モテ期⁉
「あっ」
左手の歌詠みの印が円陣と同じように青白く輝いていた。
「主様!」
小町と姫天皇がすぐ横にいた。
「主様、御無事ですか⁉」
小町が泣きそうな顔で俺を見た。
「主様、なんですぐに呼んでくれないのですか!」
姫天皇が泣きながら俺に抱きついた。
二人のことを呼ぶ……。
そうか、その方法があった。
目の前の出来事で頭がいっぱいで、そのことを失念していた。
「二人ともよく戻ってくれたね」
俺の言葉に小町は
「歌詠みの印が発動したので、主様の身に何かあったのかと思い、急ぎ戻りました」
「そうなのか。……この歌詠みの印はどんな時に発動するんだ?」
「それは歌詠みとしての力を使った時です……」
小町はそう言うと周囲を見渡し
「これは四神の守りを使った防御結界ですね。防御ステータスの言霊使いでも、難易度が高い結界です。結界を展開しながら同時に四霊獣を召喚するのですから。まさかこれを主様が歌詠みの力で展開したのですか?」
「まさか。これは紫が」
「紫がいるのですか?」
俺は西の方角を指さした。
「あそこで戦闘をしている。そうだ、姫天皇、紫は怪我をしている。治癒を頼めないかい?」
「えーっ! 姫天皇は主様の言霊使いです。主様を守るためにおそばにいます!」
「いや、ここには小町がいるし、防御結界もある。紫を助けてくれ、頼む、姫天皇!」
「むう。仕方ないですね。戻ったら抱きしめてくださいますか?」
「ああ、分かった」
すると姫天皇は目を輝かせ、次の瞬間には姿が消えていた。
ふわりと良い香りを残して。
「主様、なぜ白虎は戦闘に加わっているのでしょう?」
小町が西の方角を見て呟いた。
俺には戦闘が起きているとは分かるが、白虎はもちろん、紫も呪魂の姿も見えなかった。
だが、小町には見えているんだ……。
「紫は怪我をしていたんだ。呪魂の狙いは俺だ。俺のために血を流して戦う紫を助けたいと思った。それで白虎に紫を助けるよう声をかけてみたんだ。そうしたら歌詠みの印が輝いて……」
すると小町は手をポンとして微笑んだ。
「主様、それですよ。歌詠みも言霊使いも、想いを込めた言葉が力の発動につながります。白虎を動かそうと声を出した時に、主様の歌詠みの力が発動し、白虎は紫の元へ向かった。と同時に歌詠みの力が発動したことが私たちに伝わり、主様に何か起きた⁉と、駆けつけることになったのです」
「そうだったのか……」
ほどなくして、紫、姫天皇、白虎が戻ってきた。
「紫、大丈夫か⁉」
俺がそう尋ねるや否や姫天皇が抱きついてきた。
「主様、怖かったです~」
戻ったら抱きしめると約束していた。
俺は姫天皇をぎゅっと抱きしめた。
「主様……♡」
紫はすっと俺から視線を逸らし、小町を見た。
「私は結界を解いて主の元へ戻る。後は、大丈夫だな?」
「はい」
小町が頷くと紫は
「防御結界解除。四神の守りを解く。……白虎、ありがとう」
結界も四霊獣も姿を消した。
足元の円陣が消え、俺は落下する、と思ったが、そのまま宙に浮いていた。
「主様、私たちは重力に関係なく動けるので、大丈夫ですよ」
小町が微笑んだ。
姫天皇が抱き着いているから落下しないのか……。
そうだ、紫は……。
紫の姿はもうなかった。
助けてくれてありがとう、その一言だけでも伝えたかったのに……。
◇
翌朝。
俺は寝返りを打ち、腕が弾力のある柔らかいものに触れ、目が覚めた。
え……。
俺の横に小町の寝顔があった。
驚き、上半身を起こすと
「主様……」
腰に両手を絡めてきたのは姫天皇だった。
こ、これは……。
左に小町、右に姫天皇。
俺は三人で川の字になってベッドで寝ていたことに気づいた。
◇
朝食の後、俺は二人をベッドに正座させた。
「小町、姫天皇、二人とも睡眠は必要なのか?」
俺の問いに小町が答えた。
「睡眠は必要ありません。ただ、寝ようと思えば寝ることはできます。寝てもかつてのように疲れがとれるとか、脳で記憶の整理を行うとか、そういうことをするわけではありませんが……」
「なるほど……。でも横になると楽とか、そーゆうのは?」
二人とも首を振った。
睡眠も横になる必要もない……。
けれどベッドで横になっていた。ということは……。
「夜、このベッドで二人が休むなら、俺は来客用の布団を床にひいて寝るつもりなんだけど……」
「それなら姫天皇も主様と布団で休みます」
「だからなんでそうなる⁉」
「え、それを姫天皇の口から申せと⁉」
姫天皇の顔が真っ赤になった。
「姫天皇、お前は何を考えているんだ⁉ そ、そのもっと自分を大切にしろ‼」
「どうしてですか、主様! 姫天皇はすべてを主様に捧げたいだけなのに」
「だからどーしてそうなる⁉ 俺は歌詠みで姫天皇は言霊使いだろう。そーゆう関係じゃないだろう」
「えー、どうしてそうなるんですか‼ 歌詠みと言霊使いで恋愛禁止なんて聞いたことありませんから! きっと蒼空と紫だってそーゆう関係ですよ!」
「こら、姫天皇、それは蒼空と紫に失礼だろう!」
「だって~~」
「あのな、姫天皇、俺だって思春期真っ盛りだ。横に姫天皇が寝ていたら、自分の欲望を抑えられない可能性だってある。でもそれは肉体の欲望であって、心からの欲望じゃないかもしれない。それで姫天皇が傷つくことになるのは俺が嫌なんだ。だから俺が寝ている時に忍び込むのは禁止」
「えー、それはヒドイですよ、主様~。姫天皇は主様になら何をされても……」
「あの……」
それまで黙っていた小町が口を開いた。
「私だって主様の言霊使いなんです。どうして主様と姫天皇の二人だけで話が進むのですか⁉ 私だって、私だって……」
小町が俺に抱きついてきた。
「ちょっと、小町、あなたなんで⁉」
「姫天皇だけ主様を独占するのは見過ごせません!」
「な、だからって、小町、主様から離れなさいよ!」
「嫌ですー」
これって俺のモテ期なんか……⁉
小町と姫天皇、こんな二人に言い寄られたら……。
俺は鼻血を出してぶっ倒れた。
本日公開分を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
モテ期……死語ですかね?
ともかく二人の言霊使いからモテている湊ですが……。
それでは明日も11時に公開となるため、迷子にならないよう
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