ヤバイ、絶対怒っている……
現実に戻ったのは更衣室で着替えをしてからだった。
冷静に考えると、フリのはずがキスをしてしまったんだ。
あの場はお祝いムードもあり、紫は俺に対して怒ることはなかった……。
だが……。
どう考えても、怒っている可能性は……限りなく高い気がした。
紫は真面目だし、やっぱりキスは、ちゃんと交際している相手としかしない気がする……。
紫が俺のベッドに寝ていた時があったが、あれは後から部屋に戻った小町と姫天皇が紫にベッドで休むことを勧めたからだった。霊体化し、寝ずの番をしていたと知った二人が、紫の労をねぎらってしたことで、紫の意志ではなかった。
それにあの時の一件以降、紫は巡回から戻ると霊体化して俺のベッドには決して近づかなかった。なんというか、やっぱり紫は清純なイメージだった。
これは絶対にちゃんと謝罪しないといけない。
俺はそう固く決意し、着ていたタキシードの返却手続きをした。
するとそこへ莉子先輩がやってきた。
「み~な~と、お手柄だ。おかげで契約がとれたぞ」
莉子先輩はそう言うと俺を抱きしめた。
「あ、莉子先輩、これ」
俺は指輪をポケットから取り出した。
「あー、それ。いいよ、あげる」
「え」
「模擬挙式に協力してくれたお駄賃」
「え、でも指輪とかって高いですよね⁉」
「大丈夫、これ模擬挙式の練習用のやつだから。紫にもそのままつけていていいよ、あげるから、って言ったら喜んでいたよ」
「そうなんですね……」
まあ、女子はアクセサリーが好きというもんな。
「ところで湊、右近から聞いたよ」
莉子先輩が俺の耳元で囁いた。
……まさか……。
「遠慮しすぎてライトキスだったらしいなー。まるでキス未遂と右近は言っていたが……、やるじゃないか、湊!」
俺は一気に耳まで真っ赤になった。
「安心しろ~、湊。せっかく手に入れたお前の弱みだ。誰にも話さないから」
莉子先輩はそう言うとどこかへ行ってしまった。
大変な弱みを握られてしまった……。
しかし、いい言葉をもらえた。
キス未遂。
そうだ、あれはほんの一瞬のことだったし、目を閉じていたから、うっかり当たってしまったんだ。
よしこの線で紫と二人きりで話すチャンスを見つけて謝ろう。
俺は指輪をポケットに戻し、更衣室を出た。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
湊とのキス未遂。
紫はどう思っているのか……。
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