炎の守り手
まるで冗談みたいな負け方に紫は唖然とし、業平は苦笑し、姫天皇は大激怒で小町を追いかけまわした。
当の清納は「これぞ天岩戸大作戦」とご満悦だった。
「では次、防御は蒼空チーム、攻撃はわたしのチームだ」
蒼空チームの防御は伊勢で、莉子先輩のチームの攻撃は猿丸だった。
「防御結界、展開。炎の守り手、朱雀、火竜、炎駒、召喚」
伊勢の円陣に現れたのは、すべて火を司る神獣だった。
「なるほど。猿丸は攻撃を素手で行う。だから火を使う神獣を召喚したのか」
紫が独り言のように呟いた。
「猿丸に勝機は?」
俺が尋ねると、紫は表情を和らげた。
「神獣が一体でしたら、うまく炎をかわしながら、打撃の攻撃で倒しきることは可能と思います。ですが、今回は三体います。一体を攻撃する間に、他の二体から攻撃を受けると、苦しい展開になるかと……」
「なるほど」
猿丸が攻撃を始めた。
確かに紫の言う通りだった。
朱雀も火竜も上空にいるので、地面にいる炎駒……炎の色をした麒麟に狙いを定め、打撃を加えるが、炎駒自身も炎を吐くし、上空から朱雀と火竜が援護射撃を行い、猿丸は後退を余儀なくされた。
どうするんだ⁉
あの莉子先輩の言霊使いだ。
このまますんなり負けるはずは……。
俺が莉子先輩を見ると、先輩は微笑を浮かべ唇を舐めた。
その時だった。
猿丸は駆け出し、物凄い強さで地面を蹴った。
大地が揺れ、砂ぼこりが舞った。
猿丸は火竜と同じ高さまでジャンプしていた。
当然、火竜は口から炎を吹き出した。
だが。
猿丸は炎を避けず、そのまま、炎の中を進み、火竜の顎に強烈な打撃を与えた。
火竜は脳震盪を起こしたのか、そのまま動きを止め地面に落ち、猿丸も地面に落ちた。
「……猿丸がやられた⁉」
火竜はそのまま円陣に消えたが、猿丸の全身を包む炎は消え、猿丸は無事だった。
無事だったどころか、無傷、火傷の痕も見当たらなかった。
「紫、何が……」
猿丸の攻撃は続いていた。朱雀に対しても火竜と同じように向かっていった。
「……猿丸は確かに神獣の炎で焼かれています。が、焼かれると同時に回復スキルを使い、焼けた部分を瞬時に治す、ということを繰り返しています。その上で、渾身の一撃で神獣を倒しています。
これは猿丸だからできる攻撃です。猿丸は元々スタミナがあり、そして一撃一撃の火力が重く、強い……。これは……同じ攻撃ステータスの言霊使いとして感嘆に値する戦いぶりです」
そんな無茶苦茶な戦い方なんてあるのか⁉
勝負はついていた。
猿丸が炎をもろともしない時点で伊勢の敗北が決まっていた。
炎駒も倒れ、伊勢の防御結界は消えた。
「ジャスト四分。最初の余計なパフォーマンスがいらなかったね。あれがなければ一分は時短できた。ということで勝利はわたしのチームだ。続いては、防御はわたし、攻撃は湊だ。これは……面白いことになりそうだね」
莉子先輩がニヤリと笑った。
◇
「主、莉子は必ず菅家を出してきます。ここは私が」
「でも紫、切り札はとっておくべきですよ。この後、回復、祓い、攻撃VS攻撃もあるのですから。防御がメインの今回は、わたくしで対応し、紫の体力は温存した方が良いかと」
紫、業平、双方の声を聞き、俺は業平の案でいくことにした。
俺のチームにはまだ祓いの言霊使いがいなかった。
そうなると全スキルを取得している紫に祓いを頼むことになる。
さらに攻撃VS攻撃となったら、それこそ紫の本領発揮のはずだ。
紫の体力は温存しておきたい、俺もそう思ったからだ。
「さて、湊、作戦会議は終わったか?」
「はい」
位置につくと、やはりそこには菅家がいた。
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