正体
「莉子」
白狐が莉子先輩を呼んだ。
本陣は嵐の前の静けさで、皆、配置につき、その時を待っていた。
「見えるかい?」
「いや、何も……」
正面に見える山が揺れたように見えた。
「莉子、まだ分からないかい?」
莉子先輩が目を凝らした。
俺も莉子先輩と同じ方角を見つめた。
正面には三つの山……。
三つの山?
「莉子先輩、正面にあった山は二つのはずです。山間の道、そこから大将クラスの呪魂や動物の呪魂が現れたはずです」
俺の言葉に莉子先輩は目を細めた。
「ということはあの山のように見えるものが、呪魂……?」
ズン。
ズン。
ズン。
地響きが聞こえてきた。
「地震か⁉」
本陣にざわめきが起きた。
二つの山の一部が突如崩れた。
木が折れる音と、岩が転がる音が響き、大地が揺れた。
土が崩れ落ち、山と山の間から巨大な呪魂が姿を現した。
「あれは……」
莉子先輩が息を飲んだ。
湯帷子を着て、腰に紐を巻き、瓢箪をぶら下げ、打刀を二本、無造作に差した大男が現れた。
な……なんて姿だ?
大男は左右の山をそれぞれ半分ずつ踏み潰し、草原へ出た。
そしていきなり、手を振りかぶって、何かを投げてきた。
「上から来るぞ」
防御結界を守る霊獣や神獣が飛んでくるものを迎え撃った。
何かが砕け、頭上からパラパラ落ちてきた。
「土と、……砕けた岩……?」
目の前の山を踏み分ける際に掴んだ土や岩を投げてきたのか……。
「なんて乱暴なやり方なんだ? 腰の打刀はただの飾りか?」
莉子先輩の言葉に反応するかのように、大男が突然駆け出した。
大地が揺れ、皆、立っていることができなかった。
だが。
大男は立ち止まった。
すぐ目の前には防御結界が展開されており、そこに沢山の神の姿があった。
戦闘が始まった。
雷鳴が轟き、竜巻が起こり、濁流が大男の体を飲み込んだ。
その瞬間。
信じられない強さの覇気が放たれた。
多重に展開されている結界の一つ目はこれで砕かれた。
雷も竜巻も濁流も消え、そこには大男の姿だけが残った。
突如大男の足元から氷が広がった。
あっという間にその体は氷に覆われた。
するとその氷を包むように無数のツタが伸びた。
大男は動かない。
皆が「もしや」と思ったその時、氷が砕け、ツタが吹き飛んだ。
すると突然、第一防衛線から横一文字で炎が燃え上がった。
その炎の勢いやすさまじく、大男の胸のあたりの高さまで燃え盛っていた。
大男が後退した。
一歩、また一歩と後退している。
「火が弱点なのか……?」
莉子先輩が独り言のように呟いた。
しかし。
大男は腰の瓢箪を手に取り、中に入っていた水を炎にぶちまけた。
炎はあっという間に消えた。
「な……あの瓢箪の水にさえ、覇気を込めていたのか⁉」
莉子先輩が驚きの声を挙げた。
尋常ならざる恨みを現世に持ち、仲間を犠牲にすることを厭わず、怒りを爆発させる。
刀はあるのにそれを使わず岩や土を投げる乱暴さ。
甲冑を纏うでもなく、直衣を身に着けるでもなく、湯帷子に腰に紐という破天荒な姿。
そして……炎に後退した。
さらにわざわざ水を用意していた。
「莉子先輩」
「なんだ、湊!」
莉子先輩は、第二防衛線へ向け余裕の歩みを進める大男から目を離さずに叫んだ。
「あの呪魂の正体、分かった気がします」
莉子先輩が俺を見た。
「あれは織田信長……ですよね?」
莉子先輩は無言で大男に目を戻した。
「……そうだ、そうだよ、湊。まさか尾張の大うつけと呼ばれた時の姿で現れるとはね! 道鏡はとんでもない奴を目覚めさせてしまったな」
そこで莉子先輩は言葉を切り、叫んだ。
「作戦会議だ!」
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回更新タイトルは「最後の戦い」です。
プロローグにつながる物語が展開されます。
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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