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私を輝かせるアイドル(修正版)

作者: 相間 暖人

連載で出した、「私を輝かせるアイドル」の修正版となってます。


高校生の女の子、穂香は人気アイドルのエミエミに憧れている。

彼女の真似をしているうちにいつしか笑えなくなる自分だったが、彼女と触れ合う事で…。

元気の出る作品となってます。 是非読んで下さい^^

「だって、大丈夫~♪あなたにはーわたしがいる~♪」

湧き上がるコンサート会場、その中でもエミちゃんは一際輝いていた。



高橋(たかはし) 穂香(ほのか)15歳は画面をかじりつくように見る。

今日は大好きなアイドルグループ「shining stars」の生放送ライブだ。

私はリビングでペンライトを両手に持ってぶんぶんと振り回す。


「こーら、危ないでしょ。そんな物振り回さないの。」

「だって、今日のライブはエミちゃんが初センターなんだよ!絶対全力応援しなきゃ!」

「そんな、家で応援したからって何が変わるの。」

お母さんの冷ややかな声だったが、この熱狂的なアイドルオタクの私の耳には入らない。

私の3つ上の園田(そのだ) 笑実(えみ)、通称エミエミは黒髪ショートカットの可愛い顔つきのアイドルで名前の通り笑った時の顔が最高と人気だった。

私も彼女の踊っている姿、歌っている姿、笑っている顔から元気を貰って生きているといっても過言ではない。

でも、今の私は彼女を応援する資格があるのだろうかと悩んでいた。

1年前から顔が張り上手く笑う事ができない。

精神的なストレスによるものだろうと、お医者さんには言われたが、原因も自覚している自分にはどうする事もできなかった。

その原因は、私の学校での立ち位置だ。

3年前から教室でも「shining stars」のファンなのは公言しており特にエミちゃん推しだった私。

1年前にエミちゃんがロングヘアーをばっさりと切って、ショートカットになった日があった。

私はエミちゃんの真似をしたくて、その次の日には髪を切りに行き、学校に登校したのだ。

その時にクラスメイトから聞こえる声。


「何あれ、エミエミの真似?」「鏡の使い方知ってるのかなぁ。」「エミエミと天と地ほどの差があるわ。」

など悪意ある声。

直接的に言われたわけではないが、そう言われているという噂は本人の耳にも案外入るものである。

仲の良い友達は、

「似合ってるー。」「可愛いよ。」

と言ってくれているがエミちゃんに近づきたい私にはどこか虚しい励ましとなったのを覚えている。

家に帰り泣く私。

この髪の毛が伸びてエミちゃんと違う髪型になるまで言われ続けるのかと思うと憂鬱な気分になる。

しかし、エミちゃんの写真、大きく写っているCDジャケット、ポスターを見ると全て吹き飛ぶように元気になれた。

だから私は次の日もその次の日も笑う事ができた。



できたはずだったのにいつの間にか、エミちゃんの真似をするうちに自分自身の笑い方がわからなくなっていた。

そして今、大好きなアイドルに近づきたかったはずの私は上手く笑えないロングヘアーの女の子になっている。

学校にも徐々にエミちゃんのグッズを持って行く頻度が少なくなり自分の部屋に大量に溢れかえっていた。

家ならば私が真似する事を陰口叩く人はいない。

お母さんもお父さんも、ついぞアイドルに詳しくはならないが、そんな私を微笑ましく見守ってくれる。

だから私は今もエミちゃんを推せる、推し続けるんだ。

そう自分の中で気合をいれている時に「ピロン」と公式ファンサイトに案内が流れた。

