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完結●歌詠みと言霊使いのラブ&バトル  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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30/68

静かな結末

「戻すしかない……?」


「そうだ。紫を札に戻すんだ。札に戻ればすべてがリセットされる。札の世界は現世うつしよとも隠世かくりよとも全く違う。札の世界において、呪詛はそもそも意味を成さない」


「……!」


「今、白狐、黒狐、莉子が蒼空を説得しに行っている。紫を札に戻すことに同意するように」


「……札に言霊使いが戻るのに歌詠みの同意が必要なのか⁉」


「陰陽師のぼくにそれを聞くな」


「……」


小笠原久光は俺の顔を見るとため息をついた。


「必要だ。当然だろう。呪魂じゅこんとの戦闘の最中に、突然、言霊使いが『やっぱり札に戻ります~』っていなくなったら困るだろう。言霊使いが札に戻る、それにはあるじたる歌詠みの同意は必須だ」


そうなのか……。


莉子先輩の言葉がよみがえる。


――

「蒼空はこの札だ、と思ったようだが、その札は反応しなかった。その場合は別の札を選ぶ必要があるんだが、蒼空はその札をつかんで半ば無理やり引き当ててしまったんだ」

――


蒼空は紫を札に戻すことに同意するだろうか……。

でもこのままでは紫は……。


蒼空もきっと同意するはずだ。


「同意はするさ。ぼくが条件を出すように伝えたからな」


「条件……?」


「蒼空は物腰も柔らかいし、一見優しいが、その実、強くなりたい、誰かに負けたくないっていう気持ちもとても強い。紫はとても強力な言霊使いだろう。それは見れば分かる。紫を失うことは蒼空にとっては大きな痛手だ。


だから近いうちに歌合せの儀式を行い、再度言霊使いと出会うチャンスを与える。そしてぼくが受け取る予定だった神器の一つを蒼空に譲渡する。この二つの条件で、蒼空は紫を札に戻すことに同意するはずだ」


「蒼空のことを知っているのか……?」


「ああ。歳は離れているが昔、同じ町に住んでいた。子供の頃にな。その時によく遊んでいた。蒼空の家が引っ越すことになり、最初は手紙のやりとりもしていたがそれも絶えて……。まさかここで再会するとは驚きだったよ」


そこで小笠原久光は伸びをした。


「よし。答えは出たようだな」


小笠原久光は立ち上がった。


「……俺もついて行っていいか?」


「ああ。呪詛の毒気はぼくが抑える。蒼空がその場にいないと始まらんからな」


そう言うと小笠原久光は振り返ることなく階段へ向かっていった。



小笠原久光は、蒼空を刺激しないためということで、空き室になっている紫の隣の病室から、呪詛の毒気を抑えるための祈祷を行うことになった。


紫の病室には、白狐、黒狐くろこ、莉子先輩、蒼空、そして俺の入室が許された。


紫の病室の前で待っていると、蒼空が三人の言霊使いを連れ、ゆっくりやってきた。


莉子先輩が蒼空に言霊使いを霊体化するように言い、蒼空は素直に頷いた。


小笠原久光によって毒気が抑えられているからか。紫の病室の前に立っていても、体が重たくなることも、気分が沈むようなこともなかった。


俺たちは病室の中へ入った。


十三時を回ったばかりの七月のこの日、空はよく晴れ、外はとても明るかった。

紫の病室も窓からたっぷりの日が届いていた。

ベッドに横たわる紫にも日が当たり、まるで紫自身が輝いているようだった。

とても呪詛に憑かれているようには見えなかった。


「では始めるよ」


白狐が黒狐に合図を送った。


えっ……。


別れの挨拶をする時間もないのか⁉


……いや、違う。


俺たちが感傷的にならないよう、一気に終わらせようとしているんだ……。


歌合せの時に使った箱の蓋を、莉子先輩が開けた。


すると黒狐くろこが一枚の札をくわえ、トコトコと宙を歩き、その札を蒼空に渡した。


「蒼空、札の表面を紫に向けて。紫の歌を詠んであげて」


白狐の言葉に蒼空は頷いた。


「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲かくれにし 夜半の月かな」


紫の体が金色の光に包まれ、キラキラと輝きながらその姿は消えた。


「ありがとう、紫」


蒼空は静かにそう言うと、黒狐に札を渡した。

黒狐は札をくわえ、箱に戻した。

莉子先輩が箱の蓋を閉じた。


「これでお終いだ」


白狐が静かに告げた。


本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


突如訪れた紫との別れ。湊と蒼空はこの後どうなるのでしょうか。


それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう

良かったらブックマーク登録をよろしくお願いいたします。


それでは午後もお仕事、勉強、頑張りましょう!

明日、また続きをお楽しみください!

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