天国と地獄
あああ……。
なんて、神々しい美しさなんだ……。
純白のドレスがこれほど似合う女性がこの世に他にいるだろうか?
ティアードが何段も重ねられたドレスは動く度に可憐に揺れ、優雅だった。
大きく開いた胸元も、普段の紫では絶対に見られない姿でとてもドキドキした。
髪はアップにまとめられ、綺麗な鎖骨とうなじに、さらに胸が高鳴った。
伏し目がちな様子は初々しさにつながり、思わず駆け寄って抱きしめたくなった。
もし俺がただのゲストとして席についていたら、猿丸が新婦の父親役であることに噴き出していただろうが、今はそれどころではなかった。
もう紫に夢中、という状態だった。
見学者も、参列する蒼空や言霊使い達も、紫の美しさに魅了されたようで、惜しみない拍手を送っていた。
祭壇に近づき、伏し目がちだった紫がようやく顔を上げた。
そして俺と目があった瞬間、明らかに驚いた顔に変わった。
……え、もしかして業平から俺に変わったって、聞いてない……のか?
紫の目が泳いでいた。
賛美歌が流れた。
も、もしかして、俺が新郎役と知り、ショックを受けている⁉
……いや、それは無理ないよな。だってあの業平から俺への変更だ。
例え模擬挙式であろうと、せっかく演じるならやっぱりイケメンとかがいいよな。
紫は必死で動揺を抑えているようだった。
静かに目を閉じ、何度も深呼吸していた。
牧師が聖書を読み始めた。
あ~、さっきまでの高揚感が一気に沈んだ。
でもまあ、おかげで緊張しないからいいっか。
牧師の話が終わり、誓約となった。
お決まりのフレーズを聞き流し、俺は「イエス」と答えた。
その瞬間、紫がかすかに体を震わせた気がした。
チラッと横を見ると、紫はいつにない神妙な面持ちになっていた。
そして牧師の誓約の言葉を聞き終えると、一呼吸置いてから、紫は「イエス」と答えていた。
……なんか紫、緊張している……?
牧師が指輪の交換を促した。
‼
え、なんで? 指輪が用意されている⁉
フリじゃなかったのか、フリじゃ。
俺は右近を見た。
右近は目で、とにかく交換しろ、と言っていた。
本当に交換するならリハーサルでやらせてほしかった……。
俺はそう思いながら、紫を見た。
紫は……やはり緊張しているようだ。
そうか。
指輪の交換は本当にやることになっていたんだな。
だから紫は緊張しているのか。
紫が緊張しているのなら、俺が落ち着かないと。
俺は紫が差し出した左手のロンググローブをはずした。
薬指、薬指。
よし。成功だ。
紫はリハーサルでちゃんとやっていたようで、問題なく俺の薬指に指輪をはめてくれた。
これで山は越えたんじゃないか?
俺は安心感から結婚証明書も気軽な気持ちでサインした。
紫もサインした。
紫、字が達筆だな……。
最後、ウェディングキスとなった。
これもどうせフリだから……と思っていたが、紫のベールを持ち上げた瞬間に、フリだと分かっていても緊張感が高まった。
きちんとお化粧をした紫を初めて見た。
目鼻立ちがよりくっきりし、唇も口紅とグロスでさらに魅力的になっていた。
何より紫の頬が赤く染まり、その恥じらいというか初々しさを見ていると、自然と胸が高まった。
ヤバイ。俺、手が震えてきた。
落ち着け、落ち着け。
これはフリなんだ。
俺は大きく深呼吸し、紫の腕を優しく掴んだ。
そして目を閉じ、顔を近づけた。
この角度なら見学者も蒼空たちにも紫の後頭部が見えていて、フリだとはバレないだろう。
よし、完璧……
うん⁉
俺は寸止めしたつもりだった。
だがこの柔らかい感触は……。
心臓がドクドクドクと大きな音を立てていた。
え……。
紫とキスをしていた……。
◇
割れんばかりの拍手が起こり、俺は目を開き、後ろを振り返った。
見学者はもちろん、蒼空や他の言霊使い達も拍手をし、写真を撮っていた。
しばらくは写真撮影に応じ、見学者のカップルはチャペルを出て行った。
すると、女性陣が紫の周りに集まってきた。
「も~、紫、めっちゃ綺麗! 小町もすごい素敵だったけど、紫も最高!」
姫天皇は紫に抱きついた。
蜻蛉は目尻の涙を拭いながら紫を褒め称えた。
「本当にお綺麗で感動しました」
伊勢は「ぼく、白無垢派だったけど、ドレスもいいかなって思えてきました」と、紫の写真を撮りまくっていた。
「紫、完璧だったよ。見学者のカップル、女性の方が二人とも目をハンカチで押さえていた。あれはもう絶対、今日、契約書にサインして帰るね」
清納の言葉に和泉が
「も~、清納ってば、すぐお金の話に持っていくんだから。莉子と話し合いそうー」
そう言って笑った。
俺はというと、ただただただ、紫とキスをした事実に頭がいっぱいで、そして夢見心地の状態だった。
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今日は2話公開です。引き続きお楽しみください!




