二人の時間
「あれはホント、傷ついたよ……。すごい美人から自分が殺す、って言われたんだよ……」
紫はとても焦った様子で、俺の腕を掴み
「本当に申し訳ございません」
「……」
「主……」
「……キスしてくれたら許す」
しまった。つい、また自分の欲望を口にしてしまった。
「……!」
逆ギレされるかとドキドキしたが、紫はベッドに両手をつき、身を乗り出すと俺の唇に軽く自分の唇を重ね、すぐに離れた。
顔も耳も真っ赤になっていた。
……やばい。可愛すぎる……。
ほんの一瞬のキスだけで俺のテンションはまたもMAXになった。
「今のでさっきの件はもうチャラだよ」
俺の言葉に紫はまだ頬を赤くしたままだったが、ホッとした表情になった。
「さっきの件はもういいけど、その後の態度がものすごく冷たかったのはなんでなんだ?」
すると紫の表情が変わった。
「それは主がいきなり歌合せの儀式で、姫天皇と口づけをされたからです!」
あの時のことを思い出したのか、紫が頬を膨らませた。
うわぁ、そんな風に怒った顔も可愛いなぁ……。
「主、なんでそんなにデレデレした顔をしているのですか! そんなに姫天皇との口づけが良かったのですか!」
ヤバい。嫉妬する紫も可愛い。
俺は紫を抱き寄せた。
「違うよ。今、そうやって怒って嫉妬する紫が可愛くてデレデレしていたんだよ」
「……!」
「それに姫天皇のキスは……あれはいきなり現れてだったから防ぎようがなかったんだよ」
紫はまだ納得がいかないという表情だ。
「主が大将クラスの呪魂に襲われ、紫が駆け付け、戦闘になった時のこと、覚えていますか?」
「ああ、もちろん」
あの時、俺は紫を助けたい一心で白虎を紫の元に向かわせたんだ。
「紫が大将クラスの呪魂を倒し、戻った時のこと、覚えていますか?」
「もちろん。俺は紫に御礼を言いたかったのにすぐ帰っちゃたよな」
「……! 当然です。紫は戦闘から戻ったのに、主は、主は……」
紫は涙目で抗議した。
「抱きついてきた姫天皇のことをぎゅっと抱きしめられたのですよ! 目の前でそれを見せられた紫の気持ち、分かりますか!」
「ち、違う、紫、あれはそうしないといけなかったんだよ。紫を助けに行く代わりに戻ったら抱きしめるっていう約束を姫天皇としていたから」
紫はまだ涙目のままだ。
「ごめんな、紫」
俺は紫をぎゅっと抱きしめて、それから左手で紫の手を持ち上げ、薬指の指輪にキスをした。
「紫がこの指輪をずっとつけてくれていて嬉しかった。だから俺もこの指輪を大切につけているんだよ」
俺の言葉に紫の表情が和らいだ。
俺は紫の髪に顔をうずめながら
「紫は俺が姫天皇に優しくしていると勘違いして、ものすごく怒っていたんだよな。でも翌日、俺に結界に関する本を届けてくれて、結界の展開の仕方まで教えてくれた。すごく感謝しているよ」
「主……」
「でも」
俺はそう言うと紫の顔を見た。
「あの時はホント、驚いた。いきなり屋根から結界の円陣にジャンプして、そのまま目を閉じて落下するから……。紫は俺に無茶をするなというけど、あれは物凄い無茶ぶりだったと思うぞ」
「確かに……。少々やり過ぎでした」
「でもおかげでその後、紫に抱きつくことができたからな。すごくいい香りがして、髪は艶々で、ああ、女の子ってこんなに……いて」
紫が照れたような顔で俺の頬つねった。
「それで次の日、俺は憑依されて……」
あの時の紫は本当に冷たかったな……。
もちろん憑依された俺から穢れを祓ってくれたし、俺の不名誉な出来事を誰にも話さなかったわけで、俺が文句を言える立場ではないが……。
俺は紫を見た。
紫は下を向き、少し頬が赤くなっていた。
……まさか。
「む、紫、俺、憑依された時、紫に何かしたか⁉」
「い、いえ、何も」
この表情、この言葉、絶対に俺、何かしでかしている。
「紫、正直に言ってくれ。そして紫に何か失礼なことをしているなら、謝罪させてくれ」
紫はしばし無言だったが
「本当に何もなかったです。何かされる前に紫が気絶させてしまったので……」
うぉーーー、俺、やっぱ何かしようとしたんだ……。
「ただ、言葉だけ。『お前のことは誰にも渡さない。今すぐその甲冑を外せ。そして俺のものになれ』と……」
……!
俺、紫のことを襲おうとしたのか……。
「む、紫、本当にごめんなさい。憑依されていたとはいえ、申し訳ない」
「いえ。憑依された時に表出した願望が紫だったのは……少し嬉しかったです。人によってはお金や権力に対する欲望をむきだしにするので」
紫……。
俺は紫をぎゅっと抱きしめた。
そして。
思い出していた。
俺の憑依騒動があった翌日に起きた出来事を。
紫が道鏡の呪いに憑かれた時のことを……。
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次回は最終回です‼
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