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完結●歌詠みと言霊使いのラブ&バトル  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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紫の笑顔

俺は夢を見ていた。


夢の中で俺たち……小町、姫天皇ひめみこと、業平、紫そして俺は、旅をしていた。


ようやく目的地について、宿みたいなところで休んでいると呪魂の襲撃を受けた。


小町は防御結界を展開し、業平と紫が攻撃を行ったが、業平が斬られ、姫天皇ひめみことが回復を行っていると、小町の防御結界が破られた。紫が防御結界を展開するが、呪魂の攻撃は激しく、紫の防御結界は破壊される寸前だった。


そして紫は俺を守ろうとして呪魂に斬られた。


「紫!」


声の限りに叫んでいた。涙が頬を伝っていた。


あるじ、どうされましたか? 紫はここにおります」


目を開けると、紫が俺の顔を覗き込んでいた。


「紫、無事だったのか! 良かった!」


俺は紫に手を伸ばし、強く抱きしめた。


「あ、あるじ⁉」


「怪我は? 背中を斬りつけられていただろう? すぐに姫天皇ひめみことを呼んで回復を……」


俺は起き上がり、紫の背中を見ようとして、周囲の景色が見慣れた自分の部屋であることに気づいた。


「⁉」


夢じゃない、現実!


俺は慌てて、紫から離れ、壁際まで後退した。


「ご、ごめん、紫、俺……」


あるじは夢を見られていたのですね」


紫はホッとした表情になった。


そして俺のそばまで来ると、正座した。


俺も慌てて正座した。


「戦闘の夢を見られていたのですか?」


俺は頷いた。


「どんな夢を?」


俺はさっきまで見ていた夢の内容を話して聞かせた。


「なるほど。そんな恐ろしい夢を……。でも大丈夫です、あるじ。紫は敵に背中をとられるような失態はいたしません」


そう言うと紫はニッコリ笑った。


……紫が……夢ではなく、現実で笑った。


俺は衝撃を受けていた。


以前の紫はツンとしていたのに……。


あるじ、何か紫は失礼なことを申しましたか?」


「いや…、大丈夫だ。……その、姫天皇ひめみことから聞いていると思うけど、紫はついこの前まで蒼空の言霊使いで……」


「ええ。聞いております」


「……今よりずっと厳しくて、ツンとしていたから……」


「……え、そうなのですか?」


「話し方も断定口調で、一人称も『自分』だったし……」


あるじは以前の紫をご所望ですか?」


「……以前の紫……。俺は紫と過ごした日は四日しかなかった。以前の紫のことをすべて知っているわけじゃない……。俺がその短い期間で知った紫は、沢山ある紫の一面に過ぎなかったのかもしれない……。以前も今も全部含めて紫だ。だから、俺のことは気にせず、ありのままの紫でいてくれ」


あるじ……」


紫が微笑を浮かべた。


凡庸な言葉になるが、美しく可愛らしい微笑みだった。


「……紫は巡回、終わったのか?」


「はい。一通りは。もう一度巡回してもよかったのですが……その、あるじのことが心配で戻ってきてしまいました」


「え、そうなのか?」


「はい。差し出がましいかもしれませんが、せめてあるじのそばに言霊使いは一人おいて、残りが巡回へ向かう方が良いかと……。あるじあっての私たちですし」


そうだった。


俺に何かあれば、紫たち全員が強制的に札に戻ることになるのだ。


「そうだな。言われて見ればその通りだ。明日からはそうするよ。言いにくいこと、ちゃんと言ってくれてありがとう、紫」


紫が驚いた顔で俺を見て、そして嬉しそうに「はい」と返事をした。


本当に、本当に、笑顔が可愛かった。


だが次の瞬間、引き締まった表情に戻り


「ではあるじはお休みになってください。紫には睡眠は必要ありませんが、あるじに睡眠は必要なものです。まだ三時を過ぎたところです。紫がちゃんと見張っていますので、安心して休んでください」


そう言うと、ベッドから紫は降りた。

その姿は凛としており、先ほどの紫とは別人のようだった。


そうか。


紫は自分の中でスイッチを切り替えていたんだ。


敵がいれば全力で戦うモードになる。

警戒する必要があれば眼光も鋭くなる。


でもさっきは、あるじである俺を落ち着かせようとして笑顔を見せ、リラックスさせてくれたんだ。


考えてみれば、蒼空の言霊使いだった時の紫とは、いつも緊張感のある場面でばかり会っていた。


間違いない。

紫は何も変わっていない。


「ありがとう、紫。じゃあ、俺は休ませてもらうよ」


紫は頷き、俺はベッドに横になった。


紫は俺に背を向け、床に座り、背中をベッドにもたせかけていた。

手には太刀を持ち、何かあれば動けるようにして。


……。


紫に睡眠はいらない、ということは分かっている。


分かってはいるが……。

俺はベッドで寝て、紫が床で寝ずの番って……。

無理だ、気になって寝られない。


「紫」


紫は驚いた様子で顔だけこちらへ向けた。


あるじ、何か?」


「その……これでは眠れない」


「‼ それは配慮が足りませんでした。紫は廊下に出ます」


紫が立ち上がった。

俺は慌てて紫の手を掴んだ。


「?」


「いや、紫、そうじゃなくて……。その、俺だけベッドでいびきをかいて寝て、紫が寝ずの番というのが……申し訳ないというか……」


「なるほど……。ではどうすれば安心してあるじは休むことができますか?」


俺は紫から手を離し、ベッドで胡坐を組んで考えた。

紫は立ったまま俺の方を見ていた。


「とりあえず紫、ベッドに座って」


俺の言葉に紫は頷き、ベッドに腰を下ろした。


「紫は言霊使いだと分かっているし、睡眠は必要ではないと分かっている。それでも俺は……紫にも休んでほしいと思っている。小町も姫天皇ひめみことも巡回が終わると勝手にこのベッドで横になっている」


「そう、なのですか? 二人は寝ているのですか?」


「うん。俺にあわせてくれているだけかもしれないけど」


「なるほど」


「……俺は床でも寝られるから、紫は寝なくてもいい。ベッドで横になっていてくれ。それだけで俺は安心できる」


「それはできません。あるじを床に寝かせ、自分だけベッドで横になるなんて……」


「そうか……」


しばし二人とも考え込んだ。


あるじ、紫が霊体化すれば解決です」


確かに。


その提案を超える解決方法を俺は思いつかなかった。


俺としては霊体化せず、紫がいてくれるのが一番いいのだが……。


でも俺は寝るわけで。


俺は紫の提案を受け入れ、今度こそベッドに横になり、かなりの時間をかけ、眠りに落ちた。


本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


次回更新のタイトルは「幸福な目覚め」です。

湊は一体どんな朝を迎えるのでしょうか……?


それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう

良かったらブックマーク登録をよろしくお願いいたします。


それでは午後もお仕事、勉強、頑張りましょう!

明日、また続きをお楽しみください!

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