実地訓練
「湊、止まって」
蒼空が囁くように言うと、足を止めた。
歌詠みの印に神経を集中させ、湊が見ている場所を見た。
二人の女子高校生が、一人の女子高校生に詰め寄っていた。
そしてその二人の女子高校生には、穢れが憑りついていた。
二人のうち一人が、ポケットからカッターを取り出した。
「湊、結界を。歌詠みの力を発動しながら、言霊で結界を展開するんだ。僕の手順を思い出し、やってご覧。できるはずだよ」
「分かった」
俺は背筋を伸ばし、歌詠みの印のある左手を地面に平行に持ち上げた。
歌詠みの印に神経を集中させると、印が青白く輝いた。
「人避け結界、展開」
空間がぶるぶると震えた。
「半径五キロ圏内、有機体を回避。レベル3。完成まで五、四、三、二、一」
空間の揺れが収まった。
「和泉、祓いを。蜻蛉、治癒を」
蒼空の言葉が終わる頃には、和泉は二人の女子高校生のところまで移動していた。
そして手にしていた十手で、二人の女子高校生に憑いた穢れごと峰打ちを行った。
穢れはその瞬間に消えた。
二人の女子高校生はそのまま気絶し、残った女子高校生はびっくりして辺りを見回した。
顔には涙の筋が残っており、腕にはあざもあった。
痛々しい姿に胸が痛んだ。
すると。
蜻蛉がその女子高校生を包み込むように後ろから抱きしめた。
女子高校生の体は淡い光に包まれた。
すると女子高校生の顔色が良くなり、腕のあざも消え、何より目に光が戻った。
蜻蛉と和泉が戻ってきた。
元気を取り戻した女子高校生は、気絶している二人の女子高校生に声をかけていた。二人の女子高校生が目を覚ますと、何か話し、三人は抱き合っていた。
……そうか。元々友達だったんだ。穢れのせいで三人の関係がおかしくなっていたのか。
「もう大丈夫だね。湊、結界を」
俺は頷き「人避け結界、解除」と静かに告げた。
◇
「和泉は穢れに直接攻撃していたけど、あーゆう祓いの仕方もあるんだな」
「うん。あれは和泉が二人の女子高校生を気絶させたくて直接攻撃を行ったけど、通常は僕達と同じで祓詞で祓うことが多いかな。言霊使いにも個性はあるから、護符を使う子もいれば、大麻を使う子もいるよ」
「へえー」
俺と蒼空は公園を目指して移動していた。
「和泉は穢れに触れても何も変化はなかったけど、歌詠みや普通の人が触れたらどうなるんだ?」
「和泉は祓詞を唱えながら峰打ちをしていたんだよ。だから何もなかった。穢れに触れてどうなるかはケースバイケースかな。人間には負の感情を打ち消す前向きな感情を併せ持っている。つまり気持ちがポジティブな状態だったら、普通の人であっても、多少の穢れに触れても憑りつかれることはない」
「そうなのか。歌詠みも同じか?」
「歌詠みも、そうだね。強い前向きな感情を持っていれば、憑りつかれにくい。でもそもそも歌詠みの力がある限り、穢れは憑かない」
「ということは、歌詠みの力を使い切って疲弊していると……」
「その状態はとても危険だ。穢れに憑りつかれやすくなるし、場合によっては憑依されかねない」
「憑依?」
「うん。歌詠みになれるのはどんな人か覚えているかい、湊」
「えーと、代々が歌詠みの家系、百人の言霊使いと縁がある家系、神職・陰陽師など神との関わりを持つ家系の者、だろう?」
「そう。歌詠みに選ばれる者は元々、他の人に比べ隠世に近い場所にいる。だから歌詠みの力が弱まると、そこに穢れが入り込んでしまうんだよ。それが憑依だ。
憑りつかれても、穢れはさっきみたいに黒い靄の形でその人間にまとわりついている。対して憑依されると、穢れはその人の中に入り込んでしまう。つまり、見た目では穢れに憑かれていると分からない状態になるのが憑依なんだ」
「うわあ、それは困るな」
「だから歌詠みはその力を使い切るわけにはいかないんだよ」
「なるほどな。もし憑依されたらどうしたらいいんだ⁉」
「憑依されたら言動がいつもとは違うだろうからそれで判断して、後はいつも通り、祓えばいい」
「じゃあそこまで心配しなくてもいいのか」
「でも歌詠みが穢れに憑依されるなんて不名誉なことであるし、何より憑依されている時はその人の負の感情が増幅される。本人が普段は隠しておきたい感情もむき出しになる。その感情を他の歌詠みや言霊使いに知られることは……恥ずかしいことでもあるよね」
「そうか……。それは確かに嫌だな。俺、やらかしそうだから気をつけよう」
そんなことを話していると、公園に着いた。
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