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プロローグ

俺の体はゆっくり落下を始めた。


この高さからの落下ではどうにもならないだろう。


周囲の景色が不思議なことにスローモーションで見えた。


……鳥の鳴き声が聞こえる。


俺は背中に炎を感じた。


忘れていた。


地面に激突ではなく、炎の中に落ちて行くのか。


好きな人の顔が浮かんだ。涙がにじんだ。


でもこれは抗えない運命だ。


いつかまた、会えるよな。


俺は静かに目を閉じた。



終業式が終わったその日、俺達の高校では強制的に下校が促されていた。


それは一週間前に二年生の女生徒が、下校途中に行方不明になっていたからだ。


俺、滋岳しげおか みなとは、クラスメイトと二人、駅に向かって歩いていた。


工藤くどう 蒼真そうまはアーチェリー部に所属していて、本来なら終業式の後も練習に励んでいるはずだった。


「試合も近いのに、練習できないのはキツいよ」


部活に熱心な蒼真がぼやいた。


対して、鈴野すずの りつは元から帰宅部だったので


「蒼真さー、高一の夏だぜ。部活もだけど、少しは遊んで、忘れられない夏にしないと」


そんな軽口を叩いた。


蒼真は黒髪に眼鏡で見るからに優等生な風貌だ。


対して律は、髪が元々明るい茶色。

しかも校則がゆるいのをいいことに、片耳だけシルバーのピアスつけていた。


とても対照的な見た目なので、二人の仲がいいのは意外かもしれないが、これでも蒼真と律は幼馴染みだった。


かくいう俺はというと、黒髪だがくせ毛だった。ワックスでちょっとまとめればそれなりの髪型になった。見た目で言えば、蒼真と律のちょうど中間。黒髪で真面目そうだけど、髪型を決めていて、ちょっと遊んでいそうな雰囲気もある、そんな感じだ。


