ある一点を除いては
……。
背中に何かが当たった。
いや、ぶつかった?
うん?
俺は体を起こそうとしてそのまま何かから落ちそうになり、慌ててうつ伏せになると、両手でその何かに掴まった。
全身に風を感じた。
……!
俺は巨大な鳥の背に掴まっていることに気づいた。
あの時見えた、オオワシか?
俺は地上の方を見た。
うわぁ、すごい高さだ。
信長がいたであろう場所ではまだ炎が燃え盛っていた。
それを皆が一斉に消そうとしていた。
本陣にはさっき見た白い狩衣の人達が沢山いて、怪我をした言霊使いや歌詠みを介抱しているようだった。
……!
俺の方を見る、フードを被った少年……小笠原久光が、本陣にいた。
◇
「これはどういう風の吹き回しなのかな?」
先ほどの激闘で賀茂 莉子の眼鏡はついに壊れたようだ。
見慣れた眼鏡がないその顔は、それはそれで綺麗なもんだった。
「まあ、織田信長なんて滅多にお目にかかれないからな。一目見ておこうと思ったまでだ」
ぼくの言葉に莉子は
「わたしが心配で駆けつけたんだろう」
そう言ってぼくの首に腕を回した。
顔に柔らかいものが押し当てられ、ぼくは慌ててその腕を振りほどいた。
「莉子、お前に求めるのは今回の対価のみだ」
ぼくの言葉に莉子は「つまらんな」と呟き、焼け野原となった激戦地を見渡した。
「しかし、この結末も、小笠原久光、君にとっては想定通りだったのか? 絶妙なタイミングでの登場。常に先を見て無駄なく動く君のことだ。この展開を読んでいたのだろう?」
莉子はこう見えて意外に鋭い。
「まあ、な。湊の魂の異物が義経の魂と分かった時点から、なんとなくこの結末は読めていた」
「動物の呪魂が現れることも?」
「少将、中将クラスの呪魂は僕がごそっり片付けた。そうなれば道鏡が虫や動物に手を出すことは想定の範囲内だった」
「じゃあ、大将クラスの呪魂が三十体現れることは?」
「はっ。そんなの簡単じゃないか。今、動いている歌詠みの状況、悪いがこっちでは把握させてもらっている。微妙に同業他社だからな。
それで白狐が声をかけてかき集められる人数、そんなものは簡単に割り出せる。抱えている案件の程度から、手を離せない歌詠みの数は一目瞭然だ。
その人数に対し、どれだけの大将クラスの呪魂をぶつけるのが効果的か、なんて道鏡じゃなくても分かるさ」
「はぁー。なんでもお見通しか。でも流石に信長は……」
「来るだろうとは思っていたよ。僕の予想では織田信長か土方歳三だった。でもまあ、与えるインパクトとしては織田信長はダントツだ。ただ、道鏡のおっさんに、信長を扱いきれるのか、という懸念はあった」
「ご推察の通り、扱いきれず、大将クラスの呪魂は信長が潰してくれたよ」
莉子が伸びをした。形のいい胸がぷるんと揺れた。
「まあ、信長を呼び出す、ということは、そういうことだ」
「で、信長公登場ですぐに駆けつけなかった理由は?」
「それはぼくが出るまでもなく倒せると踏んだからだ」
「……こちとらかなりの苦戦を強いられたのに?」
「それはぼくの責任ではない。ぼくは陰陽師、君たちは歌詠みだ」
「まあ、そうだな……」
「紅と碧を遣わせた時点で、義経と湊の魂が融合することは見えていた。義経は本来呪魂になるような男じゃない。しかも湊と過ごした時間は長いはずだ。それは怒りを鎮め、冷静になるには十分な時間だったはずだ。そして義経がついたとなれば、信長に負けるはずがない」
「……だが、奴は策士だったぞ。わたし達には三本の矢作戦を勧めておきながら、密かに紫と業平を使い、天柱を攻撃し、信長を倒そうとしていた。本陣にいたわたし達は囮に使われたんだぞ」
「その本陣には義経もいた」
「……」
「義経は大局を見ていた。ここで信長を倒さなかったらどうなっていた? 全滅していたら、結界はなくなる。信長は再び、葦原の中つ国に君臨することになっていたんぞ、莉子。しかも呪魂の状態で。背後には道鏡もいるのに」
「それは……返す言葉がないな。義経は……何も間違っていなかった」
「間違っていなかっただけじゃない。義経は俺と同じだ。勝ち筋を見ていた。どんなに火を使おうと、天柱に覇気が触れた時点で信長は紫と業平に気づく。気づいたその時に気を逸らすために、義経は本陣に残った。湊が気付いたのは偶然じゃない。義経が湊を動かしたんだよ」
「……なるほど。そして天柱への攻撃、義経による腕への一撃は同時に起きると予想した。そこで落下する湊を助けるために式神のオオワシを遣わした。さらに本陣へ陰陽師を引き連れ、消火と救助を行ったと」
「感謝こそされても、文句を言われる筋合いはないはずだ」
「無論だ。小笠原久光、君は完璧だったよ。ある一点を除いては」
「何⁉ なんだ、その一点というのは?」
ぼくは心外だという顔で莉子を見た。
莉子は腕を伸ばし、ぼくの頬に手を添えると
「小笠原久光、君はわたしのハートを盗んだ。想定外、だろう?」
莉子はそう言うとぼくの唇を奪った。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回更新タイトルは「約束」です。
激闘のその後が描かれます。
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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明日、また続きをお楽しみください!
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