断片的な様々な夢
のどかな景色が広がっていた。
手元に沢山の色紙がある。
硯と墨も用意されている。
これは自分の手か?
筆を手にして、墨をつけて……。
燃えている。
炎が夜の闇に広がっている。
火の粉がこちらに飛んでくる。
止められなかった。
防げなかった。
何を――?
絶対にここでこの人を死なせてはならない。
なんとしても守り抜く。
だが手強い。
この大将クラスの呪魂はこの人物自身を呪っている……。
道鏡の呪いだけではなく、この人物に恨みを持っているんだ。
誰なんだ。
顔を隠しているから分からない。
でも誰だっていい。
これからの日本にこの人は必要なのだから。
必ず、守り抜く。
穏やかな時間が流れていた。
こうやって膝枕をされ、目を閉じてゆっくり過ごす時間は至福のひと時だ。
このまま何事も起こらず、穏やかに過ごせたら。
ほんの束の間でもこうやって
愛する人と静かな時間を……。
◇
「こちらに大将クラスの呪魂が迫っていると聞いたが」
吐く息が白い。寒さが身に染みる。
「はい。主様とここまで追ってきたのですが、突然姿が消えました。主様は先へ向かい、私はこの辺りをもう一度捜索するよう言われていました」
「この辺りで道鏡が狙いそうな人物は?」
「はい。今は時代が時代。誰が狙われてもおかしくない状況……」
「そうか。この辺りのめぼしい建物は」
「そこが池田屋でこの先に土佐藩邸が」
池田屋……三年ほど前に血生臭い事件があった旅籠……。
その時、強い覇気から起こる振動を感じた。
「防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ」
俺は防御結界を展開した。
……!
まさか、結界が破壊された⁉
俺たちは数メートル吹き飛ばされた。
「大丈夫か、和泉」
「はい。空の守護神の結界がこうも簡単に破壊されるとは……」
「木屋町通の方だな」
「そのようです。我々とは別の歌詠みと言霊使いが戦闘を行ったのかと」
「だが感知している大将クラスの呪魂は一体」
「そうですね。我々が追っていた呪魂を追っていた歌詠みが、他にもいたということですね」
「では俺が木屋町通へ向かう。和泉は主と合流し、このことを伝えるといい」
「はい」
和泉が走り出すと俺はすぐに業平を呼び出した。
「業平、先に現場へ向かえってもらえるか」
「了解です、主様」
俺は木屋町通りへ向け走り出した。
◇
通りに着く手前で緊迫した業平の声が俺の脳に届いた。
――主様、歌詠みが……倒されていました。
「なに⁉」
――わたくしが到着した時には既に息はなく……。
俺はさらに足を速め、そして通りについた。
「……!」
通りに男性が倒れていた。
そばに跪く業平の姿が見えた。
「姫天皇」
俺の呼びかけにすぐに姫天皇が男性のそばに駆け寄った。
「ダメです。これは覇気で魂と肉体が切り離されています。回復も治癒も効果ありません……」
俺は男性の顔を見た。
男性……いや、まだ若い。少年じゃないか……。
胸がつまった。
「主様、黒狐が来ました」
姫天皇の声に俺は顔を上げた。
黒狐はジャンプして俺のそばに降り立つと、少年の匂いを嗅ぎ、その場に座った。
そして瞳を閉じた。
涙が少年の顔にしずくとなってこぼれ落ちた。
すると少年の体は白く輝き、やがて見えなくなった。
黒狐は悲しそうな瞳を俺たちに向けると、ジャンプしてそのまま消えた。
俺は大きなため息をついた。
すると、紫が現れ
「防御結界、展開。四神の守り、東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武、召喚!」
さっきより強力な覇気による振動が起きた。
四神の守りでもこの振動⁉
「防御結界、展開。五行相生、東に木神、南に火神、中央に土神、西に金神、北に水神、召喚」
四神の守りが破壊される寸前で紫が新たに結界を展開した。
五行相生の結界でもこんなに押されるのか。
ようやく、振動が落ち着いた。
「紫、ありがとう」
「いえ、それより、この覇気、ただならぬ強さです。戦闘が始まっているようです」
またもや強い振動が起きた。
紫が結界を多重に展開した。
「戦闘が激化しているんだ。早く向かわないと」
だが、少し進むだけですぐに覇気が放たれ、なかなか前へ進めなかった。
「姫天皇、紫を回復してやってくれ」
「はい」
繰り出される覇気があまりにも強く、多重結界を展開しても二度耐えれば破壊される。
そしてそれが何度も続いていた。
俺たちがこの状態ということは、今戦闘を続けている弓削も相当苦戦を強いられているはずだ。だがさっき倒された少年の歌詠みと違い、弓削は熟練の歌詠みだ。善戦していることは間違いない。
ようやく河原町通へ戻って来られた。
……!
