選択
「あんたの姉、死んだんだって?笑」
そうあざ笑いながら私の頭には水がかけられていく。荷物もすべてボロボロ。姉が生きていたころは小学校に乗り込んでまで、このいじめっ子たちを懲らしめていたが、その姉も今は天国だ。ここは屋上。このまま飛び降りれたら楽だろう。だが、頭の中の姉が話しかける。
「負けちゃだめよ。あなたは何も悪くない。だから胸を張って前の敵から目を離しちゃだめよ。」
言われた通り、まっすぐ相手を見つめ返した。相手は少し狼狽えたが、数の利で気が大きくなっているのか、私をドンっと突き倒した。が、後ろは運悪く…いやこれで姉のところへ行ける。地面に叩きつけられる直前悲鳴とともに、私の意識は途絶えた。
「ここは…あの世?お姉ちゃん、どこにいるの?」
目を開けると喫茶店があった。
黄泉…戸…喫茶店?黄泉?ということは、ここはあの世だろう。また、お姉ちゃんに会えるかもしれない。そんなことを考えながら、とりあえず目の前の喫茶店に入ってみた。
「いらっしゃ…マスター!!!!お、おんにゃのこっががあがが」
「落ち着けクロ、おっと、これは…」
喫茶店に入ると黒猫が大騒ぎして、マスターと呼ばれる男性も驚いた様子だ。
「ひとまず、席へどうぞ。」
案内され、椅子について一息つく。
「あのぉ、もしかして私ここにいてはいけない感じですか?」
するとマスターが説明してくれた。
私の寿命はまだまだ残っているため、ここには普通は来れないそうだ。今、私の体は瀕死状態。瀕死の人は普通、現世を留まる。そして死神が迎えに来たものだけ黄泉に来る。死神が迎えに行くのは亡者だけ。
「君、意識を失う前に何かあったかい?」
「えっと…確か、屋上から落ちて…気が付いたらここにいました。」
「ひとまず、現世に戻ろうか。クロ案内を頼むよ。」
マスターに案内をするよう頼まれたクロだったが、なぜかぼぉーっとして私の顔を見つめている。
「マスター、もしかしたらにゃんだけど…この子匂いがこの前の子にそっくりニャ。顔も…似てニャい?」
「匂いはわからんが、顔は確かに似てるかもな。」
「この前の子って…お姉ちゃん?もしかして、ヒバナお姉ちゃんのこと?」
ヒバナという単語を出した途端、二人の顔が驚きの表情になった。やっぱりお姉ちゃんがここにいたんだ。そうと分かれば今すぐ会いに行きたい。最期まで私はちゃんと戦ったんだと、教えたい。
「あの…!私このままお姉ちゃんを探しに行ってきます!ありがとうございました!」
そう言い残して席を立とうとしたら止められてしまった。
「それはできない。君はすぐにでも現世に戻らないと魂とのつながりが切れてそのまま死んでしまうよ。」
死ぬ…そういわれても大好きな姉に会えるのならいいと思ってしまう。現実は真っ黒な世界でできていて、希望の光だった姉はいなくなってしまった。両親を遺しているわけで、未練がないわけではないがそれでも姉は私にとって大事で大好きな存在だった。こんな親不孝な妹を姉は許してくれるだろうか。正義感の強い姉は筋の通ってないことが大嫌いだ。会ったら怒られるだろうか。そんなことを考えていたら、後ろで扉が開いた。入ってきたのは私より少し背の低い、真っ白な顔をした少年と後ろにいるのは…会いたかった姉だ。
「お姉ちゃん!!」
叫び、泣きながら大好きな姉のもとへ駆けた。姉は驚いていたが、しっかりと受け止めてくれた。
「なんでナギサがここにいるの!!」
姉は口を開くなり私に問い詰めた。私はあったことをそのまま話すと姉は激怒し、「今からそいつらを八つ裂きにする。」と恐ろしいことを呟いていたが横にいた死神に止められていた。
「ひとまずどうしたらナギサは現世に戻れるの?」
そうハナビが問うと死神は答えた。
「現世へこのまま降りて行き自分の体に触りながら生きたい。そう願えば戻れますが…こちらに来てどのくらい時間が経ったのか確認したいので、腕を見せてもらってもいいですか。」
そう死神が問うとナギサは不思議そうに手を差し出した。ハナビも覗き込むと腕には白い糸…だが八割が黒く染まっていた。
「思ったより時間が残ってませんね。」
「もしかしてこれが黒くなったら…」
「お察しの通り完全に亡者となり、戻れません。ですが、一つ気になることがあるのですが…どうしてこちらに来れたのでしょう?」
するとマスターが重い口を開き言い放った。
「亡者に会いたいと願った生者があの世に迷い込んだ事例は稀にある。」
悲しさや申し訳なさ、嬉しさが入り混じった顔をしたハナビはナギサに振り返った。
「パパとママを頼むね。私の分まで生きて…思い切りやり返して来なさい。」
そのハナビの言葉を聞いてナギサはハッとして帰らなきゃ。そう決意した。
「クロ。ナギサさんについて行って。一人ではいけないだろうから。」
「ほんと使い魔使いが荒いんだから。」
「お願いします。クロちゃん。お姉ちゃん、見ててね!」
「当たり前でしょ。行ってらっしゃい」
挨拶を交わしたナギサはクロに連れられ現世へ帰っていった。
「僕たちも行きますよ。急ぎめで。」
「そういえばなんで戻ってきたんだ?主神のとこへ向かったんだろう?」
そう問われたハナビはバツが悪そうに答えた。
「ナギサの声がした気がして無理を言って…」
あぁ…と死神の苦労を察したマスターは二人を笑顔で送り出した。
「ようやく来たね。ヒバナ。」




