見てはいけないもの
俺たちは紫の元に駆け寄った。
小町と姫天皇は感動で涙を流していた。
「お見事でした。紫。あなたは猿丸の動きをずっと目で追い、その時を待っていたのですね?」
業平の言葉に紫は頷いた。
「三霊獣が円陣に沈んだ瞬間、猿丸は残るは白虎のみ、と思い、白虎は確かに前へ出た。そして猿丸が打撃を放った瞬間、あなたは一度四神の守りの結界そのものを解除した。白虎に向け放たれた猿丸の一撃は、多重展開していた防御結界で受け、その結界は破壊された。
が、同時に結界が消えたその刹那に太刀の柄で猿丸に覇気を放った。そして再度四神の守りを展開し、白虎を猿丸に向かわせた。後は見ての通り。
白虎が結界を破壊し、あなたの四度目の大技で猿丸は大地に沈んだ……。猿丸の動きを読み、何度も頭の中でシュミレーションした動き、それを寸分の狂いなくやってのけた。素晴らしいです、紫」
そうだったのか……!
今、業平が指摘するまで、結界を多重展開していたなんて、気づかなかった。
猿丸の打撃を受け、白虎は消えたと思っていた。
吹き飛ばされる猿丸を追うように白虎が現れた時は、まるで手品を見ているようだった。
まさか一度結界を解除し、再度展開していたとは……。
紫は本当に強かった。
◇
ホテルに戻ると、俺と蒼空と莉子先輩はレストランで食事となった。
言霊使い達は自由時間となり、それぞれどこかへ消えていった。
「いやあ、この合宿、やって正解だったね。実に楽しい時間を過ごすことができているよ」
莉子先輩はご機嫌で、そして白ワインを飲んでいた。
三日前に誕生日を迎え、莉子先輩は二十歳になっていた。
「猿丸は大丈夫なんですか?」
蒼空がメインディッシュのステーキを頬張りながら尋ねた。
「ああ、大丈夫だ。回復したよ。うちには右近と菅家がいるからね。美男美女にたっぷり力を注がれて、猿丸はビンビンだよ」
「師匠、相変わらず言葉遣いが卑猥ですね」
「思春期の少年には刺激が強いかな?」
「いえ、その程度ではもう動じなくなりました」
「それは残念。わたしももう少し勉強しないとな」
「ええ、ぜひそうしてください」
蒼空がニッコリ笑った。
今日は蒼空が一枚上手だった。
◇
食事を終え、俺は部屋に戻った。
部屋の明かりはついていた。
あれ? 誰かいるのか。
俺は部屋に入り、持っていたカードキーを床に落とした。
どう、反応していいか分からなかった。
だって……。
ベッドで……。
横向きになった裸の紫を、裸の姫天皇が後ろから抱きしめていたのだ。
これはどういう状況なんだ……?
いや、落ち着け。
二人は薄いシーツのような布を体にかけている。
今みえているのは肩と背中の一部だ。
裸ではないのかもしれない。
……。
だが薄い布が描くシルエットに服を着ている様子はない。
どうしよう、見なかったことにして部屋を出るか。
そうだ、これは見てはいけないものだったんだ。
俺がまさに踵を返そうとした瞬間
「主様⁉」
姫天皇の声がした。
俺はギクッとして固まった。
振り返ることは憚られた。
「紫、主様が戻ってきたので服を」
「え‼」
紫の動揺する様子が伝わってくる。
しばらく二人の衣擦れの音がして、そして……。
「大丈夫ですよ、主様」
姫天皇の言葉に俺は恐る恐る振り返った。
きちんと服を着た二人がいた。
紫は頬を赤らめていたが、姫天皇の顔に変化はない。
「えっと……」
俺の言葉に姫天皇が答えた。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
お酒が解禁された莉子先輩。きっと酒豪になりそう⁉
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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