決戦への準備
結界に戻って驚いた。
そこには以前、病院で見かけた歌詠み達とその言霊使いが集結していた。
白狐を肩に乗せた蒼空と菅家が俺たちに気づき駆け寄った。
「蒼空、状況は?」
「はい、師匠。白狐の呼びかけで七名の歌詠みが集結してくれました。今ここにいる以外の歌詠みも駆けつけたいと言ってくれたのですが、距離的に難しい者、また現在他の案件を抱えている者もおり、今いる七名となりました」
「いやあ、上々だよ。現在歌詠みは新顔の湊を含め、十五名しかいないのだから」
莉子先輩はご機嫌だった。
「結界の展開はどうなっている?」
菅家が答えた。
「はい、主様。ここから三百メートル地点を第一防衛線として防御結界を十か所展開してあります。次に百五十メートル地点を第二防衛線として、同じく十個の防御結界を展開しています。そしてこの地点は本陣として、十五か所の防御結界を展開しました。各防衛線には回復の言霊使いを配置し、第一防衛線に攻撃の言霊使いを、第二防衛線に祓いの言霊使いを配置しようと考えております」
「総力戦だな。歌詠みは基本的に本陣に?」
「はい。歌詠みあっての言霊使いですので。一人の歌詠みが倒れれば、そこに紐づく言霊使いも倒れ、それは大きな戦力減につながります」
「だな。それで、道鏡はいつ動くと?」
「小笠原久光がすでにここにいないことは分かっていると思います。今はこちらの様子を伺いつつ、小笠原久光が何か仕掛けていないか、探っている最中かと。偵察と思われる少将クラス以下の呪魂が何体か現れ、すでに祓われています」
「なるほど。ではまだ少しばかりの猶予がありそうだ。私は各防衛線を見て回る。湊、君は紫にその刀の扱いを習うといい」
莉子先輩の言葉に俺は「分かりました」と返事をした。
◇
莉子先輩は猿丸と蝉丸を連れ、第二防衛線に向かった。
菅家は小町を連れ、第一防衛線の方へ歩いて行った。
「じゃあ、紫、頼む」
俺は紫を見た。
紫はなんとも言えない表情で俺を見た。
「紫……?」
俺が尋ねると、紫は意を決した表情で口を開いた。
「紫は主が刀を振るうことに反対です。刀は、短時間で扱えるようになるものではありません。刀があるからと、主が無茶するのではないかと、それも危惧しています。主には紫がいます。紫が主の刀となって戦うので、主は歌詠みとして後方から指示をだしていただければと思います」
「紫……」
俺の身を案じてくれているんだ。
例えそれが言霊使いの義務感からきているものだとしても嬉しかった。
「紫、ありがとう。気持ちはよく分かるよ」
紫がホッとした表情になった。
「でも、小笠原久光は僕が義経の魂と融合すれば吉となると言っていた。そして俺は義経の魂と融合できた。これは意味があることだと思うんだ。
小笠原久光は無茶をしない。勝ち筋を見出して動く。だとしたら義経と俺の魂の融合を口にした時点で、それは勝ち筋につながる道筋なんだ。
実際、できるのかも未知数だった魂の融合もできた。小笠原久光は魂の融合はできると読んでいたんだ。俺は道鏡に打ち勝つためにここに来た。そのためには手に入れた義経の力とこの刀を扱えるようにならないといけない。頼むよ、紫。協力してくれ」
紫は苦悩の表情で俺を見た。
「主は……夢魂の儀の最中の記憶を……夢の記憶も、深層での記憶も、何一つ覚えていないのですか?」
「ああ、そうなんだ。紫は覚えているというのにな」
紫はため息をついた。
「……分かりました。無茶はしないと約束してくれますか?」
「もちろんだ」
紫は頷き、その瞬間に顔つきが変わった。
「時間はありません。紫は心を鬼にして、主に刀の扱いを教えます」
◇
心を鬼にした紫は……本当に容赦なかった。
容赦なかったが、限られた時間の中で、最低限の知っておくべきことは漏れなく教えてくれたと思う。
「主様、これから戦闘というのに、お疲れのようですが、大丈夫ですか⁉」
姫天皇が心配してくれたが、俺は気合十分だった。
莉子先輩は歌詠みを集め、作戦会議を行い、合図などを決めた。
「先鋒と思しき、少将以下の呪魂、その数おおよそ一万、こちらへ向かってきています」
和泉の報告に、本陣に集まっていた歌詠みが一斉に言霊使いに指示を出した。
俺も指示を出した。
「紫は第一防衛線の姫天皇がいる場所に向かってくれ。そして攻撃ではなく、祓いで対処してくれ。少将以下に大技を使う必要はない。業平は第二防衛線から中将クラスがきたら、弓での攻撃を頼む。回復は近くにいる言霊使いに頼むようにしてくれ。小町は俺と一緒に祓いを行う」
紫と業平は頷くと、早速防衛線に向かった。
先ほど刀について紫から学んだことで、もう前線に向かう紫に対して、女の子を前線に送り込むなんて……という気持ちにはならなかった。
紫は間違いなく一人の武士として戦う術を心得ている。
まかせて問題ない。
そう思えるようになっていた。
「いよいよ始まるねぇ。こういう時のためにさ、用意していたんだよ。納言パパ、お願い」
莉子先輩が言うと、納言パパはどこからか調達したのか、法螺貝を手にしていた。
「では」
そう言うと、法螺貝を吹き鳴らした。
想像以上によく通る音に驚き、だがそれは皆に聞こえたようで、一斉に「おー、おー」という掛け声が起きた。
……すごい。まるで戦国時代にいるみたいだ。
「主様」
小町が俺を見た。
前方から、一万の呪魂の軍勢が迫っていた。
俺は頷くと
「小町、祓詞を」
俺は歌詠みの印に力を込めた。
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次回、本格的な戦闘が開始されますが……
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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