近くの会場で「shining stars」のイベントをやるようで、私は迷う事などなかった。

しかも、CDを買えば握手もできるとの事、これは絶対に買わなければと胸躍らせる。



当日、イベント会場にはたくさんの人がいた。

なんとか整理券を貰えたのだが、たったの1枚。

初参加という事もあり、わからない事だらけだったがネットで何とか取れた席を探しだす。

一人は寂しかったが、徐々に人が入る会場、周囲の楽しそうにしている声、会場内のアナウンスを聞いて、一人でいる事なんてそんな事はどうでもよくなってしまった。

どんどんと地鳴りのように大きくなる声と音、そして遂にステージは始まった。

ライブの熱狂はとにかく凄くて、初めての参戦だったが私も例外なく声をあげて「エミエミ」の名前を叫んだ。

ステージで踊る彼女はにこやかに笑い、会場の皆に笑顔と輝きを配っている。

代表曲の「私を輝かせるアイドル」も聴けて、最高のライブとなった。

大きな会場ではないので今回は3曲だけの披露となったが私にとっては大満足だ。

そして、私はライブの熱狂の余韻を感じながら握手会場を目指す。

朝もらった整理券でCDを買うと握手券を貰えるらしかったので、私は急いでCDを買いに行く。

握手会場の列に並ぶ頃には、列は長くなっていて、案の定エミエミの列が一番長かった。

早く握手したい所だが、ファンとしてこれはこれで嬉しいものだ。

私は話す事を決めておかないと、と思いながら胸元に付けた金の鳥のバッジを見る。

エミちゃんが前のライブで付けていたバッジをネットで頑張って探し出して入手してきたのだ。

今日はバッジしか真似してないし髪は伸びてしまったけど、エミちゃんへの憧れは捨ててない。


「エミエミとやっと握手できるよー。」

「今日も超可愛かったよねぇ、私ちゃんと握手できるかしら。」

などと声が聴こえる。

皆、私と同じ気持ちなのが嬉しい。

結局、30分は待っただろうか、この次が自分の番だ。


「はい、次の方。」

可愛い、顔ちっちゃ、スタイルめっちゃ良い、声可愛い、オーラすごっ。

頭の中で感想が走馬灯のように押し寄せてしまって私は上手く声を出す事ができない。

精一杯エミちゃんを見ながら「好き。」とだけ言えた。

やっと言えたと思った頃には係員さんが私に手を伸ばしながら「次の方。」と声をかける。

私は目でエミエミを追っかけながら手で自分の胸元のバッジを指してお揃いだよアピールをして追い出された。

エミちゃんが何か言っていたような気もするが思い出せない。頭の中が声可愛いに侵されて言語能力が機能しなかったようだ。

私は夢見心地のまま誘導される方へ歩いて行き、そのまま会場を後にする。



「ねぇ、お母さん。やっぱりエミちゃんの衣装が欲しい!」

ライブに感化されて、最近はずっと抑えていた感情が溢れ出した。

やっぱりエミちゃんは私のアイドルだ、クラスで何と言われようが関係ない。

今までにエミちゃんの衣装は何着か作った事があった。

勿論クオリティは本物と段違いに低いが、まぁ、50m離れてれば同じに見えるくらいの物が作れる。

私はライブ帰りだというのに寝落ちするまで衣装制作に夢中になった。なんだかこの日はお母さんも遅くまで協力してくれて嬉しかった。



翌日、私の学校へのお供にはバッジに、筆記用具などエミちゃんグッズ盛り沢山で登校した。

また何か言われるかもと思ったが、意外とそんな事もなく、仲の良い友達は、


「オタクが戻ってきたなぁ。」

と笑いながら言ってきた。

何だこれなら髪型も真似しても。と思ったが、そこまでするとまた陰口言われるかもしれないし、何より憧れの存在に近づきたいという気持ちと恐れ多いという気持ちまで昨日のライブで追加されてしまっていた。

