まさかのスペシャルゲスト
翌日。
昨日同様結界が展開され、そこで「祓い」の技を、チームで競うことになった。
莉子先輩が移動結界で穢れをこの場に移動させ、五分間の間に何体祓うことができるか競う、というものだった。
今回チーム対抗という形になったのは、俺のチームには祓いのステータスの言霊使いがいなかったからだ。
「湊は神器がないが、神器に値する言霊使いがいるからハンデはなしだけどいいかい?」
俺はチームのみんなを見た。
みんな、大丈夫と頷いた。
「では今日はスペシャルゲストを紹介する」
莉子先輩の言葉に後ろを振り向くと、そこにいたのは、小笠原久光だった。
前回同様、フードを目深にかぶり、一歩後ろにSPの岡田さんを引き連れていた。
多忙を極める小笠原久光にまた会えるとは思わず、皆が驚いた顔をしていた。
特に前回、蒼空は小笠原久光に会うことがなかったので、とてもビックリしているようだった。
すでに以前の現出時に起きた出来事を話していたので、紫は小笠原久光の名前は知っていた。だが想像していた姿とは違っていたようで、じっと小笠原久光のことを見つめていた。
「莉子、三十分だけだからな。全く、ぼくのことをなんだと思っているんだ」
「でも歌詠みの実力を見たかったのだろう?」
「見たい、とは言ったが、祓った数を数えたい、とは言ってないぞ」
「まあ、そんなの数えられるの、世界広しと言えど、君ぐらいしかいないしね。それに数えないことには実力を計れないだろう?」
まさか各チームが何体祓ったかカウンターさせるために小笠原久光を呼んだのか⁉
莉子先輩、いつの間にそんなことを依頼できる関係になったんだ、小笠原久光と⁉
「チッ。相変わらず、莉子、お前は口だけは達者だな」
「わたしは歌詠みだからな。それに大蛇を調伏することはできたんだろう?」
その言葉に小笠原久光の目が光った。
「ああ。まさか神代を生きたアイツに出会えるとは思わなかった。てっきり黄泉の国で隠居生活を送っていると思っていたからな」
莉子先輩は大蛇……恐らく八岐大蛇の居所の情報と引き換えに、ここに小笠原久光を呼んだのか⁉
「それは良かった。では喜んで協力してくれるな」
「さっさとはじめろ。ぼくの時間は貴重なんだ」
小笠原久光の言葉に莉子先輩は頷き
「よし、じゃあ順番を決めようか」
くじ引きの結果、蒼空チーム、莉子先輩チーム、そして俺のチームの順番で祓いを行うことになった。
「では蒼空チーム、配置について」
莉子先輩の言葉に蒼空は頷き、配置についた。
「以前の喫茶店と違い、この草原は広い。今日は沢山呼ぶよ。言っておくけど、神器で一掃できるレベルじゃないからね」
莉子先輩はそう言うと結界を展開した。
「人避け結界、展開。半径二十キロ圏内、有機体を回避。レベル7。完成まで五、四、三、二、一」
「移動結界、展開。半径二十キロ圏内。異分子有機体、移動。完了まで五、四、三、二、一」
俺は歌詠みの印に神経を集中させた。
……!
な、なんて数なんだ……。
「岡田、31024体で、合っているか?」
「はい。その通りです。メモを取っておきます」
少し離れた場所で小笠原久光が当たり前のように数字を並べていた。
今、ここにいる穢れの数を瞬時に数えたのか⁉
そんなこと、できるのか⁉
というか、岡田さんもカウントしていたのか⁉ ただのSPじゃないのか⁉
俺が驚愕している間にも蒼空たちの祓いが始まっていた。
蒼空は清納を先頭に、穢れに憑かれた人々の中へ切り込んでいった。
そしてしばらく進むと、そこで伊勢が防御結界を展開した。
「神器を使うつもりか。ぼくがくれてやったクロスボウ、どれだけのものか、見せてもらおう」
小笠原久光が独り言のように呟いた。
俺は目を凝らして、蒼空を見た。
蒼空が手にしているクロスボウはメタリックでまるで銃のようだった。
矢をセットすると、左手で構えた。
歌詠みの印が若竹色に輝いた。
矢が放たれた。
と同時に歌詠みの印からも若竹色の光が放たれ、矢と融合した。
すると矢が速度を増し、三メートルほどの大きさになり、周囲に若竹色の光が広がった。
光を浴びた穢れは次々と祓われた。
蒼空は二本目の矢を別の方向に向けて放った。
「一回で524体か。まあまあかな」
小笠原久光が腕組みをした。
……一回で524体も祓って、まあまあなのか⁉
蒼空は三本目の矢を放つと、クロスボウを持つ左腕をおろした。
莉子先輩は神器を使うと歌詠みの力を多く使うと言っていた。
今の三本を放つことで、相当な力を使ったのだろう。
蜻蛉が蒼空に回復を行っていた。
一方、言霊使い達は、神器で祓われなかった穢れを祓いつつ、蒼空が神器の使用を終えたので、広範囲一掃型の祓いを始めた。
清納はいきなり、捕火方で火炎を放射した。
俺は驚いて隣の紫に尋ねた。
「あ、あれ、大丈夫なのか⁉」
「はい。あれは清納の言霊の力……祓いの力を炎の形に変えただけで、穢れには作用しますが、人間に影響はありません」
一方の伊勢は結界を使った祓いを行っていた。
「始めてみる祓いの方法だ。結界でも穢れを祓えるのか」
紫は俺の言葉に頷いた。
「あれは口寄せの結界と言って、穢れはあの結界から放たれる声に引き寄せられてしまうんです。引き寄せられ、結界に触れた瞬間に祓われます」
「すごい。便利な結界だな」
「はい。ただ、展開にはとても力を使います。だから蜻蛉がそばで回復を行っているのです」
「なるほど」
ステータスが祓いの和泉は、防御結界を展開し、そこで言霊の力で周囲にいる穢れを一斉に祓っていた。
「和泉はステータスが祓いなので、言霊の力がとても強力です。祓詞だけで祓いを行うことができます。
主も祓詞で穢れを祓うと思いますが、その際は歌詠みの力も同時に使いますよね。でも和泉の場合は祓詞だけで穢れを祓うことができるのです。
我々は言霊使いなので、言霊の力で穢れを祓う、これが本来の姿。それ以外はすべて、戦闘を通じ、派生したもの。必要に応じて身につけることになったスキルなのです」
紫がそう言った時、蒼空が再度、神器を使った。
そして莉子先輩が五分の持ち時間が終了したことを告げた。
「6517」
小笠原久光がぶっきらぼうに莉子先輩に告げた。
俺からしたら五分間でこれだけの数を祓えたなんてもう驚きだが、小笠原久光は不満げだ。
だが。
こちらへ戻ってきた蒼空に対しては……。
「あの神器は連射式にすべきだ。黒狐に言えば改良してもらえるはず。今のではロスタイムが大きい。あと撃つ時は回復をしながらにしろ。そうすれば神器だけで4000は祓える」
小笠原久光の言葉に蒼空は笑顔で頷いた。
「さあてわたしの番だ」
莉子先輩が舌なめずりした。
「とっておきのショータイムを見せてあげよう」
そう言うと、莉子先輩は配置についた。
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