最強の紫、そして弱点?
「いやあ、いいものを見せてもらったよ、紫。敵を欺くためには味方から、だったのだな。まあ、おかしいとは思ったよ。清納はもちろん強いが、紫も強いはずだ。その紫が焙烙玉と鉄菱程度の武器で押されるなんて、おかしいってね。
でも待っていたんだな。清納が勝利を確信し、気を緩め、驕る瞬間を待っていた。そして温存していた力を一気に放った。恐らく、一度目の回復、あの時、紫、君は回復なんて必要ない状態だった。
だが、わざと呼吸を乱し、回復を受けた。力はほんの少ししか減っていない。そこに新たに力が補給された。
そして二度目の回復。あの時は確かに怪我はしていた。でもそれは紫からしたらかすり傷みたいなものだ。傷も治癒し、さらに回復により、力の補給を受けた。もう万全どころじゃない。力は満タン以上だ。
だがすぐには仕掛けない。元々近距離戦で倒すつもりはなかった。ただ清納を疲れさせるために近距離戦に持ち込もうとしていると見せかけた。清納はすっかりそれに騙され、距離をとった。
その時点で、清納の頭に、あの距離から、あんな一撃を放つなんて想定できていなかったはずだ。紫が太刀を構えた時点でも、このまま突っ込んでくる、最後の最後で捨て身の攻撃?と思っていたはずだ。そして気づいた時はもう遅かった。
清納は二度目の回復をしていないから、スタミナ切れに近く、瞬時に動けなかった。防御結界も、強固な結界を選び、展開する余裕はなかった。
そこへあの彗星のような一撃が放たれた。……紫、君は策士だ。とてもそそるよ。君がわたしのチームだったら無双のチームになれたのにな」
莉子先輩が目を細めた。
結局。
回復は三回までとなっていたが、清納は蜻蛉だけでは回復できず、右近や姫天皇の手も借りたため、その時点でリタイアとなった。
そして紫は次の猿丸との一戦に備え、三十分の休憩中だった。
そこに莉子先輩がやってきて、紫がさっきどんな戦い方をしたのか、解説してくれた。
ちなみに清納は
「あんなの絶対反則! 人を欺くなんて最低~」
すっかり回復して元気になり、負けたことをかなり悔しがっていた。
「さて。それでは私は猿丸と作戦会議でもしておこう。紫がどんな戦い方をするかは学ばせてもらったからね」
莉子先輩はそう言って去りかけたが、立ち止まって菅家を見た。
「そうだ、菅家。丁度時間もあるし、少しレクチャーでもしてやっては?」
「ええ、分かりました、主。では小町、こちらへ」
小町は嬉しそうに頷き、菅家の方へ歩いて行った。
そうか。菅家に防御結界の展開について教えてもらうのか。
「姫天皇、今、ちょっといい~?」
和泉がそう言いながらこちらへ歩いてくると、俺に声をかけた。
「蒼空が、さっき回復を手伝ってくれたので、姫天皇に御礼を伝えたいんだって。ちょっと連れていくねー」
俺は頷いた。
……あれ?
