表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/68

歌詠みと言霊使い

主様あるじさま、目覚めたようですよ」


女の子の声が聞こえ


「そうか。伊勢、ありがとう」


少年の声がした。


そして


「君、大丈夫かい?」


一瞬女子かと思う美形のおかっぱ頭の少年が俺の顔を覗き込んでいた。


「へぇ、これが新しい歌詠みくんかい?」


……! なんだ、この白い狐のようなモフモフは?


というか、今、これ、しゃべらなかったか⁉


「そのようです。結界の中にいたのと、左手に薄っすらとですが、歌詠みの印が」


「どれどれ、あ、本当だ」


美形の少年と白いモフモフが俺の左手の甲を眺めていた。


俺はこの状況をどう理解していいのか、まったく分からなかった。


「でもこれで合点が行くね。新しい歌詠みの誕生に気づいた道鏡が少将クラスの強力な呪魂じゅこんを送り込んだ、というわけか~」


道鏡……って歴史で聞いた名だな。確か皇位を狙った法王だった気が……。


「そのようですね。先日の女生徒……中条里美がなぜ巻き込まれたのかは謎ですが」


中条里美⁉


美形の少年と白いモフモフが何を話しているかは、さっぱり分からなかった。


でも中条里美という名前は分かった。


何故かって彼女は俺が所属する演劇部の先輩だったからだ。


「中条先輩が巻き込まれたって、どーゆうことですか?」


俺は上半身を起こした。


そこで初めて、ここが保健室であり、美形の少年と白いモフモフ以外に、巫女装束の幼女、十二単姿の女性、甲冑を身につけた女、そしてやけにセクシーに制服を着崩した女子がいることを認識した。



すべての話を聞いた俺の率直な感想、それは「嘘だろう」だった。

目の前で確かに起きた出来事だが、それでも信じられなかった。


まず、俺に襲い掛かってきた黒い靄に包まれた男。

その正体は上総かずさ 広常ひろつねだという。

上総広常は平安時代後期の豪族。

源頼朝につき、功績を収めるも、謀反を疑われ、命を落としている。

当然、この世への未練、恨みがあったことだろう。

その気持ちを利用した道鏡により、上総広常の魂は、俺を殺すために遣わされたというのだ。


そんな歴史上の人物になぜ俺が襲われなければならなかったのか。

それは俺が新たな「歌詠み」に選ばれたからだという。


歌詠み、それは百人の言霊ことだま使いを呼び出すことができる者のことだった。


歌詠みに選ばれる人間は二十人だが、誰もが歌詠みになれるわけではなかった。


代々が歌詠みの家系、百人の言霊使いと縁がある家系、神職・陰陽師など神との関わりを持つ家系の者などから選ばれるのだという。


だがその数は代々減っており、今、歌詠みは十五人しかいなかった。


そしてそのうちの一人が病に倒れ、新しい歌詠みの誕生が予言されていた。


その新しい歌詠みが俺だった、というのだ。


「君、名前は?」


そう聞いたのは美形のおかっぱ頭の少年、名は弓削ゆげの 蒼空そらで、俺が自分の名を告げると「滋岳しげおか……なるほど。君も僕と同じだね」と微笑んだ。


何が同じかって、俺は陰陽師の家系だというのだ。


俺は自分が陰陽師の家系だなんて聞いたことがないというと、調べればわかるよ、と蒼空は微笑んだ。


白いモフモフ…白狐びゃっこは「歌詠みのしるしがあるから間違いないよ」と断言した。


白狐は神獣であり、日本の各地に散る歌詠みの連絡係なのだという。


「百歩譲って、俺がその歌詠みだとして、何ができるんだ?」


この問いに答えたのは白狐だった。


「一人の歌詠みは、最大五人の言霊使いを呼び出すことができるんだよ。呼び出した言霊使いは歌詠みが歌詠みであり続ける限り、その歌詠みの専属となる。歌詠みが言霊使いを呼び出すためには、歌合せという儀式を行う必要がある」


ではこの呼び出した言霊使いで歌詠みは何をするのか?


それは二つ。


日常的に言霊使いと共に行うのが、「穢れ」を払うことだった。


穢れ――それは人間の負の感情から生まれるものだった。

恨み、妬み、怒り……。

そう言った負の感情を持つ人間には黒い靄の形をとる穢れがつく。

この穢れを払うことができるのが言霊使いだった。


もしこの穢れを祓わず、放っておくとどうなるのか?

殺人、放火、窃盗などの犯罪につながるという。


もちろんすべての穢れを祓いきることはできない。

でも歌詠みや言霊使いが穢れを祓うことで、多くの犯罪が抑えられているという。

もし祓うことを止めれば、この世は地獄に変わると白狐は言った。


もう一つの重要な役割、それは道鏡の野望を砕くことだった。


道鏡は千年以上に渡り、この世に恨みを持つ魂を使い、歌詠みを襲い、また日本を導こうとする偉人を闇に葬ってきたのだという。誰もが知る歴史上の人物の暗殺の陰には道鏡が黒幕として糸を引いたものが沢山あるという。


「例えば、そうだね、坂本龍馬とかね。あの時は源義経を呪魂じゅこんとして道鏡が悪用したんだよ」


白狐はあっさりと告げた。


坂本龍馬と言えば歴史を語る上で欠かさせない人物だ。


もし龍馬が生きていたら……と考える人は多いのではないか。


「……阻止できなかったのか?」


「うん。あの時は三人の歌詠みが現場に向かったけど、阻止できなかった」


「阻止できなかったって……どういうことだよ?」


「さっき、君も戦闘を見ただろう? 言霊使いは基本的に言葉で穢れを祓ったり、怪我を治癒したり、攻撃から防御を行う。でも武闘派もいる。武器を使って戦える者がいる。義経と言霊使いは戦ったが、義経は強かった。強すぎた」


「つまり戦って、言霊使いが負けた……?」


「それだけじゃない。三人の歌詠みも倒された」


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

また昨日に続き、来訪くださった方も、本当に感謝でございます。

今日は2話公開です。引き続きお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