そんな気持ちで学校が終わると私は帰り道に一人近所のスイーツ屋さんに行く。

何か良い事があるとここで甘い物を食べるのがポリシーなのである。

私は顔馴染みの店員さんに促されながら席へ案内される。

すると、

私の口はポカーンと開いたまま目が前方から離せなくなっいた。

そう向かいの席に小さい壁は挟んでいるが、帽子と眼鏡で変装しているエミエミがいるではないか。

昨日、生で会って手を繋いだばかりだ、それに溢れ出るオーラ。間違いない。

店員さんが私にオーダーを聞きに来たが、私はメニュー表を見ることもなくショートケーキを頼んだ。

勝手に目がエミちゃんを見続けてしまうのだ。

そうなると流石に向こうも気づくのだろう、一瞬バレないようにこちらと目を反らしたが、諦めたように私の方を見返して軽く微笑んだ。

ズッキューン、こんなわかりやすい言葉でしか表現できないくらいに心が撃ち抜かれた。

すると、エミちゃんはおもむろに立ち上がり、私のテーブルの椅子に座った。


「ねぇ、あなた昨日握手会来てくれてたよね?」

認知されてる?!何故。と思っていたのが顔に出ていたのだろう、無言でいる私の鞄についてるバッジを指さした。

でかしたぞ、バッジ君、今日から君は我が家の家宝だ!

そんな下らない事は頭の中を巡るのに目の前のアイドル様とはろくに会話ができない。


「ふふっ、緊張してる?昨日はお喋りできなかったしね。」

私は何とか心を落ち着かせて聞く事ができた。


「どうしてここへ?」

するとエミちゃんは私が声を出せたのを嬉しそうに言う。


「なんかここのデザートが美味しいって口コミ見て食べにきたの。」

確かにここのデザートは美味しい、私が自分へのご褒美に採用してるぐらいだが、アイドルがわざわざくるほどの人気店だとは知らなかった。


「そうなんです、ここのどれも美味しいんです。」

すると、エミちゃんはメニュー表を広げてチョコレートケーキを指さしながら、


「今日、これ食べたんだよ、めっちゃ美味しかった。」

私これからショートケーキ派からチョコレートケーキ派になりますと心の中で誓う。


「良かったです。是非、また来てくださいね。」

店の店員でもないのにまたのご来店をお願いしております私。


「ライブには何回か来てくれてるの?」

そんな私の心の声など気にせず話を続けるエミちゃん。


「いえ、昨日が初めてで。3年前から応援してて、ずっとずっと大好きでした。」

少し声が大きかったかもしれない、周りからの視線が刺さる。

言ってから恥ずかしくて中々、顔を上げられないでいたが先ほどの店員さんがショートケーキを運んできたタイミングでようやく顔を上げれた。

チョコレートケーキにしなかった自分が忌まわしい。

そして、店員さんが来たせいだろう、エミちゃんは自分の席に戻ってお会計しなきゃと言った仕草で席から伝票を持ち上げる。

去り際にエミちゃんは私に声をかけてくれた。


「あなたの笑顔、可愛いよ。またライブ見に来てね。」

終始私の理想通りのアイドルのエミエミに圧倒されてしまった。

しかし、最期の笑顔が可愛いって何なんだろう、私の笑顔が可愛いなんてわけないのに。

そう思いながらもショートケーキを食べる。ご褒美が増えた気がして最高の気分だ。


しかし、その日は突然訪れる。

いつも通りテレビを見ていたらニュースに流れるスキャンダル。

エミエミが人気若手俳優と交際しているのが写真に撮られたようだ。

相手は私も知っているイケメン俳優。

テレビではアイドルが交際するのはいかにも悪い印象で報道する。ましてやエミちゃんは18歳だ、早いという意見もあるだろう。

私は慌ててネットの意見も見る事にした。各SNSのトレンドランキングはエミエミで埋まり炎上しているのは明らかだった。

中には「おめでとう」という声もあるが半分以上が批判の声となっている。

「信じてたのに」「男がいるなら興味なし」、相手のイケメン俳優のファンらしき人からの投稿も「ふざけるな」など散々な物になっている。

別に「shining stars」には、交際禁止のルールはないのだが、若いアイドルへの変わらないイメージは付き物だった。「清楚で純潔」、「恋人はファンのみんな」そんなイメージの代表にいるのがエミエミだったのだ。