「結局さ、先生がいるのも駅までだろう。電車に乗っちゃえばその後遊びに行ってもバレないよ」


「でも律、繁華街も先生達、見回りしているらしいよ。なんでも失踪した女生徒が最後に目撃されたのが、繁華街だったらしいから」


俺の言葉に律は「えー、そうなのー」と残念そうな顔をした。


「律、一応、僕達は進学校で制服も分かりやすい。あまり目立つことしない方がいいよ。だいたい律の親父、僕らの学校の理事だろう。バレたら大目玉食らうぞ」


蒼真の言葉に律は


「そうなんだよ。この制服のネクタイ、ださすぎ。ズボンの色も、ありえないから」


制服の話に反応した。


律がそう言いたくなる気持ちはよくわかる。


俺たちの制服は、白シャツに赤のネクタイ、青色のズボンで、とにかく目立った。

しかも、かっこつけるにもかっこつけにくい色の組み合わせだった。


そんなことを話しているうちに駅についた。


自動改札を通るため、カバンの中に手を入れ、俺は愕然とした。


「どうした、湊?」


固まる俺を律が見た。


「……スマホ、忘れてきた」


「え、マジ⁉」


「忘れたって、学校にか?」


蒼真の言葉に俺は頷く。


駅から学校まで歩いて二十分かかる。

明日、学校があるなら面倒なので取りに行くことはなかった。

だが、明日からは夏休みだ。


仕方なく俺は学校へ戻った。



帰宅する生徒たちと逆流して学校に戻ると、すでに門は閉じられていた。

俺は裏門の方に周り、破れたフェンスから校舎へ入った。


学校の敷地に入れたはいいが、校舎には入れるだろうか……。


鍵がかかっていたら仕方ない。職員室で事情を説明するしかないな。

俺は下駄箱がある昇降口へ向かった。


すると。


「おい、何しているんだ」


体育教師の高松に呼び止められてしまった。


うわぁ、一番面倒な奴に見つかってしまった。


俺は仕方なく、素直にスマホを忘れたことを告げた。


「仕方ないな。さっさと取りに行くぞ」


意外にも高松は俺の言葉を受け入れ、昇降口の鍵を開け、中に入るように促した。


「そっちの来客用のスリッパでいいから」


上履きを出そうとする俺を制し、奥の来客用のスリッパが置かれているシューズボックスへ連れて行った。


俺が靴を脱ごうとした時だった。


ぐらっと空間が歪んだように感じた。


なんだ、今のは⁉


俺は隣の高松を見た。


「えっ…」


高松の姿が消えていた。


俺は周囲に目を走らせたが、高松の姿はなかった。


……!

なんだ、この振動は……。


ものすごく重量感があるものがぶつかり合った際に起こる振動が、まるで波動のように広がり、俺はそれを全身に感じているようだった。


……!


鋭い金属音も聞こえる。

校庭の方だ。

俺は校庭の方へ向かおうとしたが、体が重く、足が上がらなかった。


な、なんなんだ⁉


目を凝らし、昇降口の開いているドアから校庭の方を見ると……。


空が奇妙な色に変わっていた。

茜色の夕空に墨を流し込んだような不思議な色合い。

さらに信じられないぐらいの大きさで月が見える。

クレーターが赤い影となって見えていた。

そしてその月に照らされ、人影が動くのが見えた。


すごい速さだった。

しかもあの跳躍力。

人間技とは思えなかった。


その時だった。

視線を感じた。


人影はかなり遠い。

ここからではその人影は、ただの黒い影のようにしか見えない。

が、明らかに、こちらを、俺を見ているように感じた。


次の瞬間。


何が起きたか分からなかった。


気づいた時には昇降口の扉が吹き飛ばされ、目の前に黒い靄に包まれた男の顔と槍が迫っていた。


本能的に感じた。


殺される、と。


「どけ!」


短く女性の声がして、俺は思いっきり突き飛ばされた。


ものすごい勢いで廊下を転がり、階段にぶつかり、そして廊下に転がった。


全身に痛みを感じ、額から血が流れているのを感じた。

必死に目を開け、体を起こそうとした。

だが、体は動かない。目だけが、かろうじて開けることができた。


眼前には黒い靄に包まれた直垂ひたたれ姿の男と、甲冑を纏った女が、槍と太刀で戦っていた。


鋭い金属音が響き、さっき感じた振動が何度も伝わって来て脳震盪を起こしそうだった。


女がものすごい勢いで太刀を振り下ろすと、これまでにない振動が伝わり、俺はまたも廊下を転がった。


再び全身を激痛が襲った。


目をこじあげると、男と女の姿は消えていた。


「大丈夫ですか?」


優しい声音の方に目を向けると、十二単姿の女性がいた。

とても綺麗な人だった。


「……怪我をされていますね」


そう言うと俺のそばに座り、自分の膝に俺の頭を載せ、額に手をのせた。


よく聞き取れなかったが、何か言葉を囁いていた。

すると額がじんわり暖かくなり、淡い光が見えた。


俺は目を閉じた。


続けて女性は俺を包み込むように抱き上げた。

額の時と同じように全身が暖かくなり、淡い光に包まれたように感じた。


「さあ、もう大丈夫ですよ」


その言葉に、俺はさっきまで感じていた全身の痛みがピタリと治まっていることに気づいた。


……!


だが、またもや振動に襲われた。しかも連続だ。


俺は遂に脳震盪を起こしたようで、気を失った。


この投稿を発見いただき、ありがとうございます!

そして本文を読んでいただき、心から感謝の気持ちでいっぱいです。


投稿作品としては4作目となります。3作品目の投稿作品と同時進行中です。


バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり

恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。

仲間との友情も描かれています。


全67話で、初となるお昼の時間帯、11時に数話ずつ公開していきます。

ぜひブックマーク登録いただき、継続してお読みいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!!

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