皆の話を聞いた事になるけど、なにがなんだかさっぱりわからないなぁ」


海藤さんが両手を頭の後ろに組みながら言った。


「でも....話せて良かったです。話したり皆さんに聞いてもらえたりした事で、気持ちが少し楽になったっていうか....」


真姫さんが噛み締める様に言った。


「それなら良かったよ!....そういえばさ、トイレに行ったあと、どうするかって、榊くん何か言ってた?」


「確か、また書斎に行くって言ってた気がします。そうでしたよね?」


真姫さんは海藤さんの問いに答えつつ、田辺さんと溝口さんに確認する。


「ああ、はい。確かにそうでしたね。でも、そう考えると誰とも会っていないのはおかしいですね」


「大方トイレが長引いて、たまたま誰とも会わなかった上、遊戯室では嬢ちゃん達がゲームに夢中になってて榊先輩が通った事に気付かなかったとか、もしかしたら東側廊下を通って行ったとかじゃねえか?」


田辺さんの疑問に、溝口さんが仮説を述べた。


「あー、うん。ここの絨毯って音がしづらくなってるし、入口に対してほぼ背を向けている状態だと、話し声でもしない限り、確かに気付かないかもしれないなぁ」


海藤さんが同意する。


「それに東側廊下に行ったかどうかについては、榊くんは案内の時に見てなかったし、立ち入り禁止と言っても、どの程度酷い状態だったのか確認したかったのかもしれないね。何か自分に協力出来る事があったら、協力したいと思ってたのかも」


そう言って海藤さんが、一瞬悲しい表情をする。


「......さて、これからどうしようかな。警察が来るまで、あとどの位なんだろう?」


海藤さんが疑問を投げかけると


「先程電話したら2時間程でいらっしゃるという事でしたから、あと一時間以上はありますね」


と田辺さんが答えた。


「う~ん、そっかぁ......」


海藤さんが腕組みをする。



お姉ちゃんがさっきからずっとメモをとってくれていて、今書き終わったみたいだ。


「お姉ちゃん、私も見せてもらっても良い?」


普通に喋っても良かったのだが、なんとなくテレパシーで聞いた。


「うん、どうぞ。というか華凛ちゃんに見てもらおうと思って書いてたから」


「いつもありがとう、お姉ちゃん」


「ふふ、どういたしまして」


お姉ちゃんからメモを受け取り、私は一度席を立った。不思議そうにこちらを見つめる人もいたが気にせず、近くのテーブルにメモを置き、じっくり見つめた。


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