穢れ
蒼空の四人の言霊使いはみんな霊体化したので、俺は姫天皇と蒼空と三人で駅まで向かうことになった。
すっかり暗くなっていて、一斉下校をしていたので、俺達三人以外で歩いている人はほとんどいなかった。
おかげで姫天皇が霊体化していなかったが、気兼ねなく話すことができた。
「なあ、蒼空。中条先輩だけど、未だに行方不明なんだ。蒼空は何か知っているか?」
「彼女ならさっき、家に帰したよ」
「え、どういうこと?」
「穢れは人の負の感情から生まれて、それを生み出した本人にそのまま憑りつき、他者を傷つけたり犯罪に走らせる場合もあれば、生み出した本人を離れ、他人に憑りつき、憑りついた相手に犯罪を起こさせる場合もあるんだ。あとは穢れ自体が攻撃を行うこともある。つまり歌詠みに対する攻撃のことだね」
「中条先輩の場合は……?」
「中条里美の場合は、他者に憑りついた穢れに襲われたんだ。ナイフで脅され、歓楽街のいかがわしい場所に連れ込まれそうになっていた。それを紫が見つけ、すぐに穢れを祓った。でも中条里美は穢れそのものにも触れてしまっていた……。
つまり、中条里美自身の負の感情が、穢れに触れたことにより刺激され、穢れを生み出しそうな状態なっていたんだよ。だから歌詠みの協力者がいる病院へ運び、そこで穢れを祓い、蜻蛉から治癒を受けていたんだ」
歌詠みの協力者とは、過去に歌詠みの活動で救われた人達の子孫、現在救われた人など多岐に渡っていた。主に道鏡の攻撃から救われ、協力者になった者が多く、歌詠みの存在を秘匿しつつ、陰ながら支援を続けているという。
「協力者の件は理解できたけど、蜻蛉による治癒……。俺はてっきり、言霊使いが行う治癒は、歌詠みや言霊使いに対してのみなのかと思ったけど、違うんだな」
「いや、それは僕が説明不足だったね。回復のステータスを持つ言霊使いができる治癒は、穢れや呪魂によりつけられた傷や怪我、そして心の傷なんだ。穢れや呪魂によってつけられたものであれば、それがただの人間であれ、歌詠みであれ、言霊使いであれ、治癒が可能なんだよ」
「そーゆうことか」
「中条里美の場合は、傷と言ってもそれは心の傷のことなんだ。穢れに触れたことで負の感情が刺激され、それで心に傷を負った。肉体の傷はすぐに治癒できても、心の傷の治癒には時間がかかる。それで今日まで時間がかかってしまったんだよ」
「なるほど」
「ちなみに湊の場合は、覇気で吹き飛ばされてできた怪我や傷を、蜻蛉が治癒したんだよ」
「そうだったのか……。でも中条先輩の心の傷が治癒できて良かった……。明日から夏休みだし、その間に先輩が元気になってくれるといいな」
「そうだね」
蒼空はそう言って微笑んだが、突然立ち止まった。
さらに姫天皇が、俺の腕をぐっと抱きしめた。
「和泉、蜻蛉」
蒼空が短く二人の言霊使いの名を呼んだ。
その瞬間、和泉と蜻蛉が蒼空の隣に現れた。
「すぐそこの先の公園だ。頼んだよ」
蒼空の言葉に二人が頷いたと思ったら、その姿が見えなくなった。
「蒼空、何が……」
「説明は後だ、湊」
蒼空はそう言うと駆け出し、俺はその後を追った。
◇
「姫天皇、何か見えるか?」
俺は並んで走る姫天皇に聞いてみた。
「はい。見えます。この先の右手に公園がありますよね、主様」
「……公園、あ、ああ。あれのことか。確かにシーソーと砂場はあるけど、不法投棄されたごみが転がっていたりで、放置された公園みたいなのがあるな」
「それのことです。そこで穢れにより操られた男が、女性に襲い掛かろうとしています」
「えっ⁉」
「でも今、和泉が祓ったので、未遂で終わりました」
そこで蒼空と俺たちはその公園に着いた。
伸び放題の草むらに会社員らしき中年の男性が倒れており、その傍に和泉に支えられ、蜻蛉から治癒を受ける若い女性の姿が見えてきた。
「良かった。未遂で終わった」
蒼空がホッとした表情になった。
「警察に通報するか?」
「本来ならそうしたいのだけど、こうやって穢れを祓い、治癒をする人間は一日に何十人という数になるんだ。さすがにそのすべてに関わることはできない……。男は簡単には目覚めないけど、女性の方は蜻蛉の治癒が終わればすぐ目覚める。幸い女性は穢れにも触れていないし、目覚めたら女性が自分で通報すると思う」
「主様、間もなく治癒が終わります」
蜻蛉が蒼空を見た。
蒼空は頷き、「行こう、湊」そう言うと、公園を離れた。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
また昨日に続き、来訪くださった方も、本当に感謝でございます。
今日は2話公開です。引き続きお楽しみください!




