激闘
「では両者位置について」
莉子先輩の言葉に、紫と猿丸が対峙した。
紫は猿丸との勝負は距離だと言っていた。
「始め――」
猿丸は素手だから必ずや近接戦に持ち込もうとする。
だから距離をとることが重要だと――。
……!
速い。
始めの合図と同時に猿丸は猛スピードで紫に向かって走り出した。
土埃が舞い、まるで猛進する猪のようだった。
紫は後ろへとジャンプしながら、いきなり大技の一撃を放った。
菅家が俺たちを覇気の振動から守るため、防御結界を展開した。
猿丸はまるで急ブレーキをかけたかのように止まり、土煙を立てながら防御結界を展開した。
だが紫の一撃は防御結界を破壊し……。
いない、猿丸は⁉
……!
防御結界を展開し、ジャンプして遥か後ろへ後退していた。
猿丸は後退したその場所でも防御結界を展開していた。
だが紫の強烈な覇気はその結界をも破壊し、猿丸を直撃、猿丸は吹き飛ばされた。
俺たちのところにも振動が起こり、覇気が直撃していた。
猿丸は⁉
地面に倒れていたが、すぐに起き上がった。
何事もなかったように。
「二回の防御結界を通過させることで、覇気の衝撃を抑えたのですね」
業平が横でため息をついた。
なるほど。
猿丸といえば、とにかく攻撃に特化していると思った。
だが防御結界も瞬時に展開できるし、二つの結界で覇気の衝撃を緩和している。
一見力任せに見えるが、それは違う。ちゃんと考えながら動く、戦略家だった。
「覇気の衝撃を和らげたとはいえ、紫のさっきの一撃は相応なダメージを与えたはずです。今なら距離もある。畳みかけるなら今です」
業平の言葉通り、紫は再びあの大技を放った。
「防御結界、展開。鉄壁の守り、石神」
猿丸が展開した結界、あれは小町がやっていた結界だ。
あの時、確かに清納の攻撃を防いでいたが、紫のあの覇気を防ぎきれるのか⁉
さっきの一撃より、猿丸と紫の間には距離があった。
だから石板に覇気が到達するのに少し時間がかかった。
だが。
来る――。
先に俺たちの結界の方に覇気が到達し、振動が起きた。
そして、石板に覇気が……。
凄まじい光景だった。
覇気が当たった石板の真ん中が、まるで板チョコをパキッと割ったように、真っ二つになり、崩れかけた石板にさらに覇気が当たり砕けた。それが四方に展開された石板でほぼ同時に起きた。
猿丸はあの石板の中……なのか⁉
業平が指さした。
「主様、上です」
「上⁉」
猿丸はなんと石板の天辺にいて、覇気が当たる瞬間にさらにそこからジャンプしていた。
そして、そのまま前方に大きく飛び、紫へ向かっていった。
なんてジャンプ力、そしてスピード。
さっきまでの間合いが半分以上に詰められた。
だが紫は三度目となる覇気を既に放っていた。
猿丸は着地するとまたもや鉄壁の守りを展開し、石板の天辺にのぼり……。
石板に覇気があたり、崩れ、そして猿丸はジャンプし……。
紫がまさに四度目となる覇気を放とうとしたまさにその時、猿丸が間合いに入った。
紫は太刀をおろすとすぐに防御結界を展開した。
猿丸の素手による覇気の攻撃が始まった。
紫が展開した防御結界は四神の守り。
猿丸は素手で青龍の相手をしていた。
しかも笑っている……。
まるで強い者と戦うことを楽しんでいるかのように。
青龍の援護に朱雀と玄武が加わった。
だが猿丸はひるむことなく、その三霊獣を相手に素手で戦っていた。
一方の紫は、防御結界の中で猿丸の戦闘の様子を真剣な面持ちで見ていた。
「これはどうなるんだ……」
俺の呟きに業平が答えた。
「恐らく、結界は破壊されます。猿丸のあの攻撃、紫も気づいていると思いますが、三霊獣の決まった場所に執拗に繰り返し打撃を与えています。三霊獣が落ちるのは時間の問題……」
「そうなると残りは白虎。白虎が破られたら?」
「猿丸は間違いなく一撃必殺で紫を倒そうとするでしょう。もし紫がそれを避け、逃げきれても、間合いが狭い状態では紫が圧倒的に不利です」
……。
紫……。
今、どんな思いで猿丸の戦闘を見ているんだ?
業平のように分析できているなら、勝ち目がないと気付いているはずだ。
ここからでも猿丸が三霊獣に放っている打撃の一撃一撃が重く、強力であることは分かる。
あの打撃を紫が受けるのか……?
「……業平、リタイアしようと思う」
「え……」
「お前の言う通りだ。白虎がやられたら猿丸は必ず紫に一撃必殺を仕掛ける。俺は……紫が傷つく姿を見たくない」
「主様……」
業平はしばし紫の姿を見つめ
「主様は、紫が諦めていると思いますか?」
「え……」
「紫の目を見てください」
俺は紫の目を見た。
鋭く澄んだ瞳は、真剣に猿丸の動きを追っている。
「あの目が戦いを諦めた目に見えますか?」
紫はまだ諦めていないのか……?
その時、三霊獣が一斉に円陣に沈んだ。
素早く白虎が前に出た。
猿丸が打撃を白虎に放ったその瞬間。
白虎が消え、紫が前に出て、太刀の柄で猿丸のみぞおちに一撃を加えた。
まさに不意打ちで猿丸は吹き飛んだ。
そこから紫は四度目となる大技を放った。
さらにその大技と同時に白虎が駆け出した。
猿丸は咄嗟に防御結界を展開したが、白虎がその結界を食いちぎった。
猿丸に紫の凄まじい覇気が直撃した。
猿丸が吹き飛んだ。
俺たちのところにも振動が伝わってきた。
とんでもなく遠くに吹き飛ばされた猿丸は地面にぶつかり、地面は陥没した。
覇気による振動ではなく、猿丸が地面に当たった衝撃で、大地が揺れた。
激しく土煙が舞った。
「……これは驚きだ。猿丸が地面に沈むのを初めて見たよ」
流石の莉子先輩もその一言しか出ないようだった。
だが、猿丸は陥没した穴から立ち上がっていた。
まだ、戦えるのか⁉
「リタイアしよう」
その言葉に驚き、俺は莉子先輩を見た。
「回復すればまだ戦えるだろう。だが、今の一撃は魂の核こそ傷つけていないが、確かに核まで届いていた。だからこれは引き際だ。リタイアする」
莉子先輩はそう言うと
「右近」
「はい。主様」
右近が猿丸の方へ向かった。
「ではわたくしも少しばかり手伝いましょうか」
菅家が莉子先輩を見た。
莉子先輩は頷き、高らかに宣言した。
「この勝負、湊チーム、紫の勝利」
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今日は2話公開です。引き続きお楽しみください!