テレビでは尚も一連の報道が続き、取材陣がエミちゃんと相手の事務所に突撃インタビューしている様子も映る。

終始、下を向いて暗い表情で言葉を発せず車に乗り込む女の子。その帽子には私とお揃いの金の鳥のバッジがついていた。

それを見ると、その女の子がエミちゃんだと認めるしかないのが辛い。

テレビでの報道は3日立ってようやく落ち着いた、それでもネットの中では消されない火が燻ぶっている。

でも、鎮火してきたのか、擁護派のほうが多くなってきた印象だ。

今まで、世の中の人を笑顔にしたきたエミちゃんの偉大さを感じる。

勿論、私だって擁護派だ。18歳という歳での交際報道は少し早いなぁと思うがいつかは来る事だし、何より私の大好きな人が大好きな人と一緒にいられるのは素晴らしい事だ。

ただ、これを許さない男性ファンや相手のファンがいて、中々に長引きそうな様相だった。

そんな中、またも記事がネットに上がる。

1週間後、東京で公演があるのだがエミエミの不参加の記事だった。理由は、体調不良、心身衰弱との事だ。

あれから、事務所経由で公開された謝罪文が出ていたが、交際は事実だと認めた文章だった。

エミエミの不参加が決まると更に荒れるネットの世界。

「無責任」「誰がセンターやるの?」「応援してるよ」「頑張って」「芸能界に何しにきた」「エミちゃん復活希望」

色んな声を見ながら願った。エミちゃん戻ってきて。

お揃いのバッジを見て願った。どうかまたこのバッジを見せて。

憧れて買ったCDを聴いて願った。どうかまたこの声を聴かせて。

お母さんと一緒に作った衣装を着て願った。どうかこの衣装で踊る姿を見せて。


そして、願うだけの事は止めた。

決行はライブ当日のスタート10分前。

私はエミちゃんだらけになった部屋の中で決意する。



ライブ当日


私は奮発して東京のライブ会場まで向かった。開演10分前になっても中に入っていない人達は、音漏れでもいいから聴きたいと集まった方々だろう。

その集まりの中で私は探す。ライブ配信している人を。

私に声をかけられた人は最初は凄い驚いていたが、私の姿を見て理解したのだろう、快く応じてくれた。

そして、配信画面に写り込む私。


開演5分前。

私の人生始めてのコンサートは、エミちゃんと同じ衣装にバッジをつけて、短く切ったショートカット姿で行われた。

私を輝かせていてくれたエミちゃんにもう一度輝いて欲しい。

携帯から流れる音楽を頼りに踊り出す。

周りの視線が痛い、でもやり切りたい。

最初は恥ずかしさで逃げ出したくなるし足がガタガタと震える。

それでも、次第に集まる人と合いの手。

皆、笑顔だった。

私は全力でエミちゃんを応援する。

私の姿を見て近くのお姉さんがエミちゃんのウチワを持って応援してくれた。

お兄さんが「エミエミ戻ってきてー!」と叫ぶ。

周囲が一体となりエミちゃんコールが始まった。

もう開演はしてるだろう、それでも私は歌って踊る。

すると、白いフードを深く被った華奢な女の子が私に近寄って呟く。


「ありがとう。今度は一緒にチョコケーキ食べようね。」

微かに震えた声だった。

そしてその少女は会場の方へと走っていく。

その少女が走ったのを見届けると私はライブを止めた。

もう大丈夫。私には胸元に付いてる金色の鳥のバッジが見えたから。


数分後、会場は揺れるような歓声と共に揺れた。

あの後、ネット上で「救世主」と変な名前で呼ばれるようになった私の動画は大バズりして、一躍時の人となってしまった。

コメント欄には「笑顔が可愛い」などのコメントがあり私はようやく気付く。

あれ?私、また笑えるようになってる。

文字数制限の為、カット修正するのに悩みました。

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