最後の戦い
第二防衛線で大男が足止めされている間に作戦会議が行われた。
大男の正体が信長と分かった今、多くの歌詠みがその弱点は「火」であると認めた。
そして腰に瓢箪はもうない。
つまり水を、もう信長は持っていない。
ならばと急ピッチで火や炎に関わる神や霊獣、神獣を召喚する防御結界が展開された。
ただ、俺は不安だった。
そんなあからさまに火を使う結界を展開すれば、信長が怒りを爆発させるのではないかと。
俺はそのことを義経に尋ねた。
義経はしばらく沈黙していたが
――火を使えば、信長の目は間違いなく本陣へ向けられる。怒りは頂点に達し、自分の首が背後から狙われていることに気づかない可能性が高まる。
つまり、それだけ天柱への攻撃の成功度が増す、ということか……。
怒りが頂点に達した信長が何をするか想像もつかなかった。
ただ、怒りの矛先が向かうのは本陣だ。
何も知らず、なんとか信長を倒そうと、結界を展開し、作戦を練る歌詠みや言霊使いに怒りは向けられるのだ。
俺は周囲にいる人たちに目を向けた。
莉子先輩、蒼空。
菅家、蝉丸、猿丸、右近、納言パパ。
清納、蜻蛉、伊勢、和泉。
姫天皇、小町。
白狐。
七人の歌詠みと沢山の言霊使い達。
……。
俺は胸が苦しくなった。
でも、今は大局を見なければならない……。
俺は拳を握りしめた。
すると。
紫が俺の拳を両手で包んだ。
ハッとして俺は紫を見た。
紫も気づいている……。
火を信長に向けることは、まさに火に油を注ぐものだと。
それはつまり、本陣に残るみんな、そして俺に危険が及ぶ可能性が高まると理解している。
それでも紫は信長を倒すために、業平と天柱の攻撃へ向かわなければならない。
俺を置いて本陣を離れること、それを紫はどんな気持ちで受け止めているのか……。
紫も耐えているんだ。
歌詠みとして、俺はもっと強くならなければならない。
俺は大きく深呼吸し
「ありがとう。紫。俺は大丈夫だ。紫は自分がなすべきことをやり遂げてくれ」
紫は静かに頷いた。
「第二防衛線が突破された。くるぞ」
莉子先輩が叫んだ。
◇
皆が無言の中、信長が歩みを進める音と振動だけが響いていた。
莉子先輩がその時を待っていた。
紫と業平は左右に分かれ、すでに信長の方へ向かっていた。
第二防衛線を超え、信長は本陣へ迫っていた。
莉子先輩が告げた。
「納言パパ、これが最後の一吹きになるだろう。思いっきり吹き鳴らしてくれ」
納言パパの法螺貝が鳴り響くと同時に一斉に皆が動いた。
朱雀、火竜、炎駒が炎を吐き、火神が火球の雨を降らせた。
火をつけた矢が何本も放たれた。
焙烙玉がいくつも投げられた。
信長の周囲は激しい炎で包まれた。
さらに炎以外の攻撃も一斉に行われた。
すると信長は覇気を放った。
多重展開した結界が次々に砕かれた。
だが攻撃の言霊使いは攻撃を止めず、防御の言霊使いは再び結界を展開した。
俺も必死に防御結界を展開した。
朱雀、火竜は上空から、炎駒は地上から炎を吐き続けた。
信長の体が燃え始めた。
再び、信長が覇気を放った。
結界が砕かれるが、誰もこの場から逃げようとせず、自分がすべきことをやり続けた。
火の粉が辺りをまい、髪が燃えるのを感じた。
もう辺り一面が火の海だった。
吸い込む空気が熱かった。
信長は火のついた湯帷子を脱ぎ捨てた。
そしてその湯帷子で左側から結界を薙ぎ払った。
「……!」
何人もの言霊使いが吹き飛ばされ、悲痛な悲鳴が轟いた。
すると。
白虎が湯帷子を持つ信長の右腕に噛みついた。
すると信長は左手の拳を白虎の頭部に振り下ろそうとした。
だがその左手に玄武が噛みついた。さらに左腕全体に青龍が絡みついた。
左腕は一瞬で紫色にうっ血した。
その時。
俺は信長の左右の肩に人影を見た。
紫と業平だ。
信長は白虎に噛まれたままの腕で、玄武を叩きつぶそうとし、動きを止めた。
背後を気にする様子……。
気づかれた! 紫と業平のことに気づいたんだ。
俺は隣の猿丸に叫んだ。
「俺を白虎目掛けて投げてくれ」
猿丸は驚いて一瞬動きを止めたが、すぐに俺を掴むと、思いっきり投げ飛ばした。
その瞬間
――よくやった、湊。あとは任せろ。
義経の声がして、俺は宙を回転し、そして信長の腕に降り立った。
信長が驚いて俺を見た。
義経はそれに構わず刀を抜くと、思いっきり振り下ろした。
と同時に信長の左右の首から覇気が放つ光が見えた。
やった、紫と業平が天柱に覇気を放ったんだ!
信長の動きが止まった。
そして信長の腕は義経の一撃で切り落とされ、俺の体はゆっくり落下を始めた。
義経と言えど、この高さからの落下ではどうにもならないだろう。
周囲の景色が不思議なことにスローモーションで見えた。
辺り一面、火の海だった。
火の粉が舞い、煙が広がっていた。
その煙の合間に本陣が見え、そこに白い狩衣姿の人が沢山見えた。
いつの間に現れたんだ?
一斉に印を組み、何かを念じている。
……鳥の鳴き声が聞こえた。
遠くから大きな鳥がこちらへ向かってくる。
とても大きい。
これはオオワシ……か?
信長の姿が徐々に消えていく。
そして俺は背中に炎を感じた。
忘れていた。
地面に激突ではなく、炎の中に落ちて行くのか。
抗えない運命を、俺は静かに受け入れることにした。
紫、また、会えるよな。
俺は目を閉じた。
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次回更新タイトルは「ある一点を除いては」です。
抗えない運命を受け入れた湊は……。
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