2話:公爵家
馬車の前に着くと、弍人の騎士が、馬車に向かってノックをした。
すると、扉が開かれ、そこから卌歳かそこらの白髪混じりの壮年の男と、十二歳程光を反射しうるほど透き通った白㛲の少女が馬車から降りてきた。
明らかに貴族と分かる豪華な服。だが、厭らしくない程度の豪華さ。これぞ正に伝統のある貴族なんだろうと感じられる。
ファルノモキアは平民として、跪こうとすると、アブァリスが、彼の腕を掴んで止めた。
ファルノモキアが疑問に思ってアブァリスの方を見ると、壮年の男が微笑みながら話し始めた。
「君は命の恩人だ。跪かなくてもいい。出来ることなら、こちらが膝を付いて感謝を述べたいくらいなのだ。本当に、本当にありがとう!!私と娘が生きていたのは、君のおかげだ。いくら感謝してもしきれない!」
壮年の男は俺の両肩を掴み目を潤ませながら、そう言った。
しばらくして、落ち着いたのか、少し恥ずかしげに謦をしてから、自己紹介を始めた。
「さっきは少々取り乱してすまない。自己紹介をしようかね。私はソレリア帝国公爵、リュクドガルド・リア・フォン・ラヴェルミナだ。そして、隣にいるのが娘の」
「ララリエール・リア・フォン・ラヴェルミナです。助けて頂き本当にありがとうございました。」
白㛲の少女こと、ララリエールが、言葉と同時に深めのお辞儀をした。
それに少し驚きつつも、ファルノモキアは
「頭を上げてください。たまたま居合わせただけですので。助けられて良かったです。」
と言った。
それを聞いた公爵は、益々彼を気に入ったようで、最初は護衛として騎士団と共に外を歩く予定だったのが、馬車の中に乗りながら、帝都に向かうことになった。
帝都に向かう最中、公爵からファルノモキアにとある質問がされた。
「君は不思議な術を使う見たいだけどそれは呪法なのかい?」
「呪法……ですか?」
ファルノモキアは少し首を傾けながら聞き返した。
「あれ?呪法を知らないのか……相当な田舎から来たんだね。」
という事は、呪法という物の存在はだいぶ広く認識されているのだろう。だが、辺鄙なところだと、広まってないこともあるのか…とファルノモキアは安心した。
「えぇ。実は祖父と弍人で山の中に住んでいたんです。祖父が亡くなるときに世界を見てこいという事で、こうして街に向かうことにしたんですが、如何せん街の場所が分かんなくてですね」
と即興で考えた嘘を弍人に伝えた。
「そうか、なら街についても色々教えよう。」
そうして、公爵から呪法と街について教えてもらった。
まず、呪法は呪力と言われる力を使って起こす現象のことで、先程の野盗の頭が使っていたのがそれに当たるらしい。今後は、呪法師と名乗った方がいいだろう。
次に街については、基本的には街の入口に大きな門があり、そこを門番が守っている。街に入るには、その門番に市民票か、身分証を提出し、既犯測定器と言われる水晶に、手を翳して、問題がなければ入ることが出来らしい。
「今回は、私が後見人になるから、そこら辺は全部カットでいけるかと思うよ。」
そう言われて、公爵の権力えげつなっと思ったファルノモキアだった。
説明が終わり、しばらく無言の時間が流れていた時、ララリエールが少し緊張した面持ちで、ファルノモキアに話しかけた。
「ファルノモキア様!帝都に着いたらなにかご予定はあるのですか?」
その質問に少し考える素振りを見せるが、実際のところ帝都に何があるのか、どんな職業があるのかすら分からない状況だ。なので、すぐさま首を横に振る。
「いえ、特に何も決めてないですね、なにか自分にもできる仕事がないか探してみようと思ってます。」
「そうですか……」
少しほっとした様な表情をした、ララリエールに続いて、公爵が、
「それなら学園に通ってみないかい?」
と訊いてきた。
学園とは帝国において、呪法について学ぶ学園で、帝都にある学園は呪法の勉強をする上で最高学府だとされており、ほとんどの王侯貴族の子息令嬢も通うほど大きいものらしい。入学金は基本的に無料で全寮制となっているため、受験で合格すれば、貴族だろうと平民だろうと平等に入学出来るらしい。
学園の説明を受けたファルノモキアは、壱つ疑問を持った。それは、
「なんで、その学園ってのに、俺を誘うのでしょうか?いくら無料と言っても態々誘うようなものなのかなって思ってしまって。」
ファルノモキアがそう言うと、公爵は壱度大きく笑うと微笑みながら喋りだした。
「単純に、君に色んなことを学んで欲しいんだ。君の実力は、うちの騎士団長の折り紙付き。そんな君が、一般常識や色んなことを学ぶことそのものが、君の将来に繋がるだろうと思っている。」
そう言って壱度言葉を止め、今度は壱転して深刻そうに話し出した。
「それとね、今、娘のララが何者かに狙われているんだ。学園は全寮制且つ関係者以外立ち入り禁止。うちの騎士も護衛として入ることは許されない。だから君に学園に入学して、ララの護衛をして貰いたいんだよ。」
なるほど、確かにそれなら納得出来る。それに、この世界の常識や、呪法の情報は気になる。
「その狙っている者の詳細は判ってない感じですか?」
「そうだね。検討は付いているけど、確証はね。そこら辺は後でって感じかな?それで、この依頼。受けてくれる?」
ファルノモキアは少し間を空けて、
「その依頼。お受け致します。」
と言った。
公爵はほっとしたように気を緩ませ、ファルノモキアに感謝の言葉を述べた。それから、ララリエールは、弍人の会話が終わったのを確認して、公爵、ファルノモキアに向けて、こう言った。
「それなら、ファルノモキア様。入学までうちで過ごすのはどうでしょう?部屋の余りもありますし、お金もかかりません。」
それに乗っかって、公爵も、
「それはいい案だ!ぜひともうちで過ごしてくれ。満足のいく饗しをしよう!助けて貰ったお礼もまだ出来てないしね。」
俺は弍人の圧に気圧されながら頷いた。
そこからしばらくは他愛のない話をしていると、扉を三回ノックされた。どうやら帝都に着くようだった。