さっきまで業平はいたはずなのに、いない……。
そして気づいてしまった。
今、俺は紫と二人きりだった。
こ、これは例の件を謝罪する絶好のチャンスでは⁉
時が経てば経つほど、謝るのが億劫になるはずだ。
俺は意を決して紫に声をかけた。
「紫、今は休憩中だが、横になったりしなくて大丈夫か?」
「はい。姫天皇に回復してもらっているので、本当は休憩時間も必要ないぐらいです。でも莉子は連戦になるので気を使ってくれたのでしょうね」
「そうか……。なあ、紫」
「はい、主。何でしょうか?」
「……その模擬挙式の件だけど」
俺がその言葉を口にした瞬間、紫の戦闘モードが解除された。
なぜなら、分かりやすく耳から顔から首まで真っ赤になったからだ。
紫のその状態を見たら、俺はしどろもどろになってしまった。
「あ、あれ、その、ほら……」
「主、本当に申し訳ありませんでした」
「……えっ?」
「まさか、新郎役が主に変わったとは知らず、どうしたものかと迷ったのですが……莉子からは、ちゃんと最後までやり遂げることが顧客の心を掴むからと説得されていたので、その……」
やっぱり! 莉子先輩は、業平から俺に変わったことを紫に伝えていなかったんだ……。
「いや、その、そうだよな。せっかく模擬挙式をやるなら、イケメンの方がよかったよな。ごめんな、業平じゃなくて俺になってしまって。でも見学者のカップルの男性から、業平はイケメン過ぎるってNGが出ちゃったらしいんだ」
「……え、あ、そうなのですね……。……主こそ、その紫と模擬挙式を演じることになり申し訳ないと……」
「え、そんなことないよ。紫との模擬挙式を嫌がる男がこの世にいると思うか⁉」
「……」
「それで……その、俺も舞い上がっていて、それで、あと、ほら、慣れてないし、目をつむっていたからそれで……」
「……、も、もしや、それは……」
紫が自分の口を手で押さえた。
「そ、そう、それ……。ホント、ごめんな、紫。わざとじゃないんだ。その……距離感が……」
「……やはり主もその件が気になっていたのですね。紫もそうです」
あー、やっぱり。
ごめんなさいーーーー。
「だから最初から模擬挙式はやりたくなかったのです……」
撃沈だ。
「でも莉子と主に説得され、ちゃんとやらねばと」
紫が涙目で俺を見た。
泣くほど俺とのキスは嫌だったわけか……。
「ですので本当にその節は主に嫌な思いをさせてしまい、申し訳なく思っています」
……え⁉
「本当に申し訳ありませんでした」
なぜ紫が謝っている……⁉
「いや、紫、それは俺の台詞だ。俺こそ、フリでいいと言われていたのに、距離感を間違えて、本当に、その……キスしてしまったことを申し訳なく思っている。ごめん……」
「え……」
「本当にごめん。申し訳ありません」
もう土下座していた。
「いえ、主……」
そう言うと紫は固まった。
紫は無言だ。
俺は顔を上げることができなかった。
しばし時が流れ……。
「主、紫は模擬挙式であろうと、誓いのキスはちゃんとしなければならないと思っていました」
……!
俺は驚いて顔を上げた。
「莉子にも確認しました。どうしても誓いのキスはしないとダメなのかと。莉子は……『ちゃんと最後までやり遂げることが顧客の心を掴む』と言いました」
まさか……。
「だから紫は……」
もしかして
「主に口づけしました……」
……!
そ、そうだったのか。
あれは紫が……。
「莉子は紫を騙したのですね……」
紫が悔しそうな顔をした。
いや、違う。多分、莉子先輩は面白がっていただけだ……。
恐らく、相手が業平のままだったら……。
直前に、ウェディングキスの件は冗談で、フリで大丈夫と言うつもりだった……と思う。
だけど俺に交代したから……。
そして俺が紫に好意を寄せていると莉子先輩は知っていたから……。
「紫」
俺は紫の手を掴んだ。
紫の薬指の指輪が俺の指に触れた。
「俺は……紫とキスをしたこと、後悔してない。むしろ、嬉しかった。逆に、俺は心配していた。紫は俺とキスしたことを嫌がっているんじゃないかと。怒っていると思った。だから謝らなきゃいけないと思っていた」
俺は紫の目を見た。
紫は驚いた顔で俺を見ている。
「紫、俺は――」
「主様~、そろそろ時間ですよーー」
姫天皇の声が聞こえてきた。
まさかの時間切れ……。無念。
いや、これから猿丸との戦闘がある紫に余計なことを言わないで済んで、むしろ良かったのかもしれない。
「紫、ごめん。続きはまたの機会で。今は猿丸との戦闘に集中しよう。猿丸は強いから」
俺の言葉に紫は微笑んで頷いた。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最強の紫の弱点、それは真面目過ぎるところ⁉
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