新たな歌詠みの誕生
「……ど、どーゆうことだよ⁉ 言霊使いが負けた、歌詠みが倒された――それって白狐、みんな死んだ……ということか?」
「言霊使いは元々死んでいる……というと語弊があるかな。言霊使いは過去に生きていた人間の魂だ。歌詠みはその魂を現世に呼び出し、一時的に肉体を与えている。攻撃ステータスの言霊使いは武器で戦っているが、厳密には魂が発する覇気で戦闘を行っている。
君も感じなかったかい? 覇気が放つ振動を。覇気と覇気がぶつかり合って生まれる波動を。覇気は目には見えないけど、歌詠みなら感じることができる。でも覇気はそれ自体が攻撃だ。通常歌詠みは自身に防御の結界を展開して、覇気の影響を受けないようにするけどね」
俺の脳震盪を引き起こした原因、それは覇気だった。
そして言霊使いが取得するスキルには防御、回復、祓い、攻撃があり、その中で自身が得意とするものをステータスとして名乗ることができるという。
「覇気の攻撃が言霊使いの魂の核に至ると、言霊使いは消失する。ただ、魂が完全に破壊されていなければ札に戻り、回復を待つ。ただ回復は場合によっては一年から百年かかる。魂の核の傷つき具合によって回復の度合いが変わる。だからこそ歌詠みは引き際を間違えないようにしないといけない」
白狐はそう言うと猫のように耳の後ろをかいた。
言霊使いはどうやら札から現れるらしい。
「一方、歌詠みが呪魂の覇気の攻撃を防御結界なしに受けるとどうなるか? 即死だ。肉体的な傷は受けない。魂が肉体から切り離されてしまうんだ。強力な呪魂ともなると、防御結界を破るだけの覇気を出すこともある。
呪魂はね、道鏡が現世に恨みを持つ魂に呪いをかけたもので、この呪いにかかると、負の感情が強化される。元々持っている負の感情が強いほど、それは増幅される。その強化度合いによって、ぼくらは呪魂の強さを大将、中将、少将、それ以外と分類している。
義経は大将クラスの呪魂として現れた。大将クラスと言ってもその中でも別格の強さだった。歌詠みの防御結界は多重に展開されていたが、それをいとも簡単に破壊し、歌詠みを攻撃した。そして防御に入った言霊使いを巻き込み、歌詠みを……魂と肉体を切り離し、殺してしまったんだ」
「……じゃあ大将クラスの呪魂が来たら歌詠みは打つ手がないじゃないか」
「そんなことはないよ。攻撃ステータスの言霊使いには大将クラスの呪魂と渡り合える者もいる。呪魂の覇気に打ち勝ち、呪魂の魂の核を完全に破壊し、消失させることができる。それに祓いのステータスの言霊使いの中には呪魂の呪いを、道鏡がかけた呪いを魂から祓うことができる者もいる」
「じゃあ死んだ歌詠みはついてなかった、ってことか? 強い言霊使いがそばにいなかった?」
白狐は耳をピクピクとさせた。
「……明確にはそうではないよ。強力な言霊使いはもちろんその場にいた。でもさ、どんなに言霊使いが強かろうが、彼らの主となると歌詠みが倒されたらおしまいなんだよ」
「……!」
「歌詠みが倒された時点で言霊使いは札に戻ることになる。歌詠みは引き際を間違えないようにと言ったけど、それは言霊使いをいつ撤退させるか、ということだけじゃない。自身の引き際も同じなんだよ。大将クラスの呪魂と対峙した場合は、やみくもに戦いを挑んではならない。勝ち筋を見いだせないなら引くことも大切ってことさ」
白狐は猫のように顔を前足でなでた。
「それで君が言っていた中条里美だけど、彼女とは知り合いなの?」
「演劇部の……部活の先輩」
「彼女と接触を持ったりした? 例えばキスをしたり、肉体関係を持ったり……」
「……な、そんなことしてない!」
こいつ、神獣とか言いながら、なんてことを言ってやがるんだ⁉
「じゃあ、彼女に何か物を渡さなかった? 手作りのものとか」
「それは……」
秋の文化祭で上演する劇の台本を、俺は中条先輩から頼まれていた。
そして丁度一週間前、出来上がった台本を先輩に渡していた。
「なるほど。君が書いた台本を彼女に渡したわけだね」
考えを読まれた⁉
「白狐、これで彼女が狙われた理由が解明しましたね」
蒼空の言葉に白狐は「そうだね」と言い、俺のベッドからジャンプすると、蒼空の肩に乗った。
「台本には湊の歌詠みとしての力が込められてしまったのだろうね。本人にその自覚がないとしても」
「台本に込められた力を感知した穢れに襲われた……。つまり、中条里美は新しい歌詠みと勘違いされ、穢れに襲われたということですね、白狐」
「おい、歌詠みを襲うのは呪魂だけじゃないのか?」
俺の言葉に蒼空が答えた。
「言霊使いは穢れを祓う。そしてその言霊使いを遣わすのが歌詠みと穢れも分かっているんだよ。だから歌詠みを見つければ、穢れは襲ってくるというわけさ」
「……歌詠み自身に穢れを祓う力はあるのか?」
「その手に刻まれた歌詠みの印がきちんと発動すると、祓いもできるようになるし、防御結界も展開できるようになるよ」
「呪魂を祓うこともできるのか? 攻撃は?」
「湊は好奇心旺盛だね」
蒼空が綺麗な笑顔を見せた。
ホント、男にしておくのがもったいない美形だな。
「歌詠みの中には祓いの力を強化して、中将クラスぐらいの呪魂でも祓える者もいるよ。でも残念ながら歌詠みは覇気を出せない。だから攻撃は無理かな。それは言霊使いにまかせるしかない。それに……」
「あっ……」
蒼空の言葉に被るように、白狐が小さく声を出した。
「……逝ってしまったね」
白狐の言葉に、蒼空は頷いた。
「そうですね」
「彼の魂はまた戻ってくる。だって彼は歌詠みだから。歌詠みは現世で必要不可欠な存在だ。必ずまた帰ってくる」
「はい」
白狐と蒼空はそう言うとしばらく沈黙していた。
「札の回収は終わった」
突然、箱を背負った黒い狐が現れた。
白狐とまったく同じ姿で、ただ色だけが黒かった。
「黒狐、ありがとう」
白狐がそう言うと、蒼空は黒狐が背負っていた箱を受け取った。
「白狐、それでは歌合せの儀式、始めてしまいますか?」
「そうだね。すでに少将クラスの呪魂が放たれているし、道鏡は湊の存在に気付いている。今後を考えると湊には一刻も早く言霊使いを傍においた方がいい。あとはまかせてもいいかい、蒼空?」
「ええ、まかせてください」
蒼空はそう言うと俺を見た。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
モフモフの白狐と黒狐は双子の兄弟です。
歌詠みからはシロ、クロと呼ばれることも。
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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それでは明日、また続きをお楽しみください!




