イケメン対決
業平が出て行くと、莉子先輩が口笛を吹いた。
「いいね、湊、そう来たか。切り札対決になるかと思ったが、まさかのイケメン対決になるとはね。これはこれでそそられる展開になりそうだ。イケメンが苦しむ顔は至高の極みだからね」
主の様子に菅家はやれやれという顔をしていたが、すぐに視線を業平に向け
「防御結界、展開。永劫の冬、氷神、召喚」
「防御結界、展開。久遠の秋、風神、召喚」
「防御結界、展開。悠久の夏、火神、召喚」
「防御結界、展開。常世の春、木神、召喚」
次々と円陣が現れ、菅家の周囲には四重の防御結界が展開された。
「な、これは……」
驚く俺に紫が説明してくれた。
「多重結界です。春夏秋冬と連結した結界なので、通常の多重結界より、より強固です。さらに、本来この結界は春を一番外に、冬を一番内に展開するのが定石。それを冬を一番外にしたということは……業平の体力を奪うつもりでしょう」
「体力を奪う……?」
「永劫の冬……その結界に近づけば、通常の人間であればそのまま凍り付く寒さです。その寒さでまず体力を奪い、次の久遠の秋でさらに体温を低下させます。久遠の秋の結界に近づくと、身も心も凍り付くような北風に襲われます。
そして悠久の夏の結界に近づけば、まるで鉄板の上にいるような熱さにさらされます。急激な温度変化は言霊使いといえど、体にかかる負担はとても大きいです。そして最後の常世の春で、疲れ切った体に無数のツタを絡め、動きを封じる……そういう作戦だと思います」
「業平は、猿丸のようなスタミナ高火力の攻撃タイプではない……。猿丸なら突破できるかもしれないが、業平では難しいか?」
紫は俺の問いに
「猿丸であれば、主の言う通り、ごり押しで突破もするでしょう。でも業平の攻撃ステータスも決して低くはないので、結界を突破することはできると思います。ただ、時間が……」
……!
そうか五分以内にすべての結界を破壊しないといけないのか……。
「でもそれならこれまでみんな結界は一つだった。多重結界は反則では?」
「いえ、多重結界は禁止というわけではないので、別に小町が多重結界を展開しても良かったわけです。ただ、多重結界はとても高度なものです。空間転移の結界と人避けの結界を同時に展開する、ならば同じ多重結界でも展開しやすいのですが、菅家が展開しているような、同心円状に四重に展開する多重結界はとても精密で緻密で……。近接して結界を展開するため、結界同士が干渉しかねないので、とても難しいのです」
「慎重さが求められる多重結界を、短時間で展開する。それは今の小町ではできないが、菅家はそれができる。つまり力の差なのだから反則に当たらないというわけか」
「はい。それに何も多重結界が最強というわけではありません。四神の守りの結界は多重結界ではありませんが、召喚される霊獣が強力なので、菅家が展開している今の結界に匹敵するものですし」
「なるほど……」
切り札である菅家が出てくるということは、こういうことなんだ。
業平には申し訳ないが、これは俺の采配ミスだ。
ただもう始まってしまったので、これは見守るしかない……。
業平は永劫の冬の結界のそばに立ち、氷神と向き合った。
氷神は美しい雪の女神だった。
今は夏だというのに、業平の束帯には雪が降り積もった。
業平は刀を手にしていたが、それをおろし、雪の女神を見た。
「人知れぬ わが通ひ路の 関守は 宵々(よひよひ)ごとに うちも寝ななむ」
すると……。
雪が止んだ。
雪の女神は衣で涙を拭っていた。
「え……」
雪の女神は自ら円陣から消えた。
「む、紫、これは……⁉」
「これは、業平がとある女性のところに人目を避け通っていたのですが、忍び込むために使っていた垣根に見張りがつくようになり、女性に会えなくなったことを嘆いて詠んだ歌とされています。許されぬ恋ゆえに皆の心を熱くしたと言われているので、おそらく氷神も何か共感するものがあったのかと……」
紫からそんなことを聞いている間に、業平は久遠の秋の風神を倒し終えていた。
そして悠久の夏、火神と向き合った業平はまた一句詠んでいた。
「白玉か 何ぞと人の 問ひしとき 露と答へて 消なましものを」
……!
これは古文の授業で習った歌だ。
許されない恋の末、駆け落ちした業平と姫君。草についた露をみて、姫君は「あれは何か」と尋ねた。でも先を急ぐ業平はそれに答えなかった。そうこうしているうちに、姫君は鬼に食べられてしまった(連れ戻された)。
あの時、「あれは露ですよ」と答え、自分も死んでしまえば良かったと嘆く、悲しい恋の歌だ。
風神、威風堂々たる体躯の神だったが、この歌に感銘したようで、円陣から姿を消した。
「残り時間、どれぐらいだ?」
「あと一分少々です」
業平は次の常世の春、木神のツタに苦戦していた。
刀を振るおうとするとツタが絡み、身動きがとれなくなるのだ。
「残り、十・九・八・七……」
あと、少し、あと少しで倒せる。
「五・四・三・二」
倒した!
木神が円陣に消えた。
俺は思わず紫と抱き合って喜んだ。
「よもや、よもやだ。菅家、焼きが回ったか?」
「いえ、主のご要望に応えたまでですよ。ぎりぎりの攻防、わたくしと業平の苦悩の表情はお楽しみいただけたのでは?」
「はっ! なるほど。存分に楽しめた。だがそのために負けたというのか。……まあ、これはお遊びみたいものだ。負けてもそれを上回る収穫があったからな。良しとしようか」
そう言うと莉子先輩は
「少し早いが昼ご飯だ。その後はちょっと手伝ってもらうことがある。ホテルへ戻ろう」
莉子先輩はあっという間に結界を解除し、歩き出した。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回更新タイトルは「涙目の紫」です。
昼食休憩後、一体何が……⁉
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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それでは午後もお仕事、勉強、頑張りましょう!
明日、また続きをお楽しみください!