な、なんて……
「主」
紫が俺の前に立ち防御結界を展開した。
すぐに覇気からの振動が到達した。
紫はすぐに次の防御結界を展開した。
「来ます」
振動が結界を破壊した。
大将クラスの呪魂と聞いていた。
だが、その顔は、姿はさっきの歌詠みと変わらない。
そしてそれは一目見て分かった。
牛若丸――義経だ。
「業平、弓削の、清納とタイミングをとりながら、攻撃をしかけろ」
「はい、主様」
清納が火縄銃を放った。
業平が弓を引いた。
義経は弾丸を避け、矢を刀で払った。
と思った次の瞬間、義経が目の前に迫っていた。
業平が刀を手に前に出た。
速い。義経の動きは驚くほど速い。
清納がこちらに向かいながら、八方手裏剣を投げた。
義経は背面飛びで手裏剣を避け、屋根に着地した。
なんて身軽なんだ。
業平が弓を放ち、清納が焙烙玉を投げた。
弓削と和泉が祓詞を口にした。
俺もそれにあわせ歌詠みの印に集中し
「諸々の禍事 罪 穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと……」
祓詞を口にした。
義経が両手に刀を持ち、同時に覇気を放った。
紫が防御結界を展開した。
振動が来る、と思ったその時。
義経が屋根からジャンプし、覇気と共に刀を、伊勢が展開する防御結界に突き刺した。
伊勢は多重結界を展開しているはずだった。
だが、それは一瞬で破壊され、伊勢と弓削は吹き飛んだ。
俺たちの結界には覇気がぶつかり、振動が起きた。
その時、和泉は義経の背後から十手を振り下ろした。
その瞬間に和泉の姿が消えた。
まさか。
伊勢、清納の姿が消えた。
弓削に寄り添い回復をしていただろう蜻蛉の姿も消えた。
さらに突風が起きた。
和泉が振り下ろした十手により、義経の呪いは祓われていた。
だが。
義経は止まらなかった。
目から血の涙を流し、こちらへ向かってきた。
「業平、義経を討て!」
俺の叫びに業平が刀を手に飛び上がった。
紫が防御結界を展開した。
俺は紫にあわせ、防御結界を展開した。
姫天皇が俺と紫に回復を行った。
業平が振り下ろした渾身の一撃は義経の体を貫いた。
義経は血を吐きながら、覇気を放ち、刀を結界に突き立てた。
業平の一撃で義経の魂は破壊された。
その姿はガラスのように砕けた。
だが、義経の放った刀は結界を突き抜け、紫の体を貫いていた。
紫の背中から切先が見えた。
紫の魂の核が破壊されてしまう……!
「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲かくれにし 夜半の月かな」
戦闘時の不測の事態において、歌詠みが言霊使いを唯一救う方法があった。
それは魂の核が砕かれる前に、強制的に札へ還す。
紫の姿が消えた瞬間、防御結界も完全に消えた。
俺の展開した防御結界も破壊され、覇気が俺を直撃した。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
道教の野望を阻止するために様々な時代を生きた湊の記憶。
守りきった未来、守れなかった未来。そして……。
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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