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完結●歌詠みと言霊使いのラブ&バトル  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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防御結界

チリン。


風鈴の音に俺は目を開けた。


少し、寝ていたか。


小町と姫天皇ひめみことに抱きつかれ、鼻血を出してひっくり返った後。

二人は反省し、巡回に出た。

小町は念のためと防御結界を展開して出て行った。

床が青白く光っているのは結界のせいだった。


しかし夏休み初日の朝がこんなことになるとは……。


俺はため息をついた。


鼻血、とっくに止まっているよな。


俺が上半身を起こすと、部屋に紫がいた。


驚きよりも昨日の怪我のことが気になった。

顔をよく見る間もなく、紫は姿を消してしまったからだ。


でも頬は綺麗な桜色で、昨日の傷はすっかり癒えていた。

姫天皇ひめみことがちゃんと治癒したと分かり俺はホッとした。


「怪我は大丈夫だったんだな。良かった。……あと、昨晩は助けてくれてありがとう」


そう口にすると、紫は一瞬目を見張り、そして綺麗な二重の瞳を伏せた。


そしてぶっきらぼうな調子で俺に尋ねた。


「自分は言霊使いとして当然のことをしたまでだ。……今、大丈夫か?」


「う、うん」


鼻にティッシュが詰まっているのを取りたかった……。


あるじがこれを、湊に渡すようにと」


紫が一冊の古い本を俺に差し出した。


表紙には『図解 結界の基本』と書かれ、付箋が何枚か貼られていた。


俺が受け取ると


「昨晩のこと、あるじも心配していた。一日に二回も呪魂じゅこんに、しかも昨晩は大将クラスの呪魂まで現れた。主は午前中は所用があり、午後にならないと湊に会えない。だからこの付箋の結界のはり方を小町に習う様にと……」


そう言うと紫は何かを探るように周囲を見た。


「小町と姫天皇ひめみことは?」


「あ、巡回に出ている」


「……なるほど。だから防御結界が……」


紫はため息をついた。


「大将クラスの呪魂じゅこんにはこんな結界では役に立たない。自分から言えることは二つ。湊、お前が巡回を言霊使いにさせて、穢れから人々を救おうとする心意気は素晴らしいと思う。


だが、もっとお前自身も大切にしろ。お前はまだ歌詠みになって日が浅い。無理に巡回に出さず、言霊使いはそばにおいておけ。


そしてもう一つ。言霊使いを甘やかすな。小町は久々の現出と言っていたが、現出したからには、特に防御のステータスなら、全力であるじを守る必要がある。こんな防御結界ではなく、もっと強力な防御結界を展開するよう、お前自身もちゃんと小町に言う必要がある」


正論だった。

蒼空が自分の切り札という意味がよく分かる。

紫は美しいだけではなく、強く、そして賢く、聡明で、非の打ち所がない言霊使いだった。


「……確かに紫の言う通りだ。俺がしっかりしなきゃいけないな」


俺の言葉に紫は瞳を伏せた。


紫はしばらく無言で、拳を握りしめていたが、ふうっと息を吐くと俺を真っ直ぐに見た。


「小町がいないから、自分が防御結界の展開の仕方を教える」


そう言うと紫は


「空間転移結界、展開」


空間がぐらりと歪んだ。


「移動物質、再構築。レベル3。完成まで五、四、三、二、一」


俺は窓の外を見た。

さっきまで、青い空に入道雲、太陽が見えていた。

だが今は青空は薄暗く、まるで墨を流し込んだようだった。

太陽は黒く輝いている。


「湊」


紫は俺の名を呼び、本を開き、幾何学模様が描かれた円陣を見せた。


「これを今すぐ覚えろ」


「えっ……」


こんな複雑な模様、今すぐ覚えるなんて……。


「常識に囚われるな。湊、お前は歌詠みだ。歌詠みの力がある。自分を信じろ」


迷いのない真っ直ぐな眼差しで紫は俺を見て、頷いた。


俺は円陣に目を落とした。


左上から唐草模様のような図形が描かれて……。


その瞬間、幾何学模様が紙から浮かび上がり、青白く輝いた。

目を動かし、模様を追うと、光が消え、やがて図形は元通り紙の上に収まった。


俺は目をパチパチさせた。


なんだ、今のは……。


紫を見た。


「覚えることができたようだな」


そう言うと、紫は俺の横に来て、背中に手を回した。


「これから外に出る。背に手を回して肩をつかめ」


俺は言われた通り、紫の肩を掴んだ。

細い肩だった。

あんな太刀をふるう肩とは思えなかった。

そして……紫からは涼やかで爽やかな香りがした。


「行くぞ」


紫は思いがけない強さで俺を掴み、屋根の上まで向かった。

そして俺の足が屋根に着くようにおろすと


「ではさっき覚えた円陣をこの空間に広げるようにイメージしてみろ」


俺は頷き、一度瞬きをしてから、空間を見つめた。


するとそこに青白く輝く幾何学模様の円陣が、その姿を現した。


「湊、集中して、こう言うんだ。『防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ』」


紫はそう言うと、腕を伸ばし、俺の左手を持ち上げ、円陣へ向けた。

涼やかで爽やかな香りが鼻をくすぐった。


「防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ」


何も起こらない。


「湊、ちゃんと集中するんだ。円陣は現出している。あとは言霊ことだまを込めるだけだ」


そう言って俺を見上げる紫の顔は、俺の顔のすぐ近くにあった。

細い首に浮かび上がるうなじが艶めいて見えた。


「湊、もう一度」


「わ、分かった」


俺は雑念を振り払うように首をふり、もう一度唱える。


「防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ」


ダメだ。


「余計なことは考えず、結界を展開することに集中するんだ」


紫の言葉に俺は深く頷いた。


紫は下がりかけた俺の腕を持ち上げようと、腕を伸ばした。

その瞬間、紫のサラサラとした艶やかな黒髪が俺の顎のあたりをかすめた。

ただそれだけなのに、とてもドキドキしていた。


「湊、もう一度、ゆっくり、集中して」


俺は一度目をつむり、深呼吸をした。


「防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ」


何も起こらず、円陣の光までも弱くなってきた。


ダメだ、紫との距離が近すぎて集中できていない。


そう思った瞬間だった。


紫が俺のそばを離れ、屋根からジャンプした。

紫の体は円陣と並行に浮かび、そして突如落下し始めた。


「えっ」


昨晩、紫が防御結界を展開した時、ガラスの板の上にいるようだった。


でもあれは結界がちゃんと展開されていたからで、結界が展開していないと、紫はこのまま落下するのでは⁉


紫の艶やかな黒髪が天に手を伸ばすように舞い上がった。


紫の瞳は閉じられていた。


助けないと、紫を――。


「防御結界、展開。空の守護神、風神、雷神、守りたまえ」


一瞬の静寂の後。


雷鳴が轟き、天空から雷神が現れた。

突風が吹き、風神が姿を現した。


そして円陣は青白く光り輝き、紫はその中央にゆっくりと足から着地した。


俺は屋根を蹴って、円陣に向かおうとした。


が。


俺は空を飛べるわけではない。

空間転移の結界の中でも、重力は正しく働いた。

つまり、俺の体は円陣の手前で落下を始めた。


すると。


「湊!」


紫の声がした。


紫は両手を伸ばし、落下する俺を受け止めるように抱きしめた。


俺はつかまれるものが紫しかなかったこともあり、紫の体を思いっきり抱きしめていた。


きつく抱きしめると、紫の体からは涼やかで爽やかな香りがさらに強まった。


美しい黒髪が俺の体のあちこちに触れた。


心臓が高鳴った。


このまま紫をずっと抱きしめていたかった。


だが、足は地面にゆっくり着いた。


主様あるじさま


小町と姫天皇ひめみことの声がした。


結界を展開した際、力を使ったので、歌詠みの印が発動したんだ。


紫がゆっくり、俺から離れた。


本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


湊の部屋の風鈴は江戸風鈴と呼ばれるガラス製で、花火が描かれています。

毎年7月になると窓に飾っているのでした。


それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう

良かったらブックマーク登録をよろしくお願いいたします。


それでは午後もお仕事、勉強、頑張りましょう!

明日、また続きをお楽しみください!

